2026年1月から、仲野太賀が主演を務めるNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』が幕を開け、初回視聴率は13.5%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と、前作『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の12.6%、前々作『光る君へ』の12.7%を上回る好スタートを切った。
『豊臣兄弟!』が描くのは、天下人・豊臣秀吉を支えた弟・豊臣秀長の物語。大河ファンにとって「豊臣家」はもっとも馴染み深いテーマの一つだが、果たしてかつての大河ドラマはどれほどの熱狂を巻き起こしていたのだろうか。視聴率をもとに、今なお語り継がれる歴代トップ10を振り返ってみたい。
90年代の「演技巧者」と異色の現代劇
まずは第10位から第8位を続けて紹介する。
・10位 八代将軍吉宗(1995年)26.4% 主演:西田敏行
・9位 いのち(1986年)29.3% 主演:三田佳子
・8位 秀吉(1996年)30.5% 主演:竹中直人
90年代の2作品がランクイン。10位『八代将軍吉宗』の主演は8回目の大河ドラマ出演となる西田敏行さんで、主演は『翔ぶが如く』に続いて2作品め。8位の『秀吉』は竹中直人のエネルギッシュな好演が大きな話題になり、「心配ご無用!」というフレーズは流行語にもなった。
「90年代の大河は、西田敏行さんや竹中直人さんのような、画面を支配する“演技巧者”が歴史の堅苦しさをエンターテインメントに昇華させた時代でした。また、9位の三田佳子さん主演の『いのち』は歴代トップ10の中で唯一、戦国や幕末ではない現代劇として異彩を放っています。戦後から昭和という激動の時代を舞台に、苦難を乗り越えて女医として生き抜く女性の半生を描いた物語ですが、脚本の橋田壽賀子氏が描く“逆境に負けない女性像”が当時の国民的共感を集め、高視聴率を記録しました」(テレビ誌ライター、以下同)
ちなみに、大河ドラマで昭和以降が本格的に描かれるのは、この『いのち』のあとは2019年の『いだてん』まで33年間途絶えることになる。
続いて、第7位から第5位。
・7位 太閤記(1965年)31.2% 主演:緒形拳
・6位 徳川家康(1983年)31.2% 主演:滝田栄
・5位 おんな太閤記(1981年)31.8% 主演:佐久間良子
7位の『太閤記』は、まだテレビが一家に一台という1960年代の記録。当時無名に近かった緒形拳さんが秀吉役に抜擢され、その明るく瑞々しい演技が爆発的な人気を呼んだ。一方、80年代に入ると「戦国時代をどう描くか」に大きな変化が訪れる。
「緒形拳さんの『太閤記』は、それまでの重厚長大な歴史劇に“若々しいスピード感”を持ち込み、大河を誰もが見る国民的番組に押し上げました。まさにテレビというメディアがスターを生む時代の象徴です。一方、7位と同率6位の『徳川家康』は、山岡荘八氏のベストセラー小説を原作に、忍耐を重ねて天下を掴む家康の姿を重厚に描き出しました」
当時、経済成長を支えたサラリーマンや経営者たちの間で『徳川家康』は“処世術や経営のバイブル”として圧倒的な支持を受け、家康の生き様がそのまま日本人の精神的支柱にもなった。
「5位の『おんな太閤記』は、佐久間良子さん演じる秀吉の妻・ねねを主役に据え、戦国時代を女性視点の“ホームドラマ”として描き直したことで視聴者層を爆発的に広げました。西田敏行さんが演じた秀吉の『おかか!』という呼びかけが今も記憶に残っているファンは多いはずです」
「忠臣蔵」という不滅のコンテンツ
・4位 赤穂浪士(1964年)31.9% 主演:長谷川一夫
