毎年4月2日は、国際連合が定めた「世界自閉症啓発デー」。この日には、東京タワーをはじめ、世界各地のランドマークがシンボルカラーの青にライトアップされ、自閉スペクトラム症(ASD)への理解を広げる取り組みが行われる。国内では4月2日から8日の1週間を「発達障害啓発週間」とし、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害の当事者と家族への理解促進を呼びかけている。
診断に落ち込み、1か月は動けなかった
自閉スペクトラム症は、言葉やコミュニケーションの困難さ、興味や行動への強いこだわり、感覚の過敏さや鈍さなどの特性がみられる発達障害のひとつ。そのあらわれ方は一人ひとり異なり、発達の段階に応じて変化していくこともある。
厚生労働省の推計では、自閉スペクトラム症の割合はおよそ100人に1人(約1%)とされている。一方、診断に至っていないケースも含めると、20〜40人に1人(2・5〜5%)に可能性があるとの指摘もある。
いずれにしても決してまれなものではなく、身近な存在だ。しかし、社会の理解はまだ十分とはいえず、困難や孤立感を抱える当事者とその家族は少なくない。
4歳になる息子が「自閉スペクトラム症」であることを公表している、グラビアアイドル出身のタレント・倉持由香さんは、「孤独感がいちばんの敵」と語る。
倉持さんは、夫で格闘ゲームのプロゲーマー・ふ〜どさん、そして息子の湊(みなと)くんとの3人家族。湊くんが軽度の知的障害を伴う自閉スペクトラム症と診断されたのは、2024年、2歳6か月のときだった。
「反応が鈍かったり、食べ物の好き嫌いが強かったりと、普段の様子から、なんとなく予感はしていました。それでもやっぱりショックで……。1か月くらいはベッドの中にずっといて動けなかったほどです。
将来のことを悲観してスマホで検索ばかりしていましたし、子どもがいる知人のSNSを見ては落ち込んでいました。仕事先で子どもの話題を振られるのも、正直つらかったですね」(倉持さん、 以下同)
深い孤独感の中で、倉持さんを前に向かせたのは、夫の言葉だった。
「ふさぎ込んでいても変わらないよ。時間を進めよう。一緒に湊を攻略していこう」
“攻略”という表現は、プロゲーマーならではのもの。ふ〜どさんは常に冷静で、物事をフラットに見つめながら最善策を探るタイプだという。感情の波が大きいと自己分析する倉持さんにとって、対照的な存在が大きな支えになった。
診断を受けた病院や児童相談所に足を運び、保育園に通いながら療育も開始。さらに湊くんを理解したいと、民間資格である「児童発達支援士」を取得した。
「特性について学ぶことで、湊の行動の意味が少しずつわかるようになりました。例えば、一日に何度も吐くことがあったのですが、食べ物をくちゃくちゃと口の中で動かすことが、気持ちを落ち着かせるための行為だったと知ることができました。理由がわかると、必要以上に不安になったり、イライラしたりすることが減りました」
それぞれの凹凸を補い円をつくる
公表に踏み切った背景にも、支えとなる存在があった。
「同じ特性のある子どもを育てる家族が発信するSNSや、体験を綴った本やマンガです。うちだけじゃないと思えたことで、本当に励まされました」
ふ〜どさんも「公表することはプラスになると思う」と後押し。診断から3か月後、メディアやSNSを通じて湊くんのことを公表した。
「反響のほとんどは温かいものでした。『実はうちも……』と打ち明けてくれる方もいて。公表したことで、私自身の気持ちも少し軽くなりました」
湊くんは成長とともに、「ママ」「パパ」などの言葉を口にするようになり、少しずつ語彙も増えている。
「同じ年頃の子が流暢におしゃべりをしている姿を見ると、『湊と会話ができたらなぁ』と思うこともあります。でも、スピードはゆっくりでも、彼なりに前に進んでいる。できることが増えていくのは本当にうれしいです」
ゲーム好きなのは父親譲り。感覚過敏があり、粘土やクレヨンは苦手だが、タブレットでのお絵描きは楽しんでいるという。
「赤ちゃんの高い泣き声は苦手なんですが、耳をふさいで逃げるよりも、あやして泣きやませたほうが早いと、彼なりの“攻略法”を見つけたみたいなんです」
家事は主に倉持さんが担うが、朝が弱いため、ゴミ出しと保育園の送りはふ〜どさんの担当。書類関係は倉持さんがサポートするなど、互いの得意不得意を補い合う。外食や家事ヘルパーも取り入れ、無理をしすぎない形を模索している。
「湊の凹凸は大きいけれど、まずは得意分野を伸ばしてあげたい。まだ成長の途中なので、学校や将来のことはその都度考えていけたら。周囲の力も借りながら、家族で凹凸を補い合って、丸い円のようになれたらいいなと思っています」
特性の凹凸は、多かれ少なかれ誰にでもある。自閉スペクトラム症に限らず、発達障害への理解が広がることで、違いを認め合い、支え合える社会に近づいていく。
「孤独を感じている家族が少しでも減ってほしい」。その思いから、倉持さんは自らが執筆するマンガやエッセイを通して発信を続けている。
「児童発達支援士の資格も活かしながら、今後は福祉の分野にも関わっていきたいです。不登校や発達障害などで居場所がないと感じている人も少なくありません。私自身も不登校の時期があり、ゲームに救われました。
eスポーツの仕事に携わっていますが、障害があってもデジタル技術を活用すれば参加できる『eパラスポーツ』の普及にも取り組めたらと思っています」
取材・文/小林賢恵
