「サイタマ」の名前で活動する29歳のSNSクリエイター。2022年にステージ4のがんが見つかり、現在も闘病を続けながら日常や思いを発信している。飾らない言葉とユーモアを交えた投稿が共感を呼び、フォロワーを中心に多くの支持を集めている。

 日本人の2人に1人ががんになる時代。厚生労働省によると、がん患者のおよそ3人に1人は20~60代で発症しており、多くの人が仕事を続けながら通院・治療を行っている。

 がんの闘病は、もはや特別なものではなく、日常と地続きの出来事だ。

動画配信を開始したきっかけは薬の副作用

 ステージ4と診断された29歳の女性・ユーザーネーム「サイタマ」さんが動画配信サービスのTikTokで発信しているのも、そんながん患者の等身大の日常である。

「最初にがんと診断されたのは25歳の終わりです。のどのがん、上咽頭がんでしたが、リンパへの転移もあり、ステージ2と告げられました。抗がん剤と放射線の治療で、一度はがんを取り去ったのですが、その後の検査で再発がわかり、ステージ4に進行していました」(サイタマさん、以下同)

「最初にステージ2と診断されたときは、家族や周囲にがんに罹った人がいなかったこともあって、“まじか~”という感じで、感情もいっぱいいっぱい。不安でいろいろ調べたけれど、情報が多すぎて、結局よくわからない状態でした。考えたところで治るわけじゃない。だから、医師に言われたことをするしかないと。だから、ステージ4と診断されたときも、医師を信じるしかないと自然に思えました」

 抗がん剤投与と放射線治療のつらさを経験していたからこそ、再び同じ苦しみを繰り返すのかと思うと、気持ちが折れそうになることもあったという。

「再発して新しい薬を2種類試したのですが、そのうち1つの副作用が肌に出てしまいました。赤い発疹が全身に広がり、真っ赤に腫れて痛みも強く、目も開けられないほどに。その対処法が何かないかと、自分の肌の状態を撮影してアップしたのが、動画配信を始めたきっかけです」

抗がん剤治療の副作用で皮膚障害が出て、両腕に赤い発疹が

 配信を続けるうちに、同じがん患者からのアドバイスや励ましのメッセージだけでなく、スキンヘッドでファッションやメイクを楽しむサイタマさんの姿に、「カッコいいです」という声も寄せられるようになった。

 友人とカフェに行ったり、家族とディズニーランドで遊び、恋人とデートをしたりする様子は、20代女性のごく自然な日常そのものだ。

「治療の影響で髪が抜けてしまうので、中途半端に残すより、思い切ってスキンヘッドにしました。もともと服飾系の大学に通っていたこともあって、スキンヘッドにはあまり抵抗はなかったですね。ユーザーネームの『サイタマ』も、スキンヘッドのアニメキャラクターから取ったもので、埼玉県出身というわけではありません(笑)。

 スキンヘッドにすると、朝の仕度に時間がかからなくなってラクですよ。でも、冬は寒くて風邪をひきますし、夏は直射日光を受けてとにかく暑いです。頭で目玉焼きが焼けるんじゃないかってくらい。あと、鼻毛も抜けちゃうので、気がつくと鼻水がたれていることがあります」

家族、恋人、親友、愛犬が心の支え

 再発がわかったとき、“医師におまかせ”としながらも、サイタマさんがこだわったのは“通院しながら治療する”ということ。

「もともと、さみしがり屋というのもあって、1人でいるのがあまり得意じゃないんです。ステージ2のときは入院していたのですが、つらくて泣いてばかり。気持ちも落ち込んでしまったので」

 治療の日には、あえておしゃれをして出かけることも、前向きに向き合うための工夫のひとつ。病院へ向かう様子や、待ち時間に編み物をする姿なども動画で発信している。幸いにも、もう1種類の薬の効果が認められ、現在は3週間に1度のペースで治療を続けている。

休日に愛犬と彼氏とカフェへ(右・サイタマさん)

「毎回、同じ曜日に来ているので、看護師さんもいつものメンバー。会えるのがうれしくて、おしゃべりしに行く感覚ですね。病院の中にスタバがあるんですが、そこの店員さんとも顔なじみに。治療後のご褒美に立ち寄ることも、通院の楽しみのひとつです」

 とはいえ、治療がラクなわけではない。

「抗がん剤を投与した翌日から、吐き気やだるさが2~3日続き、食事もできない状態。関節痛や手足のしびれが出ることも。この期間は仕事を休ませてもらいますが、それ以外の日はフルで出勤しています」

 とても自然体なサイタマさん。それは周囲との人間関係も大きく影響している。

「家族や彼氏、親友たち、そして職場の人が応援してくれていて、ポジティブな言葉をかけてくれるので、助けられています。スキンヘッドにしたときも、彼氏は“かわいい”って言ってくれてうれしかったですね。

 がんになる前と後で、いい意味で人間関係は変わっていません。心配はしてくれますが、以前と変わらず接してくれるのが、ありがたいですね。そして、愛犬の存在も大きいです。副作用でつらいときも、そばにいてくれるだけで癒しになります」

 がんになってから、変わったことはあるのだろうか。そう尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「体重が増えて、体力がつきました。もともと食が細くて筋肉もなかったんです。でも、なるべく食べるようにして、体重も前より増えました。今は彼氏と一緒に暮らしているのですが、犬も飼うようになって、お散歩などで身体を動かす機会が増えたことで、ずいぶん体力がついたと感じています」

 昨年の夏からアルコールも解禁。最近はメイドカフェに行くことにハマっているというサイタマさん。

「月に1~2回くらいですね。親友と仲のよいメイドさんとのおしゃべりを楽しんでいます。休みの日はつい遊びの予定を入れちゃいます。あと、ギリシャ神話が好きなので、検定を受けてみたいなとも思っていますし、韓国語や英語など、語学にも興味があります」

 そんなふうに、治療の合間にも、日常を楽しむ時間を重ねている。同じように闘病する人たちへ、サイタマさんは思いを語る。

「1人にならないこと。周囲に甘えていいと思うんです。無理しすぎず、思い詰めないでほしい。髪が抜ける副作用も、人によってはつらいですよね。

 私はスキンヘッドにしましたが、今は良いウィッグもたくさんあります。これを機に金髪にしたり、ピンクにしたり、おしゃれを楽しんでもいい。がんの治療も日々進歩しています。あまり思い詰めずに共に今を楽しんでもらえたら」


取材・文/小林賢恵