この時期になると、ニュースでも報じられるのが「お受験」の模様。また、進学先を考える親たちにしてもスタート時期だ。有名私立学校への進学を願う親たちに寄り添ってきた中島薫里さんに、昨今のお受験の信じられないエピソードを伺った─。
無料のお茶やお菓子をひとり占めるケースも
わが子に最善の教育を!と願うのは、万人共通の思いだろう。「孟母三遷」とは子どもに立派な教育を授けるため、3回も引っ越しをした孟子の母親の教えを指す中国の故事であるが、現代の日本、それも東京を中心とした都市部において、「お受験」における異例の事態が起こっているのだとか。
「お受験界の最強コーディネーター」として相談が引きも切らないという、「英国式エリート幼児教育アカデミー」主宰の中島薫里さんに、トンデモ親たちの驚愕エピソードと、早期教育の神髄に迫った。
私立校の場合、建学の精神や教育方針・内容、エスカレーター式であるか否かなど、各校のユニークかつオリジナリティーあふれる教育内容が最大の特色だ。
校則も学校ごとに違うが、それらに従うことを大前提として入学するもの。さらには公立校と違い、学費のほかに寄付金を求められることも織り込み済みでもある。
「ほんの10年、いえ、数年前までは、私立小中学校などのお受験を考えるご家庭というものは、世間一般のそれなりの常識を持ち、校風が選択基準、というのが当たり前でした。私たちは各ご家庭の志望校に沿った面接やお子さんの指導をしていればよかったんです」(中島さん、以下同)
けれども今、お受験界を取り巻く環境は大きく変わったという。
「近年目立つのは、外国人の方の入学希望者です。外国人のお子さんは数か国語を話せたりと、発達が早い子が多いのも事実。子どもの学力は適切な指導をすれば伸びますから、難関校に合格できる可能性は高くなります。
しかし……、親御さんがひどいんです。学校説明会に近所に買い物に行くような服装で来るかと思えば、会場で知り合いに会うと場所もわきまえずに大声で母国語で話す始末。また、説明会で無料で提供されるお茶やお菓子をひとり占めしたりするんです。お子さんではなく、親が、ですよ……。
また、面接の試験会場で子どもが騒いで床に寝転がっても注意はしません。学校側はもちろん、他の親御さんたちもあぜんとしていますね」
合格し、入学したとて彼らが変わるわけではない。
世界中の伝統校で増えつつある
「多くの私学では、児童たちに学校指定のキッズ携帯のみ所持を認めているのですが、彼らは平気で校則を破り、最新機種のスマホを持たせてきたりするんですね。学校側が注意すると『このほうが性能がいいから』などと言って反省しないとか。
また、これ見よがしに全身ブランドもので学校に来たり、高級車で来るものの駐車のルールを守らない。それなのに寄付はまずしないそうです。学校側もほとほと困っていると聞きますね」
そんな彼らがなぜ、子どもたちを日本の私立に入れたがるのかというと……。
「子どもが日本の学校に通っていれば日本の不動産を購入しやすいから。また、私立には政財界の子どもたちも多く通っているので、そうした方とのコネクションづくりに利用しているそうですね。もっともこれは日本に限ったことではなく、世界中の伝統校で増えつつある流れだそうです」
近年はSNSに振り回されすぎている親たちも多いという。
「『うちの子は塾に行かず特別なことはしないのに有名校に入りました!』なんて発信を鵜呑みにして、本当に必要な情報を集められなかったりと結局うまくいかず、私のところに泣きついてくる方もいます。
そういった、『偶然うまくいった』話は相当盛られた自慢話ですから、私たちのようなプロが持っている本当の最新事情にはかなうわけがありません」
また、子どもたちより自分たちのSNS発信のほうが大切なのでは?としか思えない親たちも増えた。
「これはお子さんを有名幼稚園に通わせていた、インフルエンサーのお母さんの話ですが、『(娘の)◯◯ちゃんと習いごとへ♪』といった投稿で、そのお子さんの幼稚園の制服がわかるように出していたんですね。こちらの幼稚園は過度な露出を禁止していますし、そもそも防犯的にもまずいでしょう」
また、親子面接に、流行りのぴったりしたスーツにツーブロック、これ見よがしの高級腕時計……という姿で現れる父親もざらにいるとか。
「そういう方はお子さんの教育方針より、聞かれてもいないのに、とにかくご自身の成功話ばかり語ってしまうそうです。当然、不合格のようですけどね。
あと、代々卒業生だというご家庭でも、成績などの理由でお子さんが不合格ということもあります。それに対し激高して『どうしてうちの子が落ちたんですか!! 理由を教えてください!!』と抗議に来る親御さんもいるようですよ」
自分たちだけがよければいい、とにかく自慢をしたい、という人たちが増えたような気がする、と中島さんは語る。
お金があれば『いい学校に入れる』と思っている人も
「SNSの影響でしょうね。このように、わが子を名門校や有名校に合格させ、子どもの『人格』や『人生』ではなく、親の成功・承認・ブランド価値を見せびらかしたい。いわばトロフィーワイフならぬトロフィーチャイルドが欲しいのでしょう。
