映画『国宝』で吉沢亮と横浜流星が演じた歌舞伎役者の姿に一目惚れしてしまったあなた。実際の歌舞伎界にも、芸も姿も美しい若手たちがたくさんいるんです! そんな中から、歌舞伎に詳しいライターがイチオシする役者を集めました。あなたが“推す”のは誰?
大成する一歩手前の貴重な時期
映画『国宝』が、今年2月に入り、邦画の実写作品史上初となる興行収入200億円突破を記録。
この歴史的大ヒットをきっかけに、歌舞伎座などの劇場が、これまでにないにぎわいをみせるなど、空前の歌舞伎ブームが起きている。とりわけ新規ファンが熱い視線を注ぐのが、芸も姿も美しい20代の次世代スターだ。
「20代というと、やはりみなさん修業時代ではあると思うんですよね。そういう意味で、大成する一歩手前の貴重な時期だと思います」
と話すのは、歌舞伎に詳しいライター。そこで、ネクストブレイク候補の若手歌舞伎役者をピックアップ。はたして、リアル喜久雄、俊介は? これからの梨園を担う、アンダー25の歌舞伎役者を紹介しよう。
中村玉太郎(25)は、中村松江を父に、人間国宝の中村東蔵を祖父に持つ。5歳で初舞台を踏み、芸歴は20年だ。
「子役時代にいろいろな方のお芝居で子役を務めていて、小さいころから人気があった方。お父様は立役(男役)ですが、玉太郎さんは女形を修業中。若いころに立役と女形、両方勉強されている方は多く、坂東玉三郎さんは女形ですが、いずれ立役になるだろうなという人も、若いうちに女形をされることもあります。
例えば尾上松也さんは今は立役のイメージですけど、若いころは女形も修業していました。玉太郎さんは目がくりっとして可愛らしく、歌舞伎のおっとりしたお姫様が似合う」(同・ライター、以下同)
3月は東京の日本橋公会堂で舞踊演奏公演『白苑会』の開催を予定している。
「『白苑会』は邦楽の世界で活躍している、玉太郎さんの同級生が演奏し、玉太郎さんが踊ります。ぜひ足を運んでみてください」
中村歌之助(24)は、中村芝翫を父に持つ、成駒屋三兄弟の三男坊。
「お兄さんの中村橋之助さんと福之助さんは男っぽい骨太な役をやることが多いけれど、三兄弟の中で歌之助さんは可愛い顔をしていて、柔らかい二枚目の役や女形もやる。そこが兄弟の中ではちょっと違うところ」
とはいえ、今年の1月は大阪松竹座で荒事の『車引』の梅王丸を力強く演じ、3月は歌舞伎座に出演。
「4月は三兄弟で『廓三番叟』の太鼓持ちを務め、5月は三兄弟の自主公演『神谷町小歌舞伎』で、歌之助さんは『魚屋宗五郎』の主計之助、『悪太郎』の修行者を演じます。3人とも今すごく頑張っていて、自主公演は人気で完売になるほど」
上村吉太朗(25)は子役から片岡我當の部屋子になり、現在数々の公演で大役を任されている注目株。
『国宝』喜久雄のような部屋子出身
「新作歌舞伎『刀剣乱舞』で膝丸というメインの役を演じて刀剣乱舞ファンに人気が出たり、八代目菊五郎・六代目菊之助襲名公演では『車引』の桜丸という大役に挑戦したり。自身の『素踊りの會』などにも積極的に取り組んでいます」
部屋子出身というと、映画『国宝』でいえば吉沢亮が演じた喜久雄のケースにあたるが。
「片岡愛之助さんや、若手では中村莟玉さんなど、部屋子出身から幹部へ昇進し、活躍される方もいて、主役級になったりしている。吉太朗さんは古典や新作で次々に大役に抜擢され、今すごく勢いがあります。彼は上方の役者さんなので、南座など『国宝』のモデルとなった劇場にも多く出ていたりと、映画を追体験できるかも」
市川團子(22)は、市川中車(香川照之)を父に、二代目市川猿翁を祖父に持つ澤瀉屋の若手スター。19歳のとき『市川猿之助奮闘歌舞伎公演』で市川猿之助の代役を見事に演じ、その名を広く知らしめた。
