ぐつぐつと、いろいろな具材を煮込んだ鍋を囲み、みんなでつつく「おでん」がおいしい季節になりました。全国に目を向けると地域によっての特色があり、味も千差万別。故郷の味一択か、注目を集めるものを食べるのか。あなたの身も心もあったかくなる「おでん」はどれですか?
好きな「ご当地おでん」を調査
冬将軍の訪れとともに恋しくなるのが冬の風物詩・おでん。シミシミのおでんをアツアツのまま頬張る。この瞬間こそ至福の時ではないだろうか。
毎年2月末に行われる「静岡おでん祭り」には昨年、3日間で20万人ものおでんファンが県の内外から殺到。こうしたイベントが全国各地で行われる昨今、地元の具材を使い、だしのバリエーション豊富な「ご当地おでん」にも人気が集まっている。
そこで今回は、全国の30代から60代までの男女300人に、好きな「ご当地おでん」についてアンケートを実施。この冬、食べてみたい日本の国民食“おでん”の人気ナンバーワンを調査。あなたが食べたい「ご当地おでん」は、いったい何位にランクインしている?
15票で5位に選ばれたのは、昆布で取っただしをしょうゆ仕立てにした「新潟おでん」。ほかではあまり入れないお麩や里芋などの具材を入れることでも知られている。
「中でも魚肉と山芋、でん粉、卵白などを混ぜて蒸し、その後油で揚げている新潟おでんの『しんじょう』は絶品です」
そう話してくれるのは“おでん氣ですか?”があいさつフレーズの「日本おでん協会」代表の鈴木ひろみつさん。それにしてもなじみの薄い「新潟おでん」がなぜ、5位にランクインしたのか。
「2月22日を“おでんの日”にしたのが新潟の『越乃おでん会』のみなさんです。おでんに息を吹きかけ冷まそうとする“ふーふーふー”が由来といわれ、2007年に制定されて以来、おでんで新潟を元気にしようと、これまで活動してきました。そうした取り組みもあって、人気が高まったのではないでしょうか」(鈴木さん、以下同)
シメに新潟のご飯にだしをかけて食べる「おでん茶漬け」もなかなかオツなもの。機会があれば、ぜひ舌鼓を打ってほしい。
4位に選ばれたのは、22票を獲得した濃厚みそが味わい深い「名古屋おでん」。調理法は、八丁みそなどの豆みそのだしでグツグツ煮込む方法。そしてもうひとつは、しょうゆベースのおでんに調理みそをかける方法がある。
飲食店では、煮込むパターンの「名古屋おでん」を存分に楽しむことができる。
「八丁みそや三温糖などで作る甘辛い汁が、豚もつや牛すじ、焼き豆腐、大根、角麩に染み込んだときに味わうことができる独特の風味と香り。それが『名古屋おでん』の醍醐味でもあります」
3位は37票を集めた、だしの上品さが際立つ「京都おでん」。
京料理の基本である昆布と薄口しょうゆの汁(つゆ)の上品な合わせだしを使って、豆腐やひろうす(がんもどき)、湯葉などの豆腐類をはじめ、聖護院大根、海老芋などの京野菜をほんのりと味つけ。
竹串に具材が刺さっているユニークなおでん
はんなり品格を感じる優しいうまみ、洗練された味わいが特徴だ。汁が濁らないようにコトコト煮る繊細な仕事ぶりや、一品料理のような盛りつけを楽しむこともできる。
「具材(おでん種)の切り口に切り込みを入れ、味の染み込みをよくする『隠し包丁』の技術に裏打ちされた、和食文化の巧みな技が生かされており、京都の格式と伝統を感じさせるおでんです」
ここでトップ5に入らなかったものの、気になる「ご当地おでん」を紹介しよう。
6位にランクインした「金沢おでん」は、昆布や魚介からとった塩風味のだしでほんのりと甘く優しい口当たりが特徴。
具材は地元・金沢の食材を使うのがルールとか。カニの殻に身やみそを詰めたカニ面やバイ貝などの海の幸、車輪のような形をした車麩や源助大根などの加賀野菜も入っているのが彩り鮮やかな「金沢おでん」の魅力だ。
「さすがは加賀百万石。金沢の近江町市場へ行けば豊富な食材があふれており、通年おでんを楽しめるのが『金沢おでん』の醍醐味です。実は金沢は“冷やしおでん”発祥の地でもあります」
夏場になるとどうしても売り上げが落ちてしまうおでん界の救世主になる可能性も十分にある!?
