中国の巨大大使館建設に揺れるロンドンの中心地 ※写真はイメージです

 日本社会の現状に、「遅れてる! 海外ではありえない!」なんて目くじらを立てている人もいますが……。いえいえ、他の国の皆さんも基本は一緒! そんな、「衝撃」「笑える」「トホホ」がキーワードの世界の下世話なニュースを、Xで圧倒的な人気を誇る「May_Roma」(めいろま)こと谷本真由美さんに紹介していただきます。ロンドン中心部に建設が承認された、巨大な中国大使館。反対派の掲げた「とんち」策とは!?

「ヨーロッパ人権条約」を盾に異議申し立て

 ロンドン中心部のタワー・ハムレッツ区に新たに建設される、中国の「巨大大使館」が、大きな波紋を呼んでいます。その規模は広さ約2万平方メートルといわれ、大使館としては欧州最大。しかも建設場所は、旧王立造幣局(ロイヤル・ミント・コート)跡地─日本で例えるなら皇室ゆかりの場所に他国の大使館が建設されるようなものですから、イギリス国民は大反対していたわけです。

 ところが、今年1月、8年ぶりにスターマー首相が訪中したことからもわかるように、現政権は大の親中派ですから、建設を「承認」してしまったのです。跡地は金融街のシティにほど近く、一帯では光ファイバーケーブルによって膨大な量の機密データが送受信されているエリア。

 こんな場所に中国の大使館を建てようものなら、スパイ活動の拠点として利用され、イギリスにとって安全保障上のリスクになることは容易に想像できそうなのに……。当然、野党である保守党は、国家安全保障を「中国共産党に売り渡した」と強く批判し、この問題は渦中にあるのです。

 イギリス政府が承認したわけですから、建設は止められない─と思いきや、実はそうでもなさそうなのが、この争点のミソ。というのも、タワー・ハムレッツ区議会がこの状況に「待った」をかけているんですね。もともと区議会は、建設に対し一貫して反対の立場でしたが、スターマー政権がほぼ強引に「承認」した。そこで、建設予定地の隣に住むマンションの住人たちは、「ヨーロッパ人権条約」を盾に訴訟を起こすと異議を申し立てているのです。

 この「ヨーロッパ人権条約」とは、第2次世界大戦の残虐な記憶を忘れないために制定された、世界初の人権に関する国際条約。欧州では絶対的な権限を持ちます。締約国は一定の条件下において、たとえ犯罪者でも人権保護の観点から強制送還などもできなくなります。これが現在、欧州で移民が増え続けている理由の一つでもあるわけです。

 今回はこの絶対的な効力を活用し、「建設反対運動が起こることで住人の静かな生活が侵されるから人権侵害だ」「大使館が建設されるとテロの対象になりえるから人権侵害だ」「大使館の監視カメラなどによって生活が侵害される」と住人たちは政府に抗議しようとしているのです。

 人権を盾に中国の大使館建設に異を唱えるわけですが、日本でいうならば「一休さんのとんち話」みたいですね。人権条約によって息苦しくなることもあれば、逆に風穴をあける機会にもなる。欧州にとって人権は、『北風と太陽』なのでしょう。

谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。