あと、お金があれば『いい学校に入れる』『お受験のプロに頼めば自分たちは何もしなくていい』と思っている方たちも多い。急須でお茶を入れたことがないというお母様や、『書き方が変で(中島さんに)怒られたら怖いから』と、用意すべき書類を記入してこなかった方もいました」
「マネーロンダリング」は、言わずと知れた「資金洗浄」のことだが、お受験界では親の「学歴ロンダリング」なるものが行われているという。なんとも恐ろしい響きだが……。
「誤解を恐れずに言いますが、私立名門校のお受験にコネはあって当たり前です。ここでいうコネとは両親、祖父母、曽祖父母の代からその学校に通っていたり、兄弟姉妹が在学しているなど、すでにその学校に、そのご家庭のことを知っていただいているということです」
私学が最も嫌がるのは、学費の未納や「モンスターペアレント」だ。
「そのため高額の学費を、小学校から大学までだったら最大16年まで支払うことができ、校風や伝統を理解して学校の方針に従って子どもを通学させる家庭であることがわかっていれば、極端な話、学力は『後からついてくればよい』のです。
また、寄付をお願いした際に、快く応じてくださる方とそうでない方のお子さんが同点だったら、寄付をしてくれそうな、つまり収入の多いと思われるご家庭を合格とするのは自然ではないでしょうか。その基準のひとつが、親御さんの職業ですが、そこに加味されるのが親御さんの学歴だったりもします」
それを踏まえて、自分は叩き上げで財を成し、子どもを名門校に入れたいが、学歴が……と感じる親たちが行う奥の手が、「学歴ロンダリング」だという。
「学部入試より倍率が低く、比較的簡単に入学できるとされる有名大学の大学院や通信学部を卒業し、最終学歴を上書きすることで、子どものお受験を有利にしたいという考えです。また、妻であるお母様に関連会社の形だけの社長職や、『〇〇コーディネーター』という肩書をつくったりしますね」
「孟母三遷」とは程遠いようだが、涙ぐましい努力には敬服する……。
冷静かつ真剣に考えてほしい
「私たちは、お子さんの未来のためのお受験が、親のエゴになっているという悲しい現実にも直面します。
有名人が子どもをインターナショナルスクールや、早いうちから海外の学校に進学させるケースが増えたせいか、『子どもをインターに通わせている』『留学させている』ことがまるでファッションであるかのように勘違いする親御さんがいるのも事実です。特に、インターナショナルスクールの多くは日本が定める一条校とは違います」
「一条校」とは、日本の学校教育法第一条に定められた、国が認める正式な「学校」のことだ。インターナショナルスクールは、「各種学校」扱いとなるため、義務教育を終えたことにならない。
「近年増えているインターナショナルスクールは、名門私立小学校より簡単に入学できますが、日本語による授業が行われないため日本語の読み書きができず、かといってネイティブ同様の英語力が身につくかといえば、それは非常に困難。
後悔したときにはすでに遅く、慌てて日本の私立に編入しようとしても、それに対応できる学力はなく、公立へ通うには親のプライドが許さないという方も」
高額にはなるが、安易に海外留学をさせるのも考えものだ。
「日本の有名私立を落ちたお子さんたちの親御さんが、こういったインターナショナルスクールや海外留学を安易に選んだ結果だったりします。運営資金確保のため、海外で簡単に留学生を受け入れる伝統校には語学の補修クラスがあるんですよね。
一応英語は話せるようにはなるでしょうが、その学校のレベルについていっているのか、というのは疑問視されるところです。このように、インターナショナルスクールや早期の海外留学で英語教育を重視され、日本語を自由に使えない、さりとて英語もネイティブ並みには話せない人たちは『ダブルリミテッド』と呼ばれています」
どのような環境に子どもを置くべきか、先々のことまで念頭に置いて、真剣に考える必要があるのは言うまでもない。子どもたちは社会の宝であり、どんな子どもも自分らしく幸せな人生を歩む権利がある。それを支えるのはわれわれ大人だろう。
「私が目指す教育とは、品格とグローバルな知性、語彙力に加え、心の知性を育み、思いやりのある子どもに育てることです。そのためにはご家庭、お子さんに合った環境=学校選びが必須です。お受験を希望する方は、いま一度、真の教育とは、お子さんへの愛とは何かを、冷静かつ真剣に考えてほしいと切に願っています」
※プライバシー尊重のため、家庭が特定できないよう、事例に変更を適宜加えています
取材・文/三尋木志保
中島薫里さん なかじま・かおり 「英国式エリート幼児教育アカデミー」主宰。幼児教育専門家、お受験コンサルタント。英国で教育を学び、2007年より幼児教育に携わる。英国式教育と世界基準の教育理論をもとに、3900人以上の指導実績、9000件以上の教育相談実績を持つ。家庭における「知性・品格・美意識」の育成に定評がある。
