2010年に来日したジャスティン・ビーバー

 アメリカのカリフォルニア州で毎年開催される、世界最大級の音楽フェス『コーチェラ』が今年も開催中だ。

『コーチェラ』チケットは争奪戦

「日程は4月10日から12日までの3日間と、17日から19日までの3日間の計6日間。世界最大級ということもあり、昨年の動員数は合計で約24万5,000人ほどだと推定されています」(音楽誌ライター、以下同)

 一時期、人気が落ちかけていたコーチェラだが、昨年は大物をそろえたために会場には熱気が戻ってきた。しかし、今年のチケットの争奪戦は相当なものだという。背景には大人気アーティストの存在がある。

「毎年、各日程には“ヘッドライナー”と呼ばれる大トリのアーティストがおり、音楽に詳しい人でなくとも、このヘッドライナーを楽しみに訪れる人も多くいます。昨年はレディー・ガガやグリーン・デイ、ポスト・マローンが出演したためにフェス自体の人気が復活。今年はヘッドライナーの1人にジャスティン・ビーバーが名を連ねていることもあり、昨年より注目を集めているのです」

 ジャスティン・ビーバーと言えば、2022年、自身の体調不良で『Justice World Tour』を中止に。その後、今年初頭のグラミー賞で、ミニマムなパフォーマンスを披露しているが、本格的なステージの復活は11日のコーチェラとなった。

「当日、ジャスティンは赤いフーディーにオーバーサイズのショーツ、サングラスという非常にリラックスしたスタイルで登場。コーチェラ名物と言っても過言ではない、たくさんのバックダンサーや派手な衣装、大がかりな舞台装置などはいっさいありませんでした。

 途中、持ち込んだPCを開き、自身のYouTubeのMVを再生しながら合わせて歌うというパフォーマンスを行う一幕も。前日のヘッドライナーである、サブリナ・カーペンターがきらびやかな衣装を何度も変えたり、豪華な舞台セットを準備していたのもあり、彼のパフォーマンスには批判の声も上がっています」

出演料は約16億円

 しかし、1995年から2016年までニューヨークに在住していた、音楽ライター兼翻訳家の池城美菜子さんは、今回のステージを見て「素直だな」と感じたという。

「コーチェラはフェスの様子をYouTubeで生配信しています。会場にいる人たちだけでなく、画面の向こう側の何億という人たちにも楽しんでもらいたい。どう繋がるかということを考えたんだろうと感じるパフォーマンスでしたね」

 シンプルさの背景には、金銭的な問題も十分に考えられるという。

「今回、ジャスティンは約16億円の出演料だという噂もあり、シンプルな演出に批判の声があるのも理解はできます。しかし、自身の不調から『Justice World Tour』をキャンセルした際、驚くような金額の違約金を背負っており、今までのカタログ(編集部注:リリースから一定期間が経過した楽曲の集合のこと)を290億円で売却しているんです。それでも返せないぐらいの金額だというふうに言われているんですね。こうした背景も舞台演出に影響を与えているとは思います」(池城さん、以下同)

 YouTubeの演出も、自身のカタログを他人に委ねた現状を逆手に取った、皮肉まじりの“セルフ・オマージュなのでは”という指摘もある。

「過去の自分と折り合いをつけたいのかなと思いました。彼の心境や精神状態を全部入れ込んだようなステージだったと思います。覚悟みたいなものもあるのかな。やっぱり自分はミュージシャンだから、音楽でやっていくんだという覚悟のようなものも感じましたね。彼はポップスと思われがちですが、ラップやR&Bも好きで、今回の舞台の演出はカニエ・ウェストの美学にも近いように感じますね」

 ゲストで出演してくれたアーティストとのコラボレーションにも、しっかり意味があったようだ。

「テムズとウィズキッドの2人が登場しましたが、彼らはナイジェリアの大スターなんです。披露した『Essence』はアフリカの音楽好きな人が大絶賛した曲で、ジャスティンがフィーチャリングとして一緒に参加することで、より広い人に伝わるじゃないですか。また、『DEVOTION』ではディジョン、『DAISIES』ではベースでMk.geeとアルバムのプロダクションを担った人たちが登場しました。そこを最後に持ってきて、名前を出して彼らが輝くように見せたのはかなりグッときましたね」

 18日のヘッドライナーも、ジャスティンが務めることが決まっている。こうした彼の背景を汲んでから見るステージは、より輝いて見えることだろう。

池城美菜子●音楽ライター/翻訳家。ヒップホップ・カルチャーを中心にアメリカの世相、映像作品について執筆と翻訳、歌詞の対訳を手がける。著書『ニューヨーク・フーディー』、翻訳『カニエ・ウェスト論』など