萩原聖人 はぎわら・まさと 1971年8月21日生まれ、神奈川県出身。'94年、映画『学校』、『月はどっちに出ている』、『教祖誕生』で日本アカデミー賞新人俳優賞、話題賞(俳優部門)を受賞。『マークスの山』(’95)、『CURE』(’97)で同賞優秀助演男優賞ほかを受賞。近年の主な出演作に、『島守の塔』(’22)、『海の沈黙』(’24)、『栄光のバックホーム』(’25)、『ハローマイフレンド』『君が最後に遺した歌』『2126年、海の星をさがして』(すべて’26)など。(撮影/山田智絵)

「もう20年以上前のことになりますね。ヨン様(ペ・ヨンジュン)の作品は、映画も含め、かなりの数の吹き替えをやらせていただきました。ある時期('07年のドラマ『太王四神記』)以降、あまり作品に出演されなくなって、仕事がなくなりましたけど(笑)」

 そんな冗談でインタビューの場を和ませてくれた萩原聖人。韓流ブームを巻き起こした『冬のソナタ』が日本特別版映画として公開されていることを伝えると、懐かしそうに語ってくれた。

デビューから40年の萩原聖人、守るものがない男の行く末を演じて

萩原聖人(撮影/山田智絵)

 デビューから40年。常に作品が絶えず、主人公としても欠かせない存在となった。その萩原が主演する映画『月の犬』が4月24日から公開される。ジャパニーズ・ノワールの復活のような“カッコいい男”を描いた作品だ。

「ずっと挑戦してみたいと思っていた世界観の作品でした。そして、監督が僕にこだわってくれたと聞きうれしかったです。気持ちが引き締まるというか、新たなスイッチが入るような、いろいろな思いが交錯する感覚を覚えましたね」

 萩原が演じるのは、最愛の妻を失ったことをきっかけに裏社会から離れ、ある街に流れ着く東島。偶然入ったバーのママ・沙織(黒谷友香)に気に入られた東島は、彼女が関わる仕事に巻き込まれていく。

「“ジャパニーズ・ノワール”を言葉で表現すると“色気”や“渋い”“暗い”ということだと思うんです。それって、単純にカッコいいじゃないですか。

 今も変わらず俳優をされている方々がたくさんいらっしゃいますが、(極道やヤクザを題材にした)Vシネマ全盛期を支えたみなさんは、すごくカッコよかった。カッコいいからこそ面白いし、成立していた部分が多大にあったと感じています。今作は、そのころのVシネマの良さを今の時代に沿う形で映画にしたものですね」

 スクリーンの東島は目に光がなく、生きることを諦めているように映る。萩原自身、演じた役をどう受け止めたのだろうか。

「東島は失うものがないのではなく、守るものがなくなってしまった。守るものの大きなものに家族があり、自分がある。多くの人は、自分を守って生きていると思います。自分がなくなるということは、痛みという感覚がなくなるんです。何に対しても。痛みを持たない生き方をしているのが東島。作品には、ほかにも彼のような生き方をしている人物が何人も登場します」

 印象的なシーンのひとつに浴室の場面がある。シャワーを浴びる東島の背中一面には刺青が。

「そういったシーンをぱっと見たときに何を思うか、何を感じていただけるのかが僕と監督の共通のテーマでした。(セリフ・説明を最小限にしたことで)興味を持っていただけるか、その逆か。“ベタなことやってる”と思われるのか。単なる印象だけでは片づけられないシーン、作品になったのではないかとは思っています」

 演じた東島を「運がない男」と語る。萩原自身と重なる部分があるかを聞くと、

「形はどうであれ、あんなふうに誠実に生きることへの憧れはあります。人は、自分をごまかし、生きるためにズルくなるときがある。しかし、東島にはそれがない。

 “だからそうなるよね”と悲しい気持ちにもなりましたし、そういうことが“運がない”につながってしまうのかもしれない。そもそも彼は運を求めていないんです。実は、人としてものすごく誠実でちゃんとしているのに、運がないとしか言いようがないですよ」