第4位は、大河ドラマ史上不滅の最高視聴率回53%を叩き出した1964年の『赤穂浪士』。主君の仇討ちを誓う「忠臣蔵」の物語は、当時最高の娯楽だった。
「かつて映画界のトップスターだった長谷川一夫さんがテレビドラマに主演するというだけで、当時の社会にとっては“事件”でした。銀幕のスターたちが毎週お茶の間で見られるという贅沢さが、この驚異的な数字に繋がっています。日本人のDNAを揺さぶる復讐と忠義の物語は、まさに大河ドラマの原点ともいえるでしょう」
・3位 春日局(1989年)32.4% 主演:大原麗子
第3位は、徳川三代将軍・家光の乳母として大奥の権力を握る女性の生涯を描いた『春日局』だ。
「本作が放送された1989年は昭和から平成へと移り変わる年でしたが、橋田壽賀子氏による壮絶な“女の戦い”と献身的な愛が視聴者を釘付けにしました。当初は『地味な乳母が主役で大丈夫か』という声もありましたが、ふたを開ければ主演の大原麗子さんの演技も見事で、大河における“女性主役作品”の地位を不動のものにした金字塔となりました」
バブルの熱狂を背負った「甲斐の虎」
・2位 武田信玄(1988年)39.2% 主演:中井貴一
第2位は、平均視聴率40%にあと一歩まで迫った『武田信玄』。
「主演の中井貴一さんが瑞々しくも威厳のある信玄を演じ切り、日本中が『風林火山』の旗印に熱狂しました。ライバル謙信役の石坂浩二さんの美しさ、そしてバブル絶頂期の潤沢な予算を投じた豪華絢爛な合戦シーン。お茶の間のテレビが最大の娯楽だった時代の熱量が、この数字にそのまま表れています」
そして堂々第1は今なお「大河の最高傑作」との呼び声高いこの作品だ。
・1位 独眼竜政宗(1987年)39.7% 主演:渡辺謙
「当時27歳の渡辺謙さんの、画面を突き破るような眼力とエネルギーは衝撃的でした。脚本のジェームス三木氏が圧倒的なスピード感とエンターテインメント性を注入し、さらに勝新太郎さんの秀吉、津川雅彦さんの家康という怪物級のキャストが脇を固めました。この39.7%という数字は、単なる記録ではなく、一つの時代の“到達点”と言えるでしょう」
こうしてトップ10を振り返ると、ある傾向に気づく。1位から10位のうち、実に6作品が1980年代の作品なのである。なぜこの時代、大河ドラマはこれほどまでに強かったのだろうか。
「要因は大きく3つあります。まずはジェームス三木氏や橋田壽賀子氏という二大巨頭の存在です。彼らは格調高い歴史劇の中に、現代にも通じる“家族の愛憎”や“ホームドラマ”の要素を融合させ、歴史に詳しくない層をも虜にしました。
次に、キャスティングの劇的な変化です。それまでの大御所映画スター中心の配役から、渡辺謙さんや中井貴一さんのようなテレビ発の若きエネルギッシュな才能を主役に抜擢し、脇を圧倒的なベテランで固める布陣が完成しました。3つめがバブル経済という時代背景です。右肩上がりの社会が生む巨大な熱量と、潤沢な制作費による大人数の合戦シーンなど壮大なスペクタクル映像が、当時の視聴者を釘付けにしました」
そしてもう一つの共通点が豊臣家への愛着だ。トップ10のうち半数が秀吉やねね、あるいは豊臣家を軸とした物語となっている。「日本人は秀吉のサクセスストーリーと、それを支える家族のドラマが大好きなんです」と前出のライターは語る。
2026年の『豊臣兄弟!』は、まさにこの高視聴率のDNAである「豊臣家」と「家族の絆」を、これまでとは異なる“弟・秀長”の視点から描き直そうとしている。数字の高さだけが価値ではないが、かつての黄金時代がそうであったように、月曜日に「昨日の大河見た?」と会話が弾むような熱狂が、再びお茶の間に戻ってくることを期待せずにはいられない。
