料理家・エッセイストの山脇りこさん(本人のInstagramより)

 「ひとりごはんは無理!」そう話す料理家・エッセイストの山脇りこさん。それでも50歳を過ぎてから、思いがけず“ひとり旅”に夢中になったという。そこにあったのは、“ひとりは寂しい”という思いを軽やかに裏切るほどの解放感と充実感。気兼ねなく旅に出るコツや、ひとりだからこそ味わえる楽しみ方、さらに女性のひとり旅にやさしい街もご紹介します。

「ひとり旅」は大人の女性にこそおすすめ

 円安の影響もあって、今や世界的な人気観光地となった日本。主要な観光地はどこも人・人・人……。ただ、場所によっては以前ほどの混雑はやや落ち着き、まさに「旅の狙い目」といえる。

ひとり旅ならば、誰かの都合に合わせる必要もありません。混雑を避け、リーズナブルに泊まれる平日も選びやすいので、大人の女性にこそおすすめです

 そう話すのは料理家で、ひとり旅の著書も多い旅の達人・山脇りこさん。とはいえ、いくら旅慣れていても、“ひとり旅”と聞くとハードルの高さを感じる人も多そうだ。

私自身、学生時代はひとり旅をしたこともあるのですが、結婚してからはいつも夫や友人と一緒。きっかけになったのは49歳のときです。友人たちと訪れた台湾で、少し別行動をしようとしたら、同行者に『ひとりで大丈夫?』と心配されて。そんなに頼りなく見えたの?ってショックを受けたんです(笑)」(山脇さん、以下同)

 こうして、50歳を迎えたあるとき25年ぶりのひとり旅に挑戦することを決意した。

最初に選んだのは京都でした。母に会うために、月に1度長崎へ行っていたので、そのまま東京に帰らずに、京都に寄って1泊してみることにしたんです

 京都は、修学旅行をはじめ、夫や母、友人と何度も訪れていた。しかし、ひとりの旅はまったく勝手が違ったという。

楽しさを感じるどころか、とにかく緊張してしまって。お目当てのビストロもあったのですが、お店の周りを3周まわったものの、勇気がなくて入れなくて。結局、鯖寿司を買って、ホテルの部屋でひとりで食べました(笑)

 そんな苦い旅の始まりが魅力的なものに変わったのは翌朝だった。

早起きして、朝のランニングで清水寺へ行ってみたんです。いつもはとても混んでいる清水寺が早朝はガラガラ。景色を堪能できて気持ちよかった

 さらに、そこに暮らす人のリアルな空気感に触れられたこともひとり旅の発見だった。

家族や友人との旅行に『前乗り』することから始める

体操をしている地元のおばあちゃんや、通勤や通学中の人たち……。普段の観光では目に入りにくい、その街の『素顔』が見られたのは早朝ならではの醍醐味でした

 かくして、ひとり旅の魅力にどっぷりハマっていった山脇さんに、初心者向けの旅の「始め方」を伺った。

まずは、家族や友人との旅行に『前乗り』することから始めるのがオススメ。本来の日程より1~2日早く現地入りするんです。後からみんなが来るとわかっているので寂しくないですし、ロケハンのように下調べができるので、合流後においしい店や穴場を案内して喜ばれるというメリットもあります

京都ひとり旅に行くなら、出町柳から叡山電車はどうでしょう? 気ままに途中下車も、旅人には新鮮な発見が(山脇りこさんのInstagramより)

 一方で、「後泊まり」は推奨しないという。

理由は2つ。1つは、楽しかった時間のあとにひとりで残るのは寂しさや心細さがあります。もう1つは、家族から『お母さんだけズルい』と恨まれやすいから(笑)。でも、前乗りなら、みんなで一緒に帰宅するころには、先にひとりで楽しんでいたことなんて、家族の記憶から帳消しになっているんです

 また、実家への帰省のタイミングで、近くの街や途中の街に1泊してみるのも手。これなら家族内での軋轢も少なく、最初の一歩を踏み出しやすい。さらに、「旅の目的は“ひとつ”でもいい」と山脇さん。

気になる雑貨屋さんやパン屋さん、レストランやお寺……。目的がひとつでも、その周辺を歩くことで好みの店に出合えたり、新しい発見があります。私はよく、『ひとり旅は自分との二人旅』と言っているのですが、寂しいときや何かに迷ったとき、常に“自分”と相談します。家にひとりでいるときは自分と対話することは少ないのですが、旅に出ると不思議ですね。そうやって自分と対話するうちに、自分の本当に好きなものにも気づけたんです

