横浜市 みなとみらい地区

「街の美化」や「受動喫煙防止」という誰もが反対しづらい大義名分の裏で、行き場を失った喫煙者たちが街の片隅へと追いやられている。そして今、そのしわ寄せは非喫煙者をも巻き込んだ大きなトラブルへと発展しつつある。

 昨年12月10日、横浜市の山中竹春市長は、市内全域での路上喫煙禁止に取り組む意向を表明した。2027年に同市で開催される国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)を見据え、国内外から訪れる多くの観光客にクリーンな街をアピールすることが狙いだという。

 人口約377万人、面積438.23平方キロメートルの超巨大都市、横浜市。

 この「国際的な大型イベントに向けて、市域全体から路上喫煙を排除する」という流れは、2025年の関西・大阪万博を前に、市内全域での路上喫煙全面禁止に踏み切った大阪市と同様のものである。

 結論から言えば、先行した大阪市の現状は「大混乱」のひと言に尽きた。その惨状を見れば、横浜市の今回の決定がいかに危うい見切り発車であるかが浮き彫りになってくる。

準備期間3年、400か所整備の大阪市でも「喫煙所不足」

盛況のうちに閉幕した大阪・関西万博だったが「負の遺産」も…

  大阪市は、市内全域の路上喫煙禁止という巨大な規制を導入するにあたり、約3年という準備期間を設けた。そして、規制によって行き場を失う喫煙者のために、市が主導して約400か所の喫煙所を整備した。

 これだけ見れば立派に準備をしたように思える。しかし、規制開始から約1年が経過した現在、関西のテレビ局など複数の報道がある通り、大阪の街は悲惨な状況に陥っている。

 まず、約400か所整備したはずの喫煙所が、圧倒的に「足りていない」のだ。その大きな理由は、数字のカラクリと設置場所の偏りにある。実は、追加された喫煙所のうち100カ所以上がパチンコ店に設置されたものであり、しかも同一建物内にある複数の喫煙所をそれぞれ別にカウントしているという。結果として、本当に喫煙所が必要な場所に設置されていない「空白地帯」が多数存在しているのだ。

 そのため、ビジネス街や繁華街の数少ない喫煙所には連日長蛇の列ができ、パーテーションから人が大きく溢れ出している。昼休みや夕方の時間帯には、喫煙所に入りきれない人々が周辺の路上でたばこを吸わざるを得ない状況が常態化している。

 さらに深刻なのが、街頭の灰皿を次々と撤去したことによる弊害だ。「捨てる場所」を奪われた結果、街の至るところで吸い殻のポイ捨てが激増。それも、きちんと火を消さないまま排水溝や植え込みに投げ捨てられるケースが後を絶たない。地元住民からは「いつか大きな火事になるのではないか」「夜回りをして吸い殻を拾っているが、もう限界だ」と、悲鳴にも似た声が上がっている。

 吸う場所を確保しないままの強引な規制は、喫煙者だけでなく、非喫煙者の生活をも脅かす結果となっているのだ。

横浜市から返ってきたのは驚きの回答

横浜市役所

  それなりの予算と時間と労力をかけて準備した大阪市ですら、ここまでの混乱を招いている。対して、1年前というタイミングで「屋外の公共の場所(路上等)での喫煙の全面禁止」の決定を下した横浜市はどうなるのだろうか。市内全域での禁止は検討が進む一方、喫煙所整備の“市の直接整備”の全体像は見えにくい。

 行政課題や社会課題に関する独自調査・分析を行う政策研究シンクタンク、「プランワークス政策研究所」は、横浜市内全域で路上喫煙禁止にした場合、必要な喫煙所数を614か所と試算している。

 そこで週刊女性PRIMEは、横浜市の担当部署(資源循環局家庭系廃棄物対策部 街の美化推進課)に対し、路上喫煙禁止の実施に向けた具体的な準備状況について書面にて取材を行った。

 まず、「実施にあたっての喫煙所整備は検討しているか。予算額や設置の数的目標はどのような形か」という質問に対する市の回答はこうだ。

 《現在、市内には8つの喫煙禁止地区を設けており、喫煙禁止の実効性を確保するために禁止地区内に喫煙場所の確保(パーテーションで仕切られた開放型の喫煙所)しています。

