写真はイメージです

 日本時間3月20日未明、高市早苗首相(65)は米ホワイトハウスに到着すると、出迎えたトランプ大統領(79)のぶ厚い胸板に飛びつくように顔をうずめハグをした。そして……。

「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルド(トランプ大統領)だけだと思っています。私は諸外国に働きかけてしっかりと応援をしたいと思っています。私は今日それを伝えに来ました」

 と日米首脳会談で中東情勢について見解を述べ、イランの核開発や周辺国への攻撃、ホルムズ海峡の封鎖を批判してみせた。

 日本の対応に不満を抱いていたはずのトランプ氏は、同海峡への艦船派遣要請に応じない北大西洋条約機構(NATO)と比較して「日本は前向きに取り組もうとしている」と一転、評価。記者団の前で艦船派遣を迫る場面はなかった。

 高市氏は、日米共同でアメリカ産原油の生産を拡大して日本国内での備蓄に取り組む方針を伝えたようだが、それで中東情勢が改善するわけでも、原油価格がすぐに落ち着くわけでもない。

2〜3か月後には電気・ガス代が上がる

 資源エネルギー庁によると、日本国内のレギュラーガソリンの平均価格は史上最高値の1リットル190・8円(3月16日時点)まで上昇。政府は石油備蓄を放出し、同18日にはガソリン補助金を再開した。高市氏は1リットル170円程度を目指しているが、低価格で安定供給できる見通しは立っていない。原油高騰が長期化した場合、どのような事態が想定されるのか。

 経済ジャーナリストの荻原博子さんは言う。

2〜3か月後には電気・ガス代が上がるでしょう。ちょうど夏場を迎えてエアコンの稼働が増える時季ですので家計へのダメージは大きくなりそうです。電気・ガス代の補助金は3月使用分で終わる予定で、現時点で補助金再開などは何も決まっていません。半年後にはポリエステルなど、石油由来の製品の価格に影響が出るでしょう。もちろん衣服なども含まれます」

日米首脳会談後の夕食会で、トランプ大統領のエスコートで着席する高市早苗首相(日本時間3月20日、共同通信社)

 市場は石油由来の製品にあふれている。スーパーの店頭に並ぶ食品のトレイや弁当・惣菜容器、包装まであらゆる品目に影響が広がりそうだ。

「ガソリンが高騰すると代替品としてバイオエタノールなどの需要が高まります。原料はトウモロコシなどの穀物で、大半を輸入に頼る穀物の価格が上昇します。穀物は牛や豚などの飼料ですから、国産和牛も国産豚も鶏肉も卵も影響を受けます。魚だって同じです。漁船を動かすには燃料が必要ですから。あらゆるものが順次値上げされると思ったほうがいいでしょう。そもそも商品の輸送コストがかさむんです」(荻原さん)

 野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんの試算によると、原油価格が約30%上昇した場合、日用品の価格上昇率は洗剤が9・6%、シャンプーが6・8%、食品用ラップが3・6%と予想されている。

 食料品では、野菜全般、肉全般ともに1・8%価格が上昇する見込み。 詳しくは別表(写真ページ)のとおり。

ハウス農業を営む農家も死活問題に

 現場の声を聞いた。神奈川県川崎市宮前区でハウス農業を営む「井上農園」の井上國夫代表(72)は、「できるだけ早く燃料価格が元に戻って安定してもらいたい」と話す。

「今の時季はトマトを栽培しており、ハウス内を暖めるため、4月下旬まで2週間あたりで、多ければ100リットル以上の燃料を使うことになります。うちは灯油で暖めるハウスが2棟、重油で暖めるハウスが2棟の小規模農家です。最低気温は毎日気にしていて、夜間から朝方にかけて気温が10度以下になりそうなときは暖房機を回します。燃料高騰はこたえますが、トマトは直売所で地元のお客さんに販売しており、一度離れると戻ってきてくれないかもしれませんから、値上げは考えていません。利益はなくなりますけどね」(井上代表、以下同)

 商品を入れるビニール袋や肥料の値上げも心配だという。

「これからメロン栽培の時季にも入ります。メロンは最低でも18度以上を維持したいので、5月に入っても朝方は暖房機を回します。心配なのは重油の調達が滞ること。大規模農家はもっと大変でしょうし、今は耐え忍ぶときだと覚悟しています」

生産停止中の「わさビーフ」と「男気わさビーフ」(山芳製菓提供)

 兵庫県朝来市の「山芳製菓」は、すでに重油高騰に泣かされている。ポテトチップスの人気商品わさビーフや明太マヨビーフなど6製品の生産を停止中。ポテトチップスを揚げる食用油を温めるボイラーの燃料となる重油の調達が困難になったためだ。

「重油の調達が不安定なので、代替燃料を探すなどしています。ユニークな商品を楽しみに待ってくれているお客さまのためにも、1日でも早く生産を再開しようと頑張っています」(同社の広報担当者)

 私たちも生活防衛する必要に迫られそうだ。

「物価高対策として食料品の消費税率をゼロにする検討を始めた『国民会議』は初会合を開いただけで、これからみなさんの意見を聞く段階。実現しても早くて来年夏ごろの実施とみています。一方で物価高は約1年は続きそうです」(荻原さん、以下同)

昭和のオイルショックではデマ拡散

 日常生活のどんなところに気をつければいいのか。

電気代を節約しましょう。エアコンは、立ち上げるときに最も電気を使います。20分離席する程度ならばつけっぱなしのほうが安く済みます。掃除の仕方も変えましょう。掃除機をかけながら部屋を片づけていくと、スイッチのオン・オフを繰り返すことになり電気代がかかります。部屋を片づけてから掃除機をかけましょう。食材の保存術も工夫したいですね。フリーザーバッグに肉とカットした野菜を入れて焼き肉のタレなどに漬け込んで冷凍します。食べるときは袋の中身をフライパンで炒めるだけ。野菜ごとに小分けで冷凍すると、解凍が面倒です」

 1970年代、昭和のオイルショックでは臆測が広がり、トイレットペーパーを買い占める騒動が起きた。ホルムズ海峡封鎖以降、SNSなどでトイレットペーパー不足を懸念する投稿が散見される。

 41社が加盟する日本家庭紙工業会は、

「トイレットペーパーの約97%は国内で生産されております。またこれらの製品の原料は、国内回収古紙やパルプであり中東地域に依存するものはございません」

 と影響を否定。在庫も増産余力も十分にあるという。

 時代錯誤のフェイクニュースやデマには、くれぐれも振り回されないように。

おぎわら・ひろこ 1954年、長野県生まれ。大学卒業後、経済事務所勤務を経て1982年に経済ジャーナリストとして独立。生活者の目線で経済をわかりやすく解説する。『65歳からは、お金の心配をやめなさい』(PHP新書)など著書多数