大相撲春場所が3月8日、エディオンアリーナ大阪で初日を迎えた。3場所連続優勝と横綱昇進に挑む東大関・安青錦(21=安治川)は東小結・若元春(32=荒汐)を寄り切りで下し、白星スタート。しかしこの一番では、一部観客による残念なマナー違反が発生し、相撲ファンの間で物議を醸している──。
客席から安青錦の対戦相手への声援
過去4回の対戦成績は安青錦の3勝1敗。両力士は最後の仕切りを終えた後、土俵中央で腰を下ろして集中力を高めていた。ところがその最中、客席から「若元春ー!」という一際目立つ大きな声が飛んだ。
さらに行司が軍配を返した後の静寂に包まれる中、若元春の名前を叫ぶ声が複数回上がった。この影響があったのか、先に両手をついて待っていた安青錦は、片手をついてタイミングを図る若元春につっかける形となり、1度目の立ち合いは不成立。場内が少しざわついた後、行司は再度軍配を返したが、この際にも「若元春ー!」と叫ぶ声が響いていた。
「すでにこの時点で相撲ファンは痺れを切らしていたと思います。行司軍配が返ったというのは、両者がいよいよ立つということ。力士はそこで呼吸を合わせて立つのですが、その一瞬の静寂の間も相撲の醍醐味です。あそこで贔屓の力士の名前を叫ぶのはご法度。相撲観戦初心者だったのかもしれませんね」(相撲取材が多いフリーのスポーツライター)
結果、若元春は2度目の立ち合いで正面からぶつかるのではなく、左方向に飛びながら変化するという奇襲を見せるも、安青錦は全く動じなかった。「(予感が)なくはなかった。先場所もずれてきた。頭より体が対応できた」と振り返ったように、低い体勢のまま冷静に相手の動きについていくと、左の前まわしを掴み、右を絞って一気に土俵外まで寄り切った。
相撲の取組において、立ち合いは勝敗の6割~7割を左右するともいわれるだけに前出のライターのいうとおり、《軍配返したあとの掛け声、手拍子、指笛は見ていてホントに不快だし恐らく力士も取り組みに集中出来ない》《入場者に禁止事項のパンフレット配布など、もっとわかりやすくPRを行うべき》《ルール化し、協会が罰則を課してもよいかと》とファンからも嫌悪感を示す声が相次いだ。
公益財団法人日本相撲協会が定める『相撲競技観戦契約約款』では、「相撲場内外でみだりに気勢を上げ騒音を出す行為」などは禁止行為として明記されているが…。
「毎場所物議になっている観戦マナーですが、初場所前に公式YouTube『親方ちゃんねる【日本相撲協会公式】』で元幕内の親方たちによる観戦マナーについての『お願い』を発信していました。その中で三保ヶ関親方は『立ち合いの瞬間のシーンとなる状態は、大昔からファンの人たちの間で作り上げていただいた文化。それを文化として守っていっていただけると嬉しい』と切実に語っていました。その他にも座布団投げや手拍子にも言及していましたが、なかなか浸透していないのが現実です」(前出のライター)
若元春の立ち会い時の変化には辛辣声
一方で、若元春の立ち合い時の変化に対してファンからは厳しい声が寄せられた。《明らかに若元春の変化数が多い》《苦肉の策とはいえ初日から変化は無いわ》《立ち会いずらされ、2回目は素早く手をついてからの変化とか姑息なやり方に正々堂々と勝ってて最高》といった見方もあったようだ。
若元春自身も取組後「土俵で考えてしまった。自分の選択、間合いなど、良くないところを重ねてしまった」と反省の弁を述べているが、静まり返った中の一部観客の声援が影響したのだろうか。
「土俵上の立ち合い直前の力士は、かなり集中しているので観客の声は“耳に入らない”という力士がほとんどです。でも少しでも集中力が欠けていたり、人によっては耳に入る人もいるかもしれません。ただ、あまりにも突飛な応援や変に甲高い声などで呼吸を乱されることはあるかもしれません」(同前)
NHKでテレビ解説を務めた元小結・舞の海秀平氏(58)は安青錦の強さについて「お客さんの拍手が拍手喝采じゃないんですよね。勝負がついて一時してから静かにだんだん強くなっていく拍手なんですよね。何なんだ『この強さは』という、そういう思いでお客さん見てるんじゃないかなと思いますね」と指摘し、綱取りへ向けた大関の闘いぶりを称えた。
初日の横綱・大関陣の結果を振り返ると、横綱・豊昇龍(26=立浪)は新小結・熱海富士(23=伊勢ヶ濱)を相手に苦戦しながらも押し出しで白星。
しかし、横綱・大の里(25=二所ノ関)は前頭筆頭・若隆景(31=荒汐)に押し出され、横綱昇進後初の初日黒星を喫した。立ち合いで手突きを狙ったが突き放せず、下から食いつかれて苦し紛れに引いたところを出られた形だ。
大関・琴櫻(28=佐渡ケ嶽)は義ノ富士(24=伊勢ヶ濱)を上手投げで下し、白星発進を決めている。
マナー違反への批判と上位陣の立ち合いの変化への賛否が入り混じる中、安青錦は「いいスタートを切った。このまま行けたら」と穏やかに語った。初土俵から所要16場所での横綱昇進となれば、年6場所制となった1958年以降で最速記録となる。綱取りへの道は始まったばかりだが、21歳の大関はその重圧をものともしない姿勢を見せている─。
