日本の無痛分娩の普及率は6年連続で上昇しており、'24年は16.2%だったが、都道府県別にみると最も高い東京都が35.8%、一方29県では10%未満と地域差が激しいのが実態。'25年10月から東京都が助成金を開始したことを皮切りに同じ動きが一部自治体でも広がっている。さらに普及率が上がりそうな今、無痛分娩を選択した菊地亜美さんにお産のスタイルをどう決め、経験を踏まえて感じたことを聞いた。
お産のスタイルは自分で選びたかった
第1子の出産では、初産婦の平均分娩時間のおよそ倍にあたる30時間を要したという菊地亜美さん。壮絶なお産の痛みを味わってから4年後、昨年の3月に計画無痛分娩で第2子を出産した。
ママ友の多くが無痛分娩を選択するなか、第1子と同じ自然分娩にするか、ギリギリまで迷ったそう。
「お産の痛みは忘れる、とはよく言いますが、それって本当なんですね(笑)。あんなに苦しかったのに、今回も自然分娩でいけるかも?なんて迷いが出てきちゃって」(菊地さん、以下同)
第1子、第2子ともに、計画無痛分娩を主とする都内の産院で出産。同院の経膣分娩における無痛分娩の割合は、2024年のデータでおよそ97%にも上る。
それでも菊地さんは、初産では自然分娩を希望した。医師からは「うちの病院では珍しいケースですよ」と驚かれたという。
「看護師の友人やママ友からは、わざわざ痛い思いする必要ないのに、と反対されました。でも、出産の痛みを経験してみたいという思いもあって。後悔しないためにも、やっぱりお産のスタイルは自分で選びたかったんです」
覚悟を決めて自然分娩で臨んだ第1子の出産。子宮口が1センチほど開いた状態で人工破水したあと、激痛に襲われた。
「強い痛みが5~6時間続き、20回以上も嘔吐してしまいました。あまりの様子に、先生が麻酔を使うことを提案してくださったんです」
無痛分娩が中心の産院ということもあり、万が一に備えて事前に麻酔分娩の同意書に記入していたことが功を奏した。一時的に痛みはやわらいだが、あくまでも自然分娩にこだわり、その後は麻酔を中断。分娩台のパイプを握りしめ、叫びながら娘を産んだ。
「第2子の妊娠がわかってからもしばらく迷いましたが、おなかが大きくなるにつれあのときの恐怖がよみがえってきて(笑)。医師とも相談した結果、第2子は計画無痛分娩を選択しました」
自然な陣痛を待つ無痛分娩と違い、計画無痛分娩ではあらかじめ出産日を決め、陣痛促進剤を用いて人工的に陣痛を引き起こす。無痛分娩に比べて産科医や麻酔科医のサポート体制が整えやすく、安全性も高いとされている。
「出産のために前日入院したときは、不安よりもひとりでゆっくりできることに感動しちゃいました(笑)。家事、育児の毎日で、ベッドにごろんとできる時間なんて久しぶりでしたから」
午前中に入院した時点で子宮口の開きはまだ1センチほど。子宮の出口を広げ、やわらかくするために子宮頸管バルーン挿入の処置を受けた。
生理痛ぐらいの痛みだった
「個人差はあるようですが、私の場合は生理痛ぐらいの痛みでした。処置のあとは、出産前に見ておきたいと思っていた韓国ドラマの続きを楽しむことができるくらいリラックスして過ごせたんです」
順調に子宮口が開き、日付が変わった深夜にバルーンが自然に落下。次のステップである人工破水に順調に進んだ。
「最初のお産では、人工破水した直後に猛烈な痛みに襲われたんです。それを思い出して、怖くなってしまいました」
不安は杞憂に終わり、今回は痛みを感じずにすんだ。前回は陣痛が来てすぐの人工破水だったが、今回はある程度子宮口が開いてからの処置だったことに違いがあるのかもしれない、と担当医から説明を受けたという。
「破水後に陣痛促進剤を点滴して、お産に向けて最終段階に入るタイミングで背中から麻酔を入れました。このときもほとんど痛みは感じませんでしたね」
無痛分娩の場合、脊髄に近い硬膜外腔に細いカテーテルを挿入し、その管を通じて麻酔を追加する「硬膜外麻酔」を用いることが一般的だ。
「麻酔が入ってくると、下半身がぽかぽかと温かくなってきました。もともと腰痛持ちで、妊娠でさらにひどくなっていたんですが、その痛みもやわらいで、気持ちいいと感じるほどでしたね」
無痛分娩を行う多くの産院では、陣痛が進むにつれて痛みが増したとき、カテーテルとつながる手元のボタンを妊婦が自ら押して麻酔薬を追加する「自己調節鎮痛法」を取り入れている。
菊地さんの場合は麻酔がうまくはたらき、このボタンを押すことは一度もなかった。助産師から「今回は笑いながらのお産にしましょうね」と声をかけてもらったことが強く印象に残っているという。
「自宅から夫と4歳の長女も駆けつけ、お産までの1時間ほど、談笑できる余裕もあったんです。麻酔を使っていても足を動かせて、しっかりといきめる感覚もありました。痛みを感じたのは、赤ちゃんの頭が産道を通る数分だけ。このときも娘が一生懸命笑わせてくれて、ほっこり、うれしいお産となりました」
産後の回復も初産のときとは比較にならないほど早かった。第1子のお産で、苦しむ菊地さんの様子を間近で見ていた夫も「無痛分娩にしてよかったね」とホッとした様子だったという。
楽しいお産のシーンがあってもいいはず
出産後しばらくは仕事を休み、穏やかな日々を送っていた菊地さんだが、子どもを連れて外出した際に印象的な出来事があった。
「都内のショッピングセンターで、アフリカ系外国人女性の店員さんに、娘さんキュートね! と声をかけていただいて。そのときに『日本人ってわざわざ痛い思いをして子どもを産むわよね、不思議だわ』と言われたんです」
日本産科麻酔学会の調べによると、無痛分娩の普及率はアメリカで約7割、フランスで約8割だが、2023年の時点で日本はおよそ1割。
主な理由として、医療保険の適用外であることや麻酔科医の不足が挙げられるが、「痛みに耐えてこそ母になる」といった“母性神話”がいまだ根強いことも一因のようだ。
「ドラマや映画の出産シーンも激痛に耐える様子ばかりで、お産は怖いものだという印象を与えてしまいますよね。たまには楽しいお産のシーンがあってもいいはず。そんなところから変えていくのもひとつの手だと思うんです」
自然分娩も無痛分娩も、両方体験できてよかった、と話す菊地さん。“自分で考え、自分で決めた”からこそ悔いが残らないお産となった。
「出産後の子育て支援ももちろん大事ですが、そもそも“産みたい”と思えるかどうか、その前提も同じくらい大事ですよね。すべての妊婦さんにとって、あらゆる選択肢が尊重される環境になってほしいと改めて思います」
取材・文/植木淳子
きくち・あみ(35) タレント、元アイドル。北海道北見市出身。'18年に一般男性と結婚、'20年に長女、'25年に次女を出産。
