団地内の広瀬剛容疑者宅は、ひっそりと静まりかえって

「母親の遺体が放置されていたのは、その踊り場です。うつぶせの姿勢で、発見当時は周囲に染みのようなものが見えました」

 と同じ団地に住む80代男性はショッキングな出来事を振り返る。

遺棄事実を認めていた息子

 埼玉県さいたま市岩槻区の公営団地内の階段踊り場で、年配の女性が倒れているのが団地住人に発見されたのは3月12日午前6時45分ごろのこと。住人は110番通報したが、救急搬送はされなかった。

「女性はすでに亡くなっており、遺体の腐敗状況などから死後数日は経過しているとみられていました。その日のうちに死体遺棄容疑で逮捕されたのは女性と同居する息子。当初から遺棄事実を認めていましたが、フェーズが変わったのです」(全国紙社会部記者)

 女性は同団地に住むパート・広瀬秀子さん(73)と判明した。県警は4月1日、秀子さんを殴るなどして殺害した疑いで息子の無職・広瀬剛容疑者(44)を再逮捕した。

 団地内の自室で3月3日ごろ、秀子さんの胸背部などを拳で殴打するなど暴行。胸背部打撲にもとづく肋骨多発骨折を引き起こし、呼吸不全で死なせたという。

「剛容疑者は“罵倒されて耐えられなくなった”などと述べ、容疑を認めています。犯行から遺棄までの約9日間、遺体は自室にあったとみられています」(同・記者)

 母子は2人暮らし。住人らによると、約19年前に居住棟が完成してすぐ入居した世帯で、亡くなった秀子さんは仕事と家事を両立させるタフな女性だった。

「息子さんは精神が不安定だったのかな。秀子さんは仕事のかたわら、彼をあちこちの病院に連れて行くなど大変そうでした。ただ、秀子さんは言葉づかいに乱暴なところがあって他人を“オマエは××だから”とか言ったりするんです。見かねて“オマエって言い方はないよ”と注意したら、反論はしませんでしたね。私はひとり暮らしなんですが、秀子さんは“気楽でいいね〜”と言っていました。

 今年1月ごろ、“今度どちらかの家でお茶を飲もうね”と約束したんですよ。お互いにグチを言い合うとすっきりするでしょ? 今も秀子さんの顔が浮かんでくるんですよ。どうして、こんな最期を迎えなきゃならないのって」(80代の知人女性)

花好きのきれい好きな女性

 住人らによると、剛容疑者は体格がよく、濃いグレーや紺色など落ち着いた色合いのスウェットなどを着ていた。ひょろっとした細身の秀子さんは、ズボンなど動きやすい服装が目立った。

 秀子さんは花が好きで、きれい好きな女性だった。以前は玄関前に鉢植えをいくつも置き、周囲を丁寧に掃除していたという。部屋を訪ねると、室内から掃除機をかける音がよく聞こえてきた。秀子さんは耳が少し遠く、数年前に精神状態に波がある時期があったという。

広瀬容疑者の母・秀子さんの遺体が放置されていた階段踊り場付近

「鉢植えは消防に注意されたらしく“ベランダに移したのよ”と話していました。十数年前に一度だけ、60代ぐらいの男性が秀子さん宅を訪ねてきたことがあり、そのことを話したら“知らないわよ!”と言われてしまいました。秀子さんは“忙しくて、忙しくて”とか“息子の具合が悪くて仕事を休むことになり、イヤになっちゃう”などとこぼしたこともありましたね」(団地の女性住人)

 剛容疑者は独り言をつぶやきながら団地周辺を歩くことがあった。団地住人が挨拶をしても返さず、スッと消えるのが常だった。

「以前、剛容疑者が激高して、近隣宅の玄関をボコボコに叩いて回ったことがあったんです。住人に怒鳴られたか叱られたのが気に障ったみたいで、秀子さんは“うちの子がそんなことやるわけないでしょ”と最初は庇っていたそうですが、やがて納得したのか“ドアのへこみなど、全部弁償します”と謝って歩いたといいます」(同・住人)

 年配の女性と中年の息子。世間でいえば息子が母親の手を引いて……という光景が想像されるが、この母子はそうではなかった。

「どちらかといえば、秀子さんが剛容疑者に寄り添っている印象です。秀子さんの運転する軽自動車で、2人でよく買い物に行っていたから親子仲はよかったんですよ。剛容疑者はぶっきらぼうな面がありますが、秀子さんが持っている荷物をバッと横取りして持ってあげたりして。秀子さんはうれしそうでした」(同・住人)

 救急車を呼ばず、動かなくなった母親と自室で向き合って1週間以上たったころ、闇に乗じて団地内の階段踊り場に遺体を運んだとみられる。人目につく場所だから隠す意図はなかったのかもしれない。誰かに見つけてほしかったのだとすれば、あまりに残酷な親子の別れだろう。