同票数を集め、6位に選ばれたのが真っ黒いスープが目を引く「静岡おでん」。
濃口しょうゆがベースのスープに、牛すじや鶏肉からとっただしを継ぎ足しているからどんどん色が濃くなってしまうが、見た目は真っ黒でも味はあっさりしている。
「竹串に具材が刺さっているのも『静岡おでん』のユニークなところ。イワシやサバといった青魚を丸ごとすり身にしてゆでた黒はんぺんなども美味。イワシの削り節やカツオ節などを混ぜただし粉と青のりをかけて食べるのが、静岡流でもあります」
生姜みそが決め手の「青森おでん」は9位にランクイン。青森から北海道へ渡る青函連絡船の乗客を温めるために、カツオと昆布からとったシンプルなだしの上から生姜みそをおでんの上にかけたのが始まりといわれている。
専門家の「推しおでん」
「にんにくの国内生産の90%は、実は青森です。にんにくを『青森おでん』に加えたら、さらにランクアップするかもしれません」
和風からイタリアンまで多彩なバリエーションが楽しめるのが10位に入った「三陸おでん」。青森県八戸から宮城県仙台までの三陸沿岸は、東日本大震災の影響で水産業や水産加工業が壊滅状態に陥った。
そうした中から大ぶりで焼き目のついた「ボタン焼きちくわ」などの新しい名物メニューが誕生している。
「オリジナル性と創造性を大切にする『三陸おでん』には、海産物を大切にする海バージョン、肉と野菜がメインのイタリアン風の山バージョンまで、見た目も味わいも個性豊かなのが特徴。ぜひ地元で、食べ歩いてほしいですね」
同じく10位に選ばれたのは、沖縄の食文化が詰まった「沖縄おでん」。だしはカツオと長時間グツグツ煮込んだテビチ(豚足)から溶け出したうまみをベースにシンプルながらもコクのある味わいが特徴。
具材は大根や玉子、こんにゃくなどの定番に加え、コラーゲンたっぷりテビチやソーセージなどの肉類、結び昆布、島豆腐の厚揚げ、さらにレタスや山東菜などの葉物野菜まで具だくさんなところが魅力といわれている。
「ソーキそばがそのままおでんになったのが『沖縄おでん』。沖縄では飲み屋さんに行ったらおでんが出てくる店も多い。泡盛文化の沖縄ではつまみにちょうどいいかもしれません」
ちなみに鈴木さんが、これから人気が出る、と推している「ご当地おでん」というと、「福岡おでん」と「北九州おでん」だそう。「福岡おでん」では魚のすり身で餃子を丸ごと1個、または半個包んで揚げた“餃子巻き”がこれからさらにバズるという。
「福岡、特に博多の屋台では、人気の高い定番具材(おでん種)といわれています。すり身はプリッとして弾力があり、中に入った餃子のあんと皮がだしを吸ってトロリとなる。その食感がたまりません」
さらに「北九州おでん」ではキャベツが入った“餅入り巾着”も人気沸騰中。福岡おでんと北九州おでん。同じ福岡県にあるこの2つを合わせるとなんと18票で、5位に躍り出る。いずれはベスト3の一角を崩すかもしれない。
朝ドラで注目の「松江おでん」
そしてもうひとつ。編集部が注目するのが朝ドラ『ばけばけ』(NHKの舞台である島根県松江のご当地おでん「松江おでん」。鶏ガラや昆布とカツオ、島根特産のトビウオ(アゴ)などを使う味わい深いだし。
地元の黒田セリや春菊といった葉物野菜をシャキシャキした食感で楽しむことができるのも人気の秘密だ。
ドラマの舞台になった松江大橋界隈には「松江おでん」の名店が軒を並べている。
聖地巡礼で訪れるファンの間で話題になる可能性は十分にあるので、要チェック!
さて激しいトップ争いを繰り広げた結果、惜しくも52票で2位となったのがすじの串の煮込みが絶品の「大阪おでん」。だしの基本は昆布とカツオ。薄口しょうゆを使ったあっさりとした風味で、だしの色は淡く透き通った色みが特徴だ。
「大阪おでん」の代表的な具材といえば、何といっても牛すじ、タコの足。そして脂肪分が多く、甘みのある味わいが特徴のくじらの舌「さえずり」と、くじらの皮下脂肪を鯨油で揚げたモチモチした食感が楽しめる「コロ」だ。
「関西生まれの牛すじは今や人気の具材として必ず上位に名前が挙がる一品。それに比べて東京生まれのちくわぶは、関西のだしとはマッチせず、見栄えがしないため、大阪では受け入れられませんでした。やはり、食い倒れの街、大阪のプライドが許さなかったのかもしれませんね」
そして2位と10票差の62票で1位に輝いたのは、カツオだしに濃口しょうゆ、酒、みりんや砂糖で甘辛く味つけをした色が黒くて不透明な「東京おでん」!
代表的な具材は、小麦粉と塩が原料で煮込むとムッチリとした食感が楽しめる「ちくわぶ」。
濃いめのだしとの相性は抜群だ。このほかには、白身魚のすり身に卵白や山芋を加えた練り物「はんぺん」やイワシなど、魚のすり身が原料の練り物「つみれ」などがよく知られている。
おでんのルーツとなった具材
「煮込みおでんは、東京から広がり各地で進化を遂げていったわけですから、1位は納得のいくところです。海に囲まれたこの国、日本ならではの地域に根ざしただしと地元の具材を使ったバリエーション豊富なおでんは、日本が世界に誇るグローバルにしてローカルな“具ローカル”フードとして世界文化遺産に登録されても不思議ではありません」
このところ、「ご当地おでん」の東京進出も活発になり、いずれは日本が誇る“鍋メニュー”の王様として、世界進出する日が来るのかもしれない。
おでんのルーツと人気の具材は?
そもそもおでんのルーツは古く室町時代に流行した拍子木形に切った豆腐を竹串に打って焼いた「豆腐田楽」。
諸説あるが、江戸時代にはファストフードとして江戸庶民に愛され、やがて明治時代には汁気の多いおでんに進化。それが大正時代に伝わったといわれている。
今や国民食となった「おでん」。その中でも一番人気の具材として君臨するのは、やはり「大根」で、特においしいのは繊維が細くて糖度の高い冬大根。12月から2月まで、まさに今の時季が食べごろ。
次に高い人気を誇るのが「玉子」。煮たばかりの固ゆでを食べるもよし、半熟を楽しむもよし、最後に黄身をだしに溶かして飲むもよし。おでんの「玉子」は実に奥が深いといえる。そして関西風のおでんでは不動の人気を誇る「牛すじ」が3位に続く。
4位、5位には、だしがジュワッと染み込んだ油揚げとトロリとしたお餅の組み合わせが絶妙なハーモニーを奏でる「餅巾着」。そしてフワフワとした食感、タンパク質が豊富で低脂肪な、女性に人気の「はんぺん」が続く。
取材・文/島 右近