 まずは、受動喫煙対策として、喫煙禁止地区にある、既設の喫煙所の密閉化を進めます。

 また、民間物件の空テナント等を活用し、民間事業者が喫煙所を整備する際に整備費や運営費を補助する制度を運用します。 

 現時点では喫煙禁止地区以外の場所への喫煙所を整備する計画はありませんが、既設の民間喫煙所の場所をご案内する喫煙所マップを横浜市ホームページ内に開設し、指導や案内を行う際に活用する予定です。 なお、具体的な喫煙所の整備目標数値は現在設けておりません》

 8つの喫煙禁止地区とは、横浜駅周辺地区、みなとみらい21地区、関内地区、鶴見駅周辺地区、東神奈川駅周辺地区、新横浜駅周辺地区、戸塚駅周辺地区、二俣川駅周辺地区のこと。

 市は市内全域での禁止を検討する一方、現時点で示されている直接対応は現在指定されている「8つの禁止地区内」にある既存喫煙所の改修のみ。それ以外の広大な横浜市域に対しては、「現時点では喫煙所を整備する計画はない」という。

 しかも、「現時点で整備目標数値は現在設けておりません」。つまり、どこに、いくつ喫煙所が必要なのかという全体像の把握すらしていないのではないだろうか。

《令和8年度予算額は、密閉型喫煙所の整備費や民間喫煙所整備補助(整備費+運営費)、その他の喫煙所の維持管理費、喫煙所マップ作成費などの予算として、1億6818万円を計上しています》

 民間事業者への補助金制度やマップの作成の予算は確保しているが、要するに「喫煙所作りは民間で」「吸いたい人は自分でスマホを見て探してほしい」というスタンスとも言える。

 大阪市は万博開催、路上喫煙禁止を施行する前年の令和6年度予算で約11億円の喫煙所整備事業関連予算を確保していた。大阪市が投じた多額の予算と労力に比べれば「少ない」と言わざるをえず、本気で市内の分煙環境を整えようという気概は残念ながら感じられない。

 疑問点は他にもある。

「市内全域」に規制範囲を広げるとなれば、当然、違反者を巡回して注意・指導する人員も大幅に増やす必要があるはずだ。しかし、「現在稼働している『喫煙禁止地区等指導員』の拡充は検討しているか」という質問に対し、市はこう回答した。

《令和8年度については、拡充の予定はありません》

 規制エリアを劇的に拡大する反面、巡回・指導体制の拡充予定がない。これでは、「ルールだけ作って、あとは放置」と言っているのも同然である。指導の目が届きにくい場所で喫煙が起きる可能性もあるだろう。

横浜市が昨年4月より公園を禁煙にした際のチラシ、日本語、英語バージョンの他に中国語、韓国語バージョンもあったが…

 さらに、花博を見据えているというのであれば、急増する外国人観光客への対応も必須となる。日本の複雑な喫煙ルールを知らないインバウンド客に対する周知方法について問うと、次のような回答が返ってきた。

《喫煙禁止地区内には禁止地区をご案内する看板を設置していますが、多言語表記としています。このほか、GREEN×EXPO2027開催を見据え、外国人が良く閲覧する観光情報サイトや観光情報誌等への案内掲載を検討しています》

「サイトや情報誌への掲載を検討」というが、現地で初めて知る来訪者も想定されるため、現場掲示や多言語案内の厚みが重要になる。結果的に、事情を知らない外国人観光客が路上でたばこを吸い、トラブルになる光景が目に浮かぶようだ。

市民生活のルールを大きく変える以上は

 喫煙の規制というものは、「ただ禁止すれば街が綺麗になる」という単純なものではない。喫煙者の行動心理を読み解き、適切な場所に、適切な規模の喫煙所を配置するという緻密な計画が必要不可欠だ。そう考えると、今回の横浜市の準備状況には甚だ疑問に感じざるを得ない。

 行政がやるべきは、吸う人も吸わない人も互いに快適に過ごせるよう、公費を投じてしっかりとした「分煙環境」を整備することである。

 花博は“きっかけ”に過ぎない。市民生活のルールを大きく変える以上、必要なのはスローガンではなく、実行計画と検証の仕組みだ。万博前に路上喫煙を禁止したことが大阪市の「万博の負のレガシー(遺産)」になりつつある今、横浜市が問われているのは、行政の準備の質そのものである。