「イケメンで長身でスタイル抜群。顔も小さくて、現代的な雰囲気の役者さん。実力派で、2年前にお祖父様の当たり役、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』に出演、その姿がお祖父様そっくりと大きな話題になりました」
NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』にも森蘭丸役で登場するほかにも、5月はTHEATER MILANO-Za「歌舞伎町大歌舞伎」にて『獨道中五十三驛』で13役を務め、7~8月は新橋演舞場でスーパー歌舞伎『もののけ姫』にアシタカ役で主演が控えている。
「『獨道中五十三驛』はお祖父様が得意としていた役で、13役を早変わりで演じます。スーパー歌舞伎はお祖父様が作り上げたものなので、澤瀉屋の芸を着実に受け継いでいる感があります」
尾上松緑を父に持ち、立役と女形の両方で活躍しているのが尾上左近(20)。
「お父様は立役ですが、左近さんは女形と立役の両方をやっていきたいと言っています。実際、女形はすごく可愛いし、立役はカッコいい。1月は新春浅草歌舞伎で『男女道成寺』の“白拍子桜子 実は 狂言師左近”役を務めて、踊りの実力も発揮。近年多くの大役に挑戦しています」
3月は歌舞伎座に出演、5月は同じく歌舞伎座で三代目尾上辰之助襲名を控えている。
「お祖父様が初代で尾上辰之助を名乗り、お父様が二代目辰之助。この5月の襲名は大きなイベントです。襲名披露狂言の『寿曽我対面』や『菊畑』では“芝居の途中ではありますが……”と言って、劇を中断して突然口上が始まるのも歌舞伎ならでは。左近さんが辰之助になる最初の舞台を見ることができる。貴重な機会です。ぜひ見ていただきたい」
イケメンと今人気沸騰中なのが市川染五郎(20)。父は松本幸四郎、祖父は松本白鸚、松たか子を叔母に持つ。
父親が対抗意識を燃やす
「なんといっても色気と華があります。あまりに染五郎さんがイケメン、イケメンと言われるので、お父様が“僕も昔は美少年って言われてた”と対抗意識を燃やしているほど(笑)。美しいけど芸は骨太で、1月は新春浅草歌舞伎で高麗屋にとって大切な古典の大役『梶原平三誉石切』の梶原役を務めています」
3月は歌舞伎座に出演し、5月は東京の日生劇場、6月は大阪で舞台『ハムレット』にてストレートプレイに初挑戦。
「お祖父様もお父様も『ハムレット』を演じていて、3代にわたってハムレットをやることになります。歌舞伎の芸はもちろん、翻訳劇などでもお祖父様、お父様の芸を引き継ぐことになる。今後が楽しみです」
次世代を担うアンダー25の歌舞伎役者たち。彼ら若手ならではの魅力とは? どこに注目したらいいのだろう。
「やっぱり一生懸命さは、胸を打ちますよね。名優の方々の至芸もぜひ堪能していただきたいけれど、若手のときにしかない一生懸命さというものは今しか味わえません。
例えば市川團子さんは昨年『義経千本桜』でお祖父様の当たり役の狐忠信という役を演じましたけれど、それはもう芸の良し悪しを超えて、その一生懸命さに涙が出る。だけど大人になってからは、そこはあまり見せてはいけないところでもあって。そういうものが前面に出ていても、胸を打つのがこの世代だという気がします」
今注目といえど、歌舞伎界ではまだまだ若手で、伸びしろは大きい。
「彼らが30代、40代になったときに同じ役を見られるのも歌舞伎のいいところ。20歳のときに必死に役に挑んでいた俳優が、その役を自分のものにして、余裕を持って演じている、という姿を見るのも感慨深いものがあります。
50代になってくると、後輩に教えるようになり、後進に役を譲ったりと、自分の人生と重なるところもあるのではないでしょうか。だから、少しでも若いうちから見ておくと楽しみも増すかもしれません」
20代の彼らの姿を見ておけば、この先何十年と楽しめるはず。まずは歌舞伎座へ。若手の見せる真摯な姿に、あなたも歌舞伎沼にハマってしまうかも……。
取材・文/小野寺悦子
