自転車による痛ましい事故が増えている。昨年11月、熊本県で大学生が電動アシスト自転車で走行中、歩道にいた93歳の男性に気づかずスピードが出た状態で衝突。2週間後、男性は死亡した。気軽に使える生活の足が人の命を奪い、人生を一変させた。
自転車の“やりがち違反”で反則金
こうした事故を防ごうと、自転車のルールが今年4月1日から大きく変わろうとしている。「青切符」制度の導入だ。青切符とは、車を運転する人はご存じのとおり、交通違反で検挙されると渡され、反則金を支払うことになる書類だ。
これが、自転車の取り締まりにも導入されることになった。対象となる違反行為は全113種。スマホを見ながら運転、歩道を走行、傘さし運転、2台で並走など、よく見かけるものばかりだ。「みんなやってるから」と、これまでと同じ感覚で違反行為をすれば、反則金が1万2000円になることもある。
なぜ今、自転車の交通違反取り締まりが強化されることになったのか。道路交通法に詳しい弁護士の藤吉修崇(のぶたか)さんに話を聞いた。
「改正の背景としては、自転車事故の増加や、ながらスマホなどによる事故が注目されたことが挙げられます」
自転車と歩行者の事故の件数も増加傾向にある。昨年発生した自転車と歩行者の交通事故は3269件。前年から226件増え、統計を取り始めてから最多となった。そのうち約6割が歩道や横断歩道で発生している(警察庁)。
また、自転車による事故は、運転する本人にも重大な被害をもたらす。警察庁のデータ(令和6年)によると、自転車乗用中の死亡・重傷事故のうち、なんと約75%に自転車側の法令違反があった。信号無視や一時不停止など事故につながる危険性の高い違反が、全体の約8割を占めている。
こうした状況を象徴するのが、2017年に神奈川県で起きた女子大学生による、ながらスマホ事故。左手にスマホ、右手に飲み物を持ち、左耳にイヤホンをした状態で、電動アシスト自転車で歩行者専用道路を走行していたという。
「スマホを操作しポケットにしまう際に前方不注意となり、歩いていた77歳の女性に衝突し、死亡させた事故です。裁判で裁判長は『周囲の安全を顧みない運転は自己本位で過失は重大』と指摘しました。
一方で加入していた保険で被害弁償が見込まれることが考慮され、大学生には禁錮2年、執行猶予4年の判決が下されています」(藤吉さん、以下同)
事態を重くみた国は道路交通法を改正し、2024年11月から酒気帯び運転や、ながらスマホの罰則を強化。さらに大きな変化として注目されているのが、青切符制度の導入なのである。
反則金の支払い拒否で「前科」!?
「改正前は、自転車で交通違反をすると、警察官から“指導警告”されるか、刑事罰の対象となりうる“赤切符”を渡されるかの2択でした」
赤切符を渡されると、警察の捜査をもとに検察官が起訴するかどうかを判断し、起訴されれば裁判にかけられる。有罪となった場合は罰金刑や拘禁刑が科せられ、「前科」がつく。
ただ、青切符による違反手続きと比べて、違反者・取り締まり側双方の負担が大きいことから、実際には多くの違反が見過ごされてきた。
「青切符という選択肢が増えたことで、自転車の悪質・危険な行為を警察官が現場で迅速に検挙できるようになり、取りこぼしが減ることになるでしょう」
「スマホを片手に持ち」かつ「歩道走行」など、青切符の対象となる違反を複数同時にした場合は反則金の額は合算になるのだろうか。
「複数同時に違反行為をしたら、一番重い違反の反則金を支払い、合算はされません。ただ、16歳以上が対象で、高校生も含まれるため、決して安い金額ではないですよね」
反則金を期日までに支払えば刑事責任は問われない。一方、青切符を無視して反則金を支払わない場合や、事故を起こした場合は刑事手続きに移行し、最終的に起訴されて「前科」がつくおそれも。
「車を運転していると、歩行者よりも自転車のほうが信号無視や飛び出しといった違反が多く、ヒヤヒヤします。免許不要で手軽に利用できる自転車ですが、道路交通法上は軽車両と位置づけられていて、路上では車として交通ルールを守ることが求められます」
自転車が「車両」であることを意識してもらうため、2023年からはヘルメット着用が努力義務となった。また、道交法では、自転車で飲酒運転など悪質な交通違反をしたり重大事故を起こしたりすると車の運転免許を最長180日間、停止できると定められている。
従来は実際に適用されることは少なかったが、自転車による違反の取り締まり強化に伴い、実際に停止処分が行われるように。昨年1~9月は、飲酒運転を理由に全国で約900人が免許停止処分になっている。
では、実際に何に気をつければいい? 青切符の対象となる違反行為をチェック!
