「退職金をどのように老後資金として活用するかを考える場合、まず年金の受け取り方を検討しないと始まりません。それによって、老後の資産(退職金)活用は『上乗せ型』と『つなぎ型』の2つに分かれます」
そう説明するのは、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんだ。
老後資金の余剰分を投資などに回す
「上乗せ型」とは、65歳など退職と同時に年金の受け取りを開始し、毎月一定額を退職金から取り崩して生活資金に充てる活用法。
一方の「つなぎ型」は、年金の受給開始を遅らせ(繰り下げ受給)、その間の生活費を退職金で賄い、その後の年金収入を少しでも多くするというもの。年金の「繰り下げ受給」をすると、65歳からの受給開始を1か月遅らせるごとに毎月の年金額が0・7%増額される。最大75歳まで繰り下げることができ、この受給額は生涯続く。
「退職金の総額や年金受給額によって、どちらを選択したほうがいいかは変わってきます。月々の年金額が少なければ、上乗せ型にして生活を楽にしたほうがいいでしょう。健康に自信があるなら、つなぎ型を選択して、月々の年金額を増やしておけば、老後資金の心配が軽減できます」(山中さん、以下同)
まずは、老後の生活を確保すること。そのうえで、退職金にまだ余裕があるなら、それぞれ使い道を考えればいいという。
「例えば、5年以内に家を修繕したいとか、子どもの結婚費用に充てたいなど、使う時期が決まっている場合は、その予定金額を押さえておきます。その場合、少しでも金利のいいネット銀行の定期預金や個人向け国債などに入れておくのがおすすめ。
しばらくは使う予定がない場合は、利益や配当金に税金がかからない新NISAを活用してもいいでしょう。普通預金だと、インフレが続く現在では、現金の価値が下がるリスクがありますからね」
新NISAには、毎月一定額を投資信託に積み立てる「つみたて投資枠」と、投資信託や株など幅広い銘柄の中から自分で選択する「成長投資枠」の2つがある。
投資初心者に向いているのが前者で、少額から積み立てることもでき、長期に安定した資産運用も可能とのこと。
「退職金は、多くの人にとって人生最後のまとまった収入です。少しでも増やしたい気持ちはわかりますが、投資は損をすることもあると頭に入れておくべきです。数年に分けて、無理のない金額で投資するのが鉄則です」
医療・介護費はどれくらい配分するか
あと、老後の資金活用として考えておきたいのが、医療費と介護費だ。これらの費用は、どれくらい用意しておくべきなのか?
「医療費は基本的に3割の自己負担ですが、75歳以降は原則、1割負担に軽減されます。大病をした場合でも、医療費負担が一定額に抑えられる『高額療養費制度』が使えます。そのため、それほど心配しなくてもいいと思います。
介護費用に関しては、介護用ベッドなどの一時的に必要な介護費用と、月々の介護費用が約5年間かかったとして、合計で約540万円が必要という試算が出ています※。心配であれば、その金額に医療費を少しプラスして、残しておくといいでしょう」
医療・介護費を準備できればいいが、「上乗せ型」で退職金から月々の生活費への取り崩しが多くなり、退職金では老後資金が賄えない場合もあるだろう。妻が専業主婦で、夫が先に亡くなった場合は遺族年金が十分かどうかの心配もある。
「そんなときでも悲観せず、無理のない労働で収入を増やせばいい。まずは60歳を機に家計の収支を把握しましょう」
いろんなケースを想定して、上手に退職金を活用したいものだ。
※生命保険文化センターの調査
退職金を上手に使いたい!老後の資金運用方法
老後の生計を立てていくうえで、退職金の使い方は極めて重要になるポイント。きちんと計画して運用したい。まずは退職後の家計収支を確認したあと、「上乗せ型」と「つなぎ型」、どちらの運用法を選択するかを検討しよう。
支給年金額を確認
毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」を見れば、自身の年金記録と支給額が確認できる。月々の支給額と、現在の家計収支を照合。年金の支給だけで暮らしていくのか、退職後も働くならその給料もプラスして、退職後の生計の立て方を考え、家計を見直す。
退職金の活用の仕方は大きく2つ
「上乗せ型」を選択
退職金から一定金額を、毎月または必要なときに取り崩し、支給される年金にプラスすることで生活水準を維持する。月々の年金が少ない人や、現役時代と変わらない生活を送りたいと希望する人に向いている。旅行や趣味などを充実させることができる一方、長生きすると退職金が底をつく心配もある。「人生100年時代」に対応できるよう、退職金を毎月いくら使うかの長期的な見通しが必要。その際、今後必要な医療・介護費、家の修繕や冠婚葬祭にかかる支出なども見込んでおくことが大切。
「つなぎ型」を選択
65歳より年金受給を遅らせて(繰り下げ)、年金をもらうまでは再雇用などの給料によって賄い、その間の足りない生活費を退職金から補填する。「繰り下げ」期間を長くすればするほど、年金受給額は高くなるので、「高齢になったときに生活に困る」という不安が軽減できる。ただし、受給開始前や受給開始後すぐに亡くなってしまうと、損となる可能性も。また、年金額が増えることで、税金や社会保険料の負担も大きくなるので、事前にチェックしておきたい。「上乗せ型」と同じく、今後の医療・介護費や特別支出は見積もっておくこと。
余裕があれば…投資
先々の生活の見通しが立ち、退職金の余剰分がある場合は投資も検討。5年以内などにお金を使う予定がある場合は、ネット銀行の定期預金や個人向け国債などでの貯蓄がおすすめ。
リスクが少ないものを!投資商品の種類
【新NISAつみたて投資枠】
国が定めた条件をクリアした、長期投資に適した投資信託が対象。年間120万円まで非課税枠が設けられており、売却益や配当金に税金がかからない。
【個人向け国債】
変動10年、固定5年、固定3年の3種類があり、元本割れがなく、0.05%(年率)の最低金利保証がある。手数料無料で、購入1年後には中途換金できる。
老後資金が足りない場合
◎節約をする
・車を売却する
・生命保険を解約する
・サブスク(動画・音楽配信など)をやめる
◎仕事をする
・現役時代の知識や経験を生かすなど、再雇用や再就職で収入を得る
・定年後におすすめの仕事として、マンションの管理人、清掃スタッフ、工場での軽作業 などがある
住宅ローンなどの借り入れは一括返済すべき?
住宅ローンなどが残っている場合に、退職金で一括返済をする人もいるが、手元のお金がなくなり、そのあと大金が必要になったときに対応できなくなるリスクがある。借り主が亡くなったら、ローンの残額が保険会社から銀行に支払われる団体信用生命保険(団信)などもあるので、ローン残高を見て、これまでどおり返済するか、一括返済をするか検討したほうがよい。
取材・文/佐久間真弓
