「定期代をもらっているだけなのに、なぜか手取りの給料が減ってしまう」――。そんな理不尽な現象が、3月14日から始まったJR東日本の運賃値上げをきっかけに、一部のサラリーマンの身に降りかかろうとしている。国会では野党が制度の見直しを迫っているが、高市早苗首相は慎重な姿勢を崩しておらず、ネット上では「庶民の感覚を無視している」と批判が殺到している。
JR東日本の値上げが引き金に
今回、議論の的となっているのは、3月14日からJR東日本が実施した運賃改定だ。エネルギー価格の高騰などを理由に、全エリア平均で7.1%、通勤定期に至っては12.0%という大幅な値上げに踏み切った。
本来、会社から支給される通勤手当(定期代)が増えたとしても、それはそのまま鉄道会社に支払うお金。収入としては“プラスマイナスゼロ”のはず。しかし、この「増えた電車代」が、私たちの「社会保険料」を跳ね上げるという罠が潜んでいるのだという。
この複雑な仕組みについて、全国紙の社会部記者は次のように解説する。
「社会保険料とは、私たちが病院にかかるときの健康保険や、将来受け取る年金のために給料から天引きされるお金のこと。この金額を決める際、国は『標準報酬月額』という、いわばお給料を入れるバケツのような基準を使います。
最大の問題は、このバケツの中に、純粋な給料だけでなく『通勤手当』まで一緒に入れられてしまうことです。社会保険料は、バケツの中身の重さに応じて『階段(等級)』のように金額が決まる仕組みになっています。今回の値上げで電車代が少し増えたことで、図らずも階段を一段上がってしまい、その結果、引かれる保険料がガクンと増えてしまう人が出てしまうのです」
3月12日の国会では、国民民主党の深作ヘスス議員が、具体的な“手取り額の減少幅”を挙げてこの矛盾を突いた。
「深作議員が示した例によれば、報酬月額が約31万円の人のケースでは、JRの値上げで通勤手当が710円アップしただけで、保険料の等級が一段階上がってしまいます。すると、健康保険と厚生年金を合わせた本人負担額は、月に2977円も増えてしまう計算になります。
自分のポケットには1円も入らない、JRに支払う電車代の補填を受けただけで、手元に残るお金が3000円近くも減ってしまう。これが、いま起きようとしている『通勤手当が増えたせいで手取り減少』の正体です」(前出・社会部記者)
役人が作った“二重基準”
この状況に追い打ちをかけるのが、制度のチグハグさだ。
実は「所得税」の世界では、通勤手当は月15万円までなら「給料(利益)」とは見なされず、税金はかからない。ところが「社会保険料」の世界では、なぜか「給料の一部(報酬)」としてカウントされる。
この矛盾に対し、ネット上では怒りの声が渦巻いている。
《交通費は必要経費であって個人の利益じゃない。そこから保険料を取って手取りが減るのは理不尽すぎるだろ》
《所得税は非課税なのに保険料はカウントするなんて……少しでも税金を多く徴収したい官僚が考えそうな二重基準》
高市首相は18日の参院予算委員会の答弁で、通勤手当を保険料の計算から外すことに対し、「全体の保険料率引き上げが必要になる」「歩いて通う人との公平性が損なわれる」と慎重な考えを示した。
しかし、物価高で生活が苦しいなか、「ルールだから」「公平性が必要だから」という理屈で、実質的な“減収”を押し付けられる国民の納得感はきわめて低いのではないだろうか。
「手取りを増やす」ことを高市政権は掲げているが、目の前で起きている「電車代による手取り減少」という現象を放置したままでは、その言葉の信憑性が問われることになるだろう。今後の対応に注目が集まっている。
