元TBSアナウンサーの木村郁美

「実は私、結婚した相手にだまされて、3億円もの負債を背負わされたんです」

 こう語るのは、元TBSアナウンサーの木村郁美。現役時代のレギュラー番組は『王様のブランチ』や『チューボーですよ!』など、9本にも上る。彼女が今、壮絶な過去を語ることができるのは、

 現在の夫との日々の対話の中で、“悪魔”と呼ぶ元夫・Aさんとの記憶を整理できたからだ。当初は苦痛だった記憶も次第に笑って話せるようになったというが─。

「入社2、3年目のころ、朝の生放送番組を主に担当していたのですが、特番や収録番組も任されるようになり、昼夜問わず働いていました。十分な睡眠を取れない生活が10年ほど続いてしまったんです。心身ともに疲弊し、“誰かに守られたい”という心理状態にありました

 その隙を突くように現れたのがAさんだった。

「出会いは、彼が主催するパーティーです。私がワインエキスパートの資格を持っていたことから、ワインに詳しい人を探していたため、声をかけられ、司会も兼ねて参加しました。ただ、当日は体調がかなり悪くて、第一印象はほとんど記憶にないんです」

 Aさんとは自然な流れで付き合うことになったという。

「彼の強引さは際立っていて、出会いからわずか4か月で入籍してしまったんです。当時はその強引さが頼もしく見え、マイナスな部分を意図的に見ないようにしていました」

連帯保証人となり3億円以上の負債

 Aさんは典型的な手口で彼女を孤立させた。言葉巧みに自分のことを信じ込ませて、判断力を鈍らせた状態で関係を進めていく。

入籍後すぐに、彼の事務所に呼ばれ、よくわからないまま、書類にