柄本佑 撮影/矢島泰輔

「僕はあまり小説などを読まないというか、書店をパトロールしてジャケ買いするほうが好きなんですけど、この『木挽町のあだ討ち』は原作を事前に読んでいました。というのも、ウチの父(柄本明)が木挽町の生まれなもので。今回、オファーいただき、そんな妙縁に惹かれましたね」

 と話すのは柄本佑

「この作品だって、リベンジしたい」

 ある雪の降る夜、芝居小屋・森田座のそばで若衆・菊之助(長尾謙杜)が父親の仇である作兵衛(北村一輝)を討ち、称えられた。1年半後、菊之助の縁者と名乗る侍・加瀬総一郎(柄本)が“あだ討ちの顛末を知りたい”と森田座を訪れる。もともと菊之助は虫も殺せぬような優しい男。その違和感から菊之助に関わった人々に事件の経緯を聞いていくと、隠された秘密が徐々に明らかに……!

 公開中の『木挽町のあだ討ち』、メガホンを取ったのは源孝志監督だ。

「出会ったのは18歳か19歳。最初にご一緒したのは『京都人の密かな愉しみ』('15年〜'17年)だったかな? そこから10年以上たって、しかも主役という機会をいただいて。その歴史を考えると非常に感慨深いですし、“下手は踏めないぞ”という緊張感がやっぱりありますね」

 やや意外だが、柄本の映画主演は約5年ぶり。演じた総一郎はみんなから証言を引き出していく役割で、原作には出てこない。

「自由度が高い役ではあるんですが、“さあ、どうぞ”と言われてもある種、不自由なところもあって。ヒントになったのは冒頭に総一郎が森田座に向かうシーン。あれが初日だったんですが、テストで人波をよけながら歩いたら、監督から“いや、ここはよけずに一直線で”と言っていただき、ナルホドと思いました。総一郎は抜けているのか天然なのかわからないけど、地頭は悪くない。一人ひとりから証言を得ていく姿は、人たらしでもある。圧を加えずに存在できる人、というイメージが湧いてきました。事前に監督から“この役は刑事コロンボなんだ”と言われていたのですが、実は衣装もコロンボ色になっているんですよ

 著名な監督や脚本家から絶大な信頼を得て、現場スタッフからも愛される。柄本も、総一郎同様に人たらしなのでは?

「あ、そうですか? あはははは。自分のことなので、自分ではそうは思わないですけどね(笑)」

 あだ討ちとは言わずとも、リベンジしたいことを聞くと、

「ありますよ。この作品だって、リベンジしたいと思いますよ」

 意外な答えが返ってきた。

「取材なので、作品の魅力が伝わるように、いろいろ話していますけど。初号(最初の試写)を見るとすごく反省しますね、毎度のことです」

・角替和枝さんからの金言

 ああすればよかった、あそこに気づけなかった……そんな思いにさいなまれるのだという。

「ただ、“それがなかったらやっている意味もないよな”とも、どこかで思うんです。

 ウチの母(故・角替和枝さん)に“落ち込んでしょうがないんだよね”と言ったら、“いや、待つこととガッカリに慣れるのがこの仕事だよ”と返されて。大先輩がいまだにそうなら、当たり前かと思えて。“わりといいこと言うじゃん”って思いましたね(笑)」

 総一郎がたどり着く菊之助&森田座一座の真実には触れられないが、鑑賞後にはエンターテインメントのすごみをひしひしと感じられる。

「うん。エンタメっていいものだなって思いますね。映画だけでなく舞台もそうですけど、劇場を出たら外の景色が違って見えたり、“よし、明日も頑張ろう”と思えたりする媒体だと思うので。この作品も、誰かのそういったものになれればいいなと思います。

 今回の初号は娘と見たんです。普段はアニメを見ているから、実写作品は初めてだったと思うんですが、“面白かった〜”と言っていて。小学生でも楽しめるという実証は取れております(笑)。老若男女、年齢を問わず楽しめると思います

柄本佑 撮影/矢島泰輔

 現在39歳。30代のうちにやっておきたいことを尋ねると、

「うーん。今年が前厄、来年が本厄、再来年が後厄なので、まずはそれを乗り越えることしか考えていないかな(笑)。

 ただ、人間はどうも、“こういうところに行きたい”という目的を持つと、自然と筋道を立てていき、周りの縁もつながっていくものらしいんですね。

 僕は小学校のときから映画監督に憧れていて、卒業文集にも“将来の夢は映画監督です”と書いていて。今まで短編映画は数本撮っているんですが、それに関わってくださったスタッフの方や役者さんたちのためにも、“いよいよ長編映画をやらないとな”という気持ちではいます。別に30代のうちにとか、40代になったら、ということではなく。やれるものなら一刻でも早く! 長編映画を撮りたいです

 映画人・柄本佑の魅力と可能性は、無限大――。

瀬戸康史ファンです

 森田座の面々には渡辺謙瀬戸康史滝藤賢一高橋和也正名僕蔵ら。

「みなさん、それぞれ曲者だらけ(笑)。瀬戸さんとは初共演だったんですけど、僕はもともと瀬戸さんのファンで。共演できて、とっても喜んでいるんです。瀬戸さんは、声がいいですよ。やっぱり役者は“1声2顔3動作”といわれるぐらいですから。瀬戸さんの声には可愛らしさもシニカルさもあって、いろいろなものが含まれているんですよね。

 ふたりとも『あさが来た』('15年)に出演しているんですが、共演シーンはなくて。ただ、僕がリハーサルに行ったら、ちょうど瀬戸さんが本読みをされていて。その段階からすごく素敵でした。以来、ずっとファンです。今作では“こうしよう”といった話し合いはほぼなかったんですが、意思の疎通が早くて。僕としては、相性がいいと感じました!」

『木挽町のあだ討ち』2月27日全国公開 配給/東映(c)2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会(c)2023永井紗耶子/新潮社

ヘアメイク/星野加奈子 スタイリング/坂上真一(白山事務所) 衣装協力/HERILL(NISHINOYA)