万引き(写真はイメージです)

 大手スーパーなどではセルフレジによる会計が当たり前になった。客の手ですべてが完結するため、システムを悪用した万引きは後を絶たない。現役の万引きGメンが明かす手口と、万引き犯に間違われないために、私たちができることとは─。

“重ね打ち”はセルフレジ万引きの定番

 店を出たところで従業員に呼び止められたのは、札幌市在住の無職の女(58)。市内のスーパーで3月1日午後2時過ぎ、セルフレジを不正利用して“万引き”したとして窃盗容疑で現行犯逮捕された。

 盗んだのは、最も高額なサーモンの刺身(1500円)のほか、ホタテとツブ貝の刺身、シャンプーなど計8点で9174円相当。女は「生活費を使うのがもったいなかった」と容疑を認めており、1万5000円を所持していたという。

 不正の手口は、商品を重ねて持ち、上にある商品のバーコードだけスキャン。スキャナーを通していない下の商品も一緒にエコバッグに入れるというものだった。なんたるズル賢さ。

 キャリア27年目の万引きGメンで万引き対策専門家の伊東ゆうさんは、こうした手口について次のように説明する。

“重ね打ち”という手口です。“2個持ち”とも呼んでいて、両手で2つの商品を持って1つしかレジを通さない。物を隠すのと同じで、正しくスキャンする商品の陰でもうひとつの商品を盗むんです。セルフレジ万引きでは定番の手口といえます

 店舗規模やレジ数にもよるが、セルフレジコーナーには1人か2人は客をフォローする従業員が立っていることが多い。購入する商品のバーコードをスキャンすると、「ピッ」と大きな音がして商品が登録されたことが周囲にもわかる。

 無音で未会計の商品をエコバッグに入れるとさすがに怪しまれるため、このような小細工をするのだろう。ほかに、どのような手口があるのか。

「最近目につくのは“単品スキャン”ですね。例えばビールの6缶パックなどでパック用バーコードをスキャンせず、1缶ずつに印字されている単品バーコードをスキャンするんです。支払いは1缶分だけですから残り5缶分は盗まれてしまう。

 さらに“もやしパス”という手口もあります。安価なもやしのバーコードを切り抜いた“パス”を持参し、手のひらなどに隠して商品の代わりにスキャンするんです。もやしに限らず、1個売りのまんじゅうや9円の駄菓子のバーコードを悪用した“パス”もありました」(伊東さん、以下同)

 共通するのは格安商品のバーコードであること。すり替えるならば少しでも安くと考えるのか、準備を含め出来心のレベルではない。

“セルフレジ導入後に万引きが増えた”と答えた店は25%

それと“下段スルー”という大胆な犯行もあります。お米などを買い物カートの下段に4、5袋積み、その上にペットボトルの水やポテトチップスといったかさばる商品を載せる。買い物カートは、たいてい上下段ありますが、下段は盲点と思っているようです。

 下段に値段の張るお米やビールケースを入れて会計しない。こうした手口があるということを店舗の従業員教育で教えるだけで、従業員は注意するようになり、被害がだいぶ減ったりします」

セルフレジ(写真はイメージです)

 新聞やテレビのニュースなどが報じるセルフレジ万引きの事例は氷山の一角といえる。

 セルフレジは'03年にイオン傘下のスーパー「マックスバリュ」が初めて導入して以降、ドラッグストアやホームセンター、コンビニ、100円ショップや衣料品店などに広がりをみせた。非接触が求められたコロナ禍を経て、人手不足などから導入は増えるばかりだ。

 全国スーパーマーケット協会などによる'25年の「スーパーマーケット年次統計調査報告書」によると、スーパーを経営する251企業の導入率は41.7%で年々増加傾向。51店舗以上を展開するチェーン企業に限ると、店舗の半数以上に導入している企業が42.9%。半数以下で導入している企業が45.7%と、合計88.6%に達している。

 NPO法人「全国万引犯罪防止機構」の'24年度調査によると、セルフレジ万引きの被害に悩まされている店舗は想像以上に多い。

小売業265社のアンケート回答で、“セルフレジ導入後に万引きが増えた”と答えた店は25%に上りました」(同機構の担当者)

 レジ袋有料化によるマイバッグ利用増加に伴う万引き被害については、27.2%が「増えた」と回答。

 困っていることの回答では、「同じ人が何度も万引きしている」「大量窃盗を繰り返す窃盗団対策に苦慮している」「店舗の従業員が削減されているため見張ることができない」「転売目的の犯行が増加している」などの意見が寄せられ、対応の難しさが浮き彫りになった。

 一方の消費者は、セルフレジ操作でどういったことを心がけているのか。帰宅途中、首都圏の中規模スーパーで買い物を済ませた50代の女性に話を聞くと、

この店は、夜間はすべてセルフレジになるので有人レジの列に並べません。操作ミスをして怪しまれたくないのでゆっくりと丁寧にスキャンするようにしています

不正利用を防ぐ未来型システムも

 と打ち明けた。機械の操作が苦手な人もいるだろう。まごついているとレジの画面に自分の姿が映し出されて驚くこともある。悪い気など起こしていないのに、万引き犯と疑われないためにはどう操作すればいいのか。

1つずつ正確にスキャンすることです。2個持ちはダメです。レシートは持ち帰ってください。不正していないことの証明にもなりますし、購入商品と突き合わせて、もしスキャン漏れがあったら店に申し出ましょう。

 1店舗で1日に1人は“支払い漏れでした”とお金を払いにくる人がいます。漏れるのは、せいぜい1個か2個。5個漏れることはあり得ませんし、悪意か、うっかりミスかは見ていればわかります。気持ちを読むのがGメンの仕事で、動き、目つき、狙うものなどでわかるんです」(伊東さん)

「リテールテックJAPAN」で、東芝TECが参考出品したセルフレジのスキャン漏れ検知システムは見事に“重ね打ち”を封じた。レジ上部のカメラで商品の移動を捉える不正検知システム

 さて、セルフレジは将来どう進化するのか。東京ビッグサイトで3月6日まで開催されていた国内最大の流通情報システム総合展「リテールテックJAPAN」で、東芝TECがセルフレジの不正利用を防ぐ未来型システムを展示した。

 すでに商品化している「再来店検知システム」は、顔認証した万引き犯をAI搭載カメラが検知。マスクをつけて再来店しても90%以上の精度で検知できるという。

 開発段階の「スキャン漏れ検知」は、スキャナー式と値札などに内蔵したRFIDタグ(電子タグ)式の2種類があり、バーコードの一部を指で隠してスキャンを偽装すると、「確認してください」とアナウンス。

 RFIDタグのついた商品を“重ね打ち”してごまかそうとすると、「未スキャン商品」と画面に表示された。

反響によっては実証実験、商品化に進みます」(東芝TECの担当者)

 万引きは犯罪。その意識をもっと高めていきたい。

いとう・ゆう 1971年、東京都生まれ。作家、万引き対策専門家、現役の万引きGメン。国内外で延べ6千数百人の万引き犯を捕捉。著書に『万引きGメンは見た!』『万引き 犯人像からみえる社会の陰』など。万引きを未然に防ぐ店舗向けコンサルティングや講演などを行う一般社団法人「ロスプリサポートセンター」代表理事