ながらスマホ【反則金:1万2000円】
脇見をするなどの前方不注意、特に自転車運転中にスマホを手に持って通話する、画面をじっと見たり操作したりするのは厳禁だ。周囲への注意が不十分になり重大な事故につながることから、取り締まりが強化されている。
「特に手に持つと危険性が増します。LINEの操作などもってのほか。運転中の送信履歴など出てきたら言い逃れできません。地図アプリを確認しながら運転したい場合は、スマホホルダーでハンドルに固定し、見るときは、必ず止まってからにしましょう」
実際に歩行者にぶつかってケガをさせた場合は、青切符では済まず、赤切符を渡されて刑事罰になる可能性も。
「相手を救護し、警察に報告する義務があります。相手が『大丈夫』と言っても、後から骨折が判明することもあるので、必ず警察に報告すること。救護義務や報告義務を怠ると、さらに厳しい罪に問われることになります」
青切符の対象となる違反行為
信号無視【反則金:6000円】
「車も人もいないから」と赤信号を渡ってしまうのは、立派な違反だ。
「自転車は『軽車両』なので、原則として車の信号機に従います。歩行者用信号に『歩行者・自転車専用』と書いてある場合のみ、そちらに従ってください。交差点で赤信号なら、車と同じように止まらなければなりません」
歩行者用信号で渡る場合は、自転車を降りて押せば、歩行者扱いとなり、問題ない。
歩道走行&逆走【反則金:6000円】
車道は怖いから、つい自転車で歩道を走りたくなる。しかし、自転車は「車両」なので、原則として車道の左端または自転車専用通行帯を走らなくてはならない。
歩道を走れるのは、「自転車通行可」の標識がある場所や、13歳未満の子ども、70歳以上の高齢者、一定の身体障がいのある人が運転する場合だ。また、車道が危険で「やむを得ない場合」も認められる。
「なお、歩道を走れるケースでも、あくまでも歩行者優先。歩道の中央から車道寄りをゆっくり通行しなければなりません。歩行者の通行を妨げる場合は一時停止が必要です」
また、自転車は車と同様に「左側通行」が鉄則。右側を走れば「逆走」となる。
逆走は車を運転してない人がやりがちだが、非常に危険な行為だ。車からは、逆走してくる自転車は、駐車車両などに隠れて発見しづらく、正面衝突するリスクが高い。
「同じ方向を走っていて接触するよりも、正面衝突のほうが衝撃も大きく重大事故につながりやすいことも忘れてはなりません。少しの距離でも必ず左側通行を守りましょう」
一時停止違反【反則金:5000円】
交差点や踏切の手前などには、路上に白い停止線が引いてあったり、「止まれ」の標識があったりする。こうした場所では、必ず一時停止すること。警察による自転車の違反取り締まりでは一時停止違反や信号無視が8割を占める。
「運転免許のない人は、意識したことがないかもしれませんね。実は、交差点への飛び出しは、自転車側が死亡するリスクが最も高い事故の一つです。
車とぶつかった場合、相手が悪くても痛い思いをするのは自転車側です。命を守るためにも一時停止は絶対に守り、左右を確認してから進んでください」
並走・イヤホンも罰金対象
傘さし&イヤホン【反則金:5000円】
傘さし運転や、イヤホンをして運転する行為も違反だ。
「傘は片手運転になり不安定なので論外です。傘スタンドは違反ではありませんが、視野をさえぎるようなら違反。
また、傘をさして幅60cmを超えると、普通自転車とはみなされなくなり、歩道通行が完全にできなくなる問題も。自治体によっては、傘をスタンドにさした状態で幅30cm、高さ2mを超えると違反とするところも。雨がっぱの使用をおすすめします」
関西では傘スタンドが流行中だが、今後は注意が必要だ。
イヤホンは、周囲の音が聞こえない状態が違反とされる。
「都道府県によって条例が異なりますが、両耳をふさぐ使い方は避けるべきですね」
オープンイヤー型や骨伝導型のイヤホンなど、耳を完全にふさがないケースでは、安全運転に支障がなければ違反にならない。音量の大きさや警察官が声をかけたときの反応によっては検挙される可能性もあるので注意しよう。
夜間無灯火【反則金:5000円】
暗くなってもライトをつけずに走る「夜間無灯火」。これも青切符の対象だ。
「まず、自転車を運転している自分から、歩行者などが見えづらく、事故を起こしてしまうリスクがあります。
それだけではありません。車から自転車が見えづらいという点でも非常に危険です。『自分は見えているから大丈夫』と思いがちですが、事故を防ぐために夕方は早めの点灯を心がけましょう」
2台並走【反則金:3000円】
自転車で仲良くお喋りしながら並んで走る「並走」。学生や主婦層によく見られる姿だが、これも違反だ。他の車や歩行者の通行を妨げ、接触事故につながる迷惑行為だ。
「違反した場合、並走していた二人それぞれが反則金を支払うことになります。高校生のお子さんがいる家庭では特に注意してあげてください」
二人乗り&ベル鳴らしすぎ【反則金:3000円】
ドラマや映画でもよく描かれてきた二人乗り。しかし、バランスを崩しやすくなるため、道路交通法で禁じられている。ただし、16歳以上の保護者が小学校入学前の幼児を専用シートに乗せたり、タンデム自転車ならOK!
また、歩行者をあおるようにベルを鳴らすのも違反だ。
「ベル(警音器)は、危険を防止するためにやむを得ない場合のみ使用できます。歩行者をどかすために鳴らすのは違反です」
“このくらいいいのでは”と思う違反もあるかもしれない。
「ルールは自分を守るためのものでもあります。しっかり把握しておきましょう」
教えてくれたのは……藤吉修崇さん●弁護士・税理士。弁護士法人ATB代表。YouTubeチャンネル「二番煎じと言われても」や著書『交通トラブル六法』(KADOKAWA)を通じて道路交通法なあどについて解説。
取材・文/鷺島鈴香
