古くは朝ドラ『あまちゃん』の久慈市、最近では映画『国宝』のびわ湖大津館……。“推し”のドラマや映画のロケ地を巡るムーブメントは、地方活性化の王道に。激しくなる撮影誘致の最前線とは?
びわ湖大津館には7.5万人が
人気ドラマや映画のロケ地を訪問する“聖地巡礼”が注目を集める中、地域活性化に貢献した作品と地域に贈られる「第16回ロケーションジャパン大賞」(雑誌『ロケーションジャパン』選定)の授賞式が今年2月に行われた。
今回、過去最多となる88地域のノミネートの中からグランプリに選ばれたのは、興行収入200億円超えを記録した大ヒット映画『国宝』とそのロケ地「滋賀県、大阪府東大阪市、兵庫県豊岡市」の3か所となった。
「昨年6月に公開され、口コミ効果もあって11月には『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年公開)の歴代邦画実写興行収入を上回った実績は申し分ありません」
こう話してくれたのは、『ロケーションジャパン』の名物編集長・山田実希さん。映画公開の直後のことをこう語る。
「昭和初期のレトロな洋館・びわ湖大津館には7.5万人、豊岡市にある日本最古級の木造芝居小屋・出石永楽館にも8万人の聖地巡礼者が殺到。どこの施設も前年に比べて来館者が増えています。さらに関西広域ロケ地マップの作成やパネル展、SNSでの情報発信など、3つの自治体それぞれが“何かしたい”という思いから協力し合って、観光誘客に大いに貢献しました」
数々の映画賞を受賞した『国宝』に、また新たな勲章が加わったことになった。ちなみに「準グランプリ」に選ばれたのは、朝ドラ『あんぱん』(NHK)のロケ地となった「高知県、同県の南国市、香南市、香美市、芸西村」。
その効果もあって、昨年のゴールデンウイークの観光客は前年に比べて200%アップしている。
「4種類のゆかりの地マップを作成して、ツアーを実施。スタンプラリー、ラッピング列車・バスなども走らせてファンを魅了しました」(山田編集長、以下同)
そのほかにも、「部門賞 支持率部門」では、昨年10月期ドラマ視聴率No.1に輝いた日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)のロケ地になった「北海道日高町、新ひだか町」。
「部門賞 撮影サポート度部門」には、脚本家・三谷幸喜のオリジナルドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう(もしがく)』(フジテレビ系)で注目を集めた「千葉県茂原市」が選ばれている。
「日高の牧場を舞台にした広大なロケーションは、新しい競馬ファンを獲得。昨年末の競馬の祭典・有馬記念のファン投票では、史上最多の投票数を集めるなど、競馬の世界への認知度が飛躍的に高まりました。
さらに『もしがく』では、1984年の渋谷を再現した大規模なセットを茂原市の旧ひめはるの里に建て、市役所、警察、商工会議所、教育委員会などを巻き込んだ『千葉もばらロケーションサービス』の官民連携の体制がドラマ制作サイドから高い評価を受けています」
聖地巡礼ブームのレジェンドドラマは
年々、大きな盛り上がりを見せる「ロケーションジャパン大賞」。実はこのブームには影に地方創生に関わる大きな可能性が隠されている。
「始まった当初は、ドラマや映画のおかげで観光客が増えてくれる。地方自治体のリアクションもその程度のものでした。その認識を一変させたのが'13年に放送されたNHKの朝ドラ『あまちゃん』でした」
地方自治体に衝撃を与えた、驚くべき『あまちゃん』ブームの一端をのぞいてみよう。
東日本大震災のあった'11年には5000人を割り込んでいたドラマ撮影地、岩手県久慈市の「小袖海女センター」の入場者数が、放送された'13年にはなんと20万人を突破。