運と聞くとやはり麻雀のことが……

萩原聖人(撮影/山田智絵)

 40年芸能界で活躍できているだけでも“運”を持っていると思うのだが、自身ではどう感じているだろうか。

「運はないと思いますね。徳を積めば運がついてくる、そうあってほしい願望はありますが。実際の運は気まぐれなんだろうな、という印象です。ただ僕、“運”と聞くとどうしても勝負の世界(麻雀)が頭に浮かんできて(苦笑)。俳優業とイコールにしてしまう時点で、間違っているかもしれませんが」

 萩原がプロ雀士として麻雀界を牽引する存在であるのは、多くの人が知るところ。最近では、木村拓哉のYouTubeチャンネル「木村さ~ん!」で、木村が麻雀のトッププロだけが参加できるMリーグの雀士と対戦する動画に萩原が登場し話題となった。

 2人が'94年にW主演したドラマ『若者のすべて』(フジテレビ系)の撮影当時、「役者は俺ひとり」と萩原が発言したことが人づてに木村に知れて、不仲になったと囁かれていたが。

「あの件に関しては、圧倒的に僕が悪いので。そりゃ言われたら気分悪いよなと思います。そこに大した悪意はなかったんですよ。当時の僕は、調子に乗っていたんだと思います」

 萩原と木村の初共演作品となった『若者のすべて』は、Mr.Childrenによる主題歌『Tomorrow never knows』とともに大ヒットした。

「今となれば、の話になりますが、もし『若者のすべて』の中で、拓哉と僕の関係性が何らかの形で作品に影響を与えていたとしたら、と考えることがあるんです。後づけのきれいごとと言われてしまうかもしれません。

 しかし、今でも“見てました”と言ってくださる人がいるのは、あのときの、あの若さにしかない愚かさが生んだ魅力みたいなものが作品の中にあるように感じて。そうして振り返ってみて“あぁ、よかったな”と思うんです。2人がこうして自分なりの道を歩んできて、お互い現役で再会できてることが、本当にうれしいんですよね」

映画『月の犬』とつながる思い

萩原聖人(撮影/山田智絵)

 その思いは映画『月の犬』とつながる部分があるかもしれないと言う。

「最近よく思うんです。人生の伏線回収みたいなものが、なんとはなしに始まってきているなと。映画の東島も同じ。何十年ぶりに再会する人がいたり、突拍子もないところで“あ、そういえば”みたいな出来事があったり。

 皆さんが注目してくださった拓哉とのことは、僕の中ではすごく大きい出来事でした。しかも、当時の彼はまったく興味を持っていなかった麻雀をするというね(笑)。長く生きると、こういうときが来るんですね

 2人が同じ麻雀卓に座る姿が見たいと伝えると苦笑いを浮かべる。木村といえば、愛犬家で知られるが、同じように萩原にも3匹の家族がいる。

「うちは小型犬で、女の子3人ですけど。あの子たちがいるから頑張れる。基本ベタベタです。真ん中の子は僕にベッタリくっついて離れない。でも、上の子をかまっているときは、ちゃんと待ってくれるんです。

 上の子の世話が終わって“はい、おいで”と言うとパーンと飛んでくる。一番下の子はわがままで。上の子たちの性格が優しいってのもあると思うんですが。もう、みんなかわいくて。本当に愛おしいです」

 守るものたちの話になると、表情がやわらぐ。その変化に、過去を静かに受け止められる年齢の深さがのぞいた。

『月の犬』

『月の犬』監督・脚本・編集/横井健司 キャスト/萩原聖人、原日出子、寺島進、深水元基、黒谷友香ほか4月24日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国公開(C)PYRODIVE
『月の犬』(C)PYRODIVE
『月の犬』(C)PYRODIVE

監督・脚本・編集/横井健司
キャスト/萩原聖人、原日出子、寺島進、深水元基、黒谷友香ほか
4月24日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国公開

ヘアメイク/小口あづさ(NANAN) スタイリスト/中山浩一郎 衣装/1PIU1UGUALE3 撮影/山田智絵 取材・文/生島真由美