 例えば山脇さんがひとり旅を通じて「好き」と気づいたものに、今まで知らなかった大阪の日本画がある。

国内外の美術館でさまざまな絵画を見てきましたが、大阪の中之島美術館で見た日本画に深く感動して。そのときは、気づけば5時間も滞在していました。誰かと一緒だと感想も上書きされたりしますが、それもなく好きなだけ楽しむことができました。そもそもそんなに長時間はなかなか許されないですよね(笑)

 すべての行動を、自分で決められるのがひとり旅の利点。

出かけるのが嫌になったらホテルにこもってもいい。迷ったら自分と相談して、心の向くままに過ごします

 旅の行き先に迷ったとき、山脇さんが基準にしているのは次のポイントだ。

公共交通機関が発達していて、歩いてまわれる街。特にバスは、外の景色も見えるので、気になるところで途中下車できるのも楽しい。暮らしている人と同じ目線になれるのも好きなところです

 この条件を叶える場所は、京都や松本、盛岡、札幌、仙台、長崎といった県庁所在地が多い。中でも京都は、著書『歩いて旅する、ひとり京都』を出版してしまうほどのお気に入りだ。

いちばん大事なことは、無事に帰ってくること

京都はただ歩くだけでも楽しく、同じ道でも通るたびに新しい発見があります。また、観光スポット以外にも、昼間やることが多い街は退屈しません。実は博多や名古屋はグルメがとても充実していますが、ひとりだと、こうしたグルメ中心の街は、昼間の過ごし方に迷うことも

 この春は、水戸に桜を愛でに行く計画だという山脇さん。

水戸といえば梅が有名ですが、実は桜もすごくきれい。駅から偕楽園に向けて歩くと、右手に桜川、左手に千波湖の絶景が広がり、満開の桜並木がどこまでも続くんです

 最後に、これから最初の一歩を踏み出す読者へ、メッセージをいただいた。

ひとり旅でいちばん大事なことは、無事に帰ってくること。普段はそんなに歩かないのに、気分が上がって2万歩も歩いてしまうといった無理は禁物。こまめな休憩や早めの就寝を心がけましょう。また、宿泊は大手のビジネスホテルなどを選ぶと、トラブルの際の対応がしっかりしていて安心なことが多いです。暖かい春、今しか見られない景色を探しにお出かけしてみてはいかがでしょう

山脇りこさんがオススメする行き先トップ3

京都

京都はただ歩くだけでも楽しく、鴨川沿いや三条通りなど、何度訪れても新しい発見があります。『ひとりごはん』の店も豊富で、狙い目は女性店主のカウンタービストロ。店側も慣れているので、緊張せずに楽しめます

長崎

市内を路面電車が走っているので、ほぼすべての観光スポットに行けます。『原爆や戦争』『幕末の歴史』『キリシタン文化』『産業遺産の軍艦島』など、見どころが多いのでテーマを決めてまわりやすいところも魅力

自宅のほど近く

普段は日帰りする距離のところに泊まってみるのも楽しみ方のひとつ。私は東京の西側に住んでいるので、あえて谷中などなじみの薄い東側に泊まることもあります。大阪の方なら、奈良や兵庫などに泊まってみるのもいいですね

りこさん流ひとり旅がもっと楽しくなる3つの習慣

旅先が舞台の本を読む
「出発の前日あたりから、滞在先が舞台になっている小説を読み始めます。物語を通してその土地の歴史や雰囲気に触れておくと、実際に現地を訪れたときの味わいがグッと深まる気がします」

「小さな目的」から気ままに楽しむ
「普段からGoogleマップに気になった場所を収集。京都の小さな雑貨屋や長崎のパン屋……。目的はささやかでも、一軒のお店を起点にその周辺を歩くことで、思いがけない発見につながります」

朝のランニングや散歩で「街の素顔」を覗く
「いつもは人であふれかえる観光地も、早朝は驚くほど静か。ゆったりと景色を独占できます。また、通勤・通学の人々や、開店前の飲食店など、その街のありのままの『素顔』に出合えるのが楽しみです

山脇りこ著『歩いて旅する、ひとり京都』(集英社)

取材・文/荒木睦美

山脇りこさん 料理家、エッセイスト。国内外問わず大の旅行好き。前著『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)が14万部を超えるベストセラーに。近著に『歩いて旅する、ひとり京都』(集英社)がある。