当時ロケ地となった地元自治体の経済効果は、一説によると約33億円(2013年9月2日 岩手経済研究所発表)。県全体では100億円超えともいわれている。
その勢いは止まらず、放送が終わり5年以上たっても、夏に行われる「海女フェス」や秋祭りには5万人を超える観光客が聖地巡礼に訪れていた。
しかも全世界でも放送されたおかげでインバウンド効果を生み、花巻空港から来る観光バスのために、聖地・小袖海岸への細い道が拡張工事されたことも当時話題となった。
さらに'23年には放送10周年を迎え、記念イベントも行われるなど『あまちゃん』は“聖地巡礼”のレジェンドとして今もなお愛されている。
そんな『あまちゃん』の成功を、ほかの自治体もただ指をくわえて見ているばかりではいられない。“二匹目のドジョウ”を狙って地方自治体も積極的に動き出す。ところが、結果的には思うような成果を上げることはできなかった。
ほとんどの自治体が一過性の対応で終わっていた
いったい、何が問題なのか。
「朝ドラや大河ドラマの舞台に選ばれても、当時は観光課の中に放送期間に『特別推進室』ができるだけ。放送が終わったら、きれいさっぱりなくなってしまう。これでは放送期間中に訪れる観光客が増えるくらいの効果しか期待できません。ほとんどの自治体が一過性の対応で終わっていたんです」
こうした失敗を積み重ねるうちに、映画やドラマ・旅番組のロケ地を訪ねて、その地域の風景や食、文化、人との交流を楽しみ、その魅力を再発見する“ロケツーリズム”という考え方が生まれる。
「ロケ地となった地域の魅力を効果的に発信することで、観光誘客や地域振興のプロモーションにつなげる。“ロケツーリズム”による地方創生が『あまちゃん』をきっかけに全国の地方自治体を巻き込み、大きなムーブメントとなっていきました」
では聖地巡礼者は、ロケ地に何を期待しているのか。エンタメ好き3000人に聞いた!ロケ地で楽しみたいことアンケート(「ロケーションジャパン」調べ)によると、
【1位】ロケ地周辺の観光スポットに立ち寄りたい
【2位】記念写真、なりきり写真を撮りたい
【3位】その地域の名産品が食べたい・買いたい
【4位】有名人が食べたグルメを食べたい
【5位】撮影裏話が聞きたい
こうした聖地巡礼者のニーズを捉え、“ロケツーリズム”の波にうまく乗ることができた地方自治体の例をいくつか紹介しよう。
山田編集長の頭にまずパッと浮かぶのが、静岡県の西伊豆町と伊東市だという。特に西伊豆町は人口6500人程度の小さな港町だが、'20年からわずか4年で映画やドラマ、情報番組などのロケがなんと10倍に増えているという。
「その秘密は町長自ら音頭をとって、『ロケさぽ西伊豆』を立ち上げ、官民一体となってロケ地紹介から炊き出し、宿泊先までお世話をしています。'22年には高視聴率を叩き出した、なにわ男子・道枝駿佑さん主演のドラマ『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)が“無人島に見える光景”を探していると聞き、町長が田子瀬浜をロケ地として推薦。
撮影後には、桟橋のセットを譲り受け、黄金崎クリスタルパークに展示して今も多くのファンが訪れています。また去年の朝ドラ『あんぱん』ではヒロイン、のぶ(今田美桜)が、丹野平から絶景を前に『手のひらを太陽に』を歌い、アンパンマン誕生の重要シーンも記憶に新しいところです」
ロケスケジュールが組みやすい伊東市
こうした“ロケ地”を生かす町ぐるみの挑戦が功を奏して、直接的な経済効果はもちろんのこと、広告換算効果や関係人口も大幅に増加。ふるさと納税の返礼品にも注目が集まっている。
一方の伊東市も負けてはいない。隣の熱海市に影響を受けて、積極的に活動した結果、今ではドラマや映画だけでなく情報番組でも引っ張りダコのようだ。
「伊東市には昭和の商店街もあれば、海で青春ものも撮影できる。しかも東京から比較的近く、ロケスケジュールが組みやすいのも魅力の一つです」
こうした成功を目の当たりにして同じ静岡県内の三島市も今年、ブレイクする兆しをみせている。東京から近い伊豆半島は今、ロケ地を巡って市町村の熱い闘いが繰り広げられているのだ。
しかし日本のロケ地の素晴らしさに気がついたのは、日本人だけではなかった。なんと“世界のハリウッド”が、日本のロケ地に大注目。オール日本ロケを行った映画『レンタル・ファミリー』が、今年の2月末に公開されている。
「本作は『ザ・ホエール』('22年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した名優ブレンダン・フレイザーが主演。東京に暮らす落ちぶれたアメリカ人俳優フィリップが、“レンタル家族”という仕事に出合い、家族の一員や友人の役割を演じるうちに想像もしなかった人生を体験するといった展開を見せます」
中でも山田編集長の目を引いたのが、フィリップが喜久雄(柄本明)の故郷・長崎県天草市を目指して旅をする場面である。
「今や誰も住んでいない喜久雄の生家の佇まい、巨大なアコウの木が岩を抱えるように根を張る神秘的な“西平椿公園 ラピュタの木”も圧巻でしたが、私はフィリップと喜久雄が海路で天草を目指す前に登場する“日本一海に近い駅”として知られる島原鉄道・大三東駅の美しさに息をのみました」
有明海を背にして屋根も柵もないホームは、これまでも多くの映画やドラマの舞台になってきた唯一無二のロケ場所。短いシーンだが、ハリウッドも認めたこのロケーションには洋の東西を問わず、人間の心を酔わせる何かがあるようだ。
「以前から“ロケツーリズム”に取り組んできた島原市のすごいところは、シティープロモーション課の中にロケツーリズム班があることです。しかも市長直轄だから、決裁がとても早い。民間とタッグを組める若手職員が部署横断的にチームをつくって、PR動画をはじめ、さまざまなコンテンツを発信しています」
長崎県といえばもう1か所、忘れてはならない山田編集長いち推しのロケスポットがある。
「大小152の島からなる五島列島の北部に位置する新上五島町。これまであまり知られることがありませんでしたが、福原遥さん主演の朝ドラ『舞いあがれ!』('22年)を見て五島列島の魅力に気がついたファンも多いようです。断崖絶壁に建てられた教会をはじめ、ほかでは見ることのできない絶景の数々を、ぜひ一度堪能してほしいものです」
「聖地移住」も急増中
映画やドラマ・旅番組のロケ地を訪ねて、その地域の風景や食、文化、人との交流を楽しみ、その地域の魅力を再発見するロケツーリズムを堪能するうちに、いつしか“ロケ地愛”が高じて「聖地移住」する人たちも近頃は急増しているという。
「『聖地移住』という言葉がよく聞かれるようになったのは、累計1000万部を超えるベストセラー漫画『からかい上手の高木さん』がアニメ化、'24年には映画化されたころからではないでしょうか。
舞台となった香川県の瀬戸内海に浮かぶ小豆島にはこの作品が好きすぎて『聖地移住』した方たちもいらっしゃいます。Iターンと違って『聖地移住』は大好きな物語の舞台だけに日々新たな発見もあり、愛着もひとしお。これからは定年退職後のIターンではなく、趣味の縁(趣味縁)でつながる『聖地移住』こそ、地方創生のトレンドといえるのでは」
そう語る山田編集長も聖地巡礼を経て、3年ほど前に「聖地移住」に踏み切った1人。だからこそ説得力もある。
地方都市の過疎化が社会問題視されるようになって久しい昨今。一説によると、「移住者1人は観光客100人分の経済効果がある」といった試算もある。「聖地移住」こそ、地方創生を担うキラーコンテンツなのかもしれない。
