写真左からMEGUMI、細木数子、はるな愛

 Netflixなどで実在する日本人の半生を描いたドラマが相次いで配信されている。それらの伝記ドラマは、日本だけでなく、海外でも大きな反響があるとも。地上波テレビではできないことが、動画配信サービスで実現する裏側とは―。

Netflixのライバルは

 2月10日からNetflixで配信されている、はるな愛の半生をベースにしたドラマ『This is I(ディス イズ アイ)』が好調だ。

週間視聴ランキングで初登場1位を獲得。非英語作品のみのグローバルトップ10にもランクイン。このドラマは、自身の性別に違和感を抱えている、はるな愛さんをモデルにした青年・ケンジが、女性としてアイドル歌手になりたいという夢を叶えるため、性別適合手術を受けるなどして、自分らしく生きる道を模索しながら成長していくというストーリーです」(映画誌ライター、以下同)

 この『This is I』に限らず、Netflixでは日本の芸能人や有名人をモデルにした伝記的なドラマが多数、作られている。

これまでビートたけしさんや明石家さんまさんの半生を描いたドラマも作られました。4月からは、細木数子さんをモデルにした『地獄に堕ちるわよ』というドラマが戸田恵梨香さんの主演で配信予定です

 '27年にはインターネットテレビ・ABEMAでの配信に向けて、MEGUMIが芸能界で活躍するに至った半生を描くドラマ『グラビア』の制作も発表されたばかり。

 続々と日本人の伝記ドラマが作られているが、モデルとなった当事者は、どのように受け止めているのか。'19年と'21年にNetflixで配信された『全裸監督』で山田孝之が演じた主人公のモデルとなった、セクシービデオ監督の村西とおるさんに話を聞いた。

『全裸監督』は世界配信ということで海外からの反響も大きく、フランスやタイ、シンガポール、またNetflixが見られない中国からも取材班が多くいらっしゃいました。特にインドで見てもらえたそうです。“日本のエロス”カルチャーが国外でウケたというのは誇らしく思います

 『全裸監督』は、バブル期の日本で革新的なセクシービデオを多数手がけ、“帝王”と称された男の成功と挫折を描いたドラマ。日本でも大きな話題を呼んだ作品だが、文化的な背景を知らないとわかりづらい題材にもかかわらず、海外でも多く視聴されているという。

Netflix米国本社の幹部が“私たちのライバルは他社の動画配信サービスなどではなく、視聴者の睡眠時間です”と語っていたのが印象的でした。視聴者が貴重な時間を削ってでも見たい作品を作るという、動画配信サービス側の気概には見習うべきものがありますね」(村西さん、以下同)

 映像の仕事に携わってきた村西さんは、海外の動画配信サービスの勢いに押されぎみである日本のコンテンツ業界には危機感を覚えているとも。

地上波テレビ局が追随できない背景

今の日本のテレビは、コンプライアンスにがんじがらめになって誰が見るのか、誰のための配慮なのか、わからないような作品ばかりになっているように思えます

『全裸監督』(Netflixオリジナル)

 こうした指摘は、テレビ局でドラマ制作をしてきた側には、どう映っているのか。元・日本テレビのプロデューサーであり、約250本のアニメやドラマを手がけてきた前田伸一郎氏に話を聞いてみた。

アニメや実写ドラマ、映画の原作になるような日本の漫画は、世界でも通用する人気のコンテンツですが、最大の武器は“独創的なキャラの魅力”だと思います。そして“事実は小説より奇なり”と言われるように、最近では実話や実在の人物を描いた作品も多くなっています。これらの魅力的なキャラクターを創り出すノウハウと、実在の強烈な人物をモデルにするという日本発の企画が、特にNetflixなどの配信プラットフォームで実現され、海外でもヒットしているのではないでしょうか

 なぜ、この“勝ち筋”に日本の地上波テレビ局は追随できないのか。

スポンサーやコンプライアンスが非常に厳しくなっているという面もありますが、根本的にはマーケティング主義、つまり大ヒット漫画などの、原作がある作品を優先して企画し、大手の芸能プロダクションによる発言力の増大に伴う企画決定システムなどの影響が大きいと思います」(前田氏、以下同)

 人気漫画を映像化することは、視聴率の“見通し”が立つ一方、プロデューサー個人による“オリジナル”企画は、通りにくいという。

かつて民放各局には2時間ドラマ枠という、単発ドラマの放送枠がありました。そこでは原作のないオリジナル脚本のドラマも数多く放送されましたが、コアターゲット、すなわち13歳から49歳の視聴者層を重視するために、2時間ドラマ枠が消滅しました。ほかにもネット配信コンテンツの台頭が要因の、視聴率低下に伴う制作費の削減なども影響して、単発ドラマは激減。ますます無難な連続ドラマ中心の企画に寄りがちになっているように思えます

 前田氏は、日テレで情報番組やアニメプロデューサー職を経て、ドラマのプロデューサーとして『火曜サスペンス劇場』やスペシャルドラマを担当。'04年に放送された松田聖子が主演のスペシャルドラマ『たったひとつのたからもの』は視聴率30%超というヒット作となった。

 こうした実績があっても、局内で単発のオリジナルドラマの企画を実現させるのは大変だという。

特に思い出深いのが、'​06年に放送された、男性の身体でありながら女性の心を持った性同一性障害をテーマに企画したオリジナルドラマ『私が私であるために』という作品です。主演は、演技経験や知名度がなくても当事者自身が演じることに強くこだわりました。当事者本人の思いをゴールデンタイムの全国放送を通じて伝えたかったのです

 冒頭の『This is I』と同じテーマだが、20年前の日本は今ほどLGBTQの理解が浸透していなかった。演技の経験がない人が主演という面でも、この企画を通すのは難航を極めたという。

やりたい企画を通し続けることは、サラリーマンPには難しい

紆余曲折ありましたが、当時は2時間ドラマ枠があったおかげでスペシャルドラマとして実現。放送後、LGBTQの当事者たちから温かい感謝の言葉をもらいました。劇中で挿入歌を歌ったシンガー・ソングライターの中村中さんも、このドラマがきっかけで広く知られるようになりました。このドラマがデビュー作となった、ニューハーフタレントのたけうち亜美さんは『This is I』にも出演しています。自分のプロデューサー寿命を犠牲にしてでも放送できたことは本当によかったと思っています

Netflix映画『ThisisI』キービジュアル(公式サイトより)

 前田氏は日テレを退職後、フリーのプロデューサーに転身。昨年は『私が私であるために』で描き切れなかった題材に重きを置いて、再び性同一性障害をテーマにした舞台の企画・演出を手がけている。

自分のやりたい企画を通し続けることは、サラリーマンプロデューサーには難しい。肌感覚でいえば、志を持って自分のテーマや意思を込める“作家タイプのプロデューサー”は、業界全体で5%くらいかと。そういう人たちが地上波のテレビから、独創性こそを重んじる海外の動画配信サービスに流出している側面もあると思います

 続々と制作されてヒットを飛ばす日本発の伝記ドラマ。その裏には、映像の現場の構造的な変化が大きく影響しているようだ。

村西とおる 黎明期のセクシービデオ業界に革新的なスタイルを取り入れ“帝王”と呼ばれるように。自身の半生が描かれたドラマ『全裸監督』は世界190か国に配信された

前田伸一郎 元・日本テレビプロデューサー。アニメ・映画・ドラマを中心に約250作品を制作。主な担当作は『ママは小学4年生』『愛の流刑地』『ヤング ブラック・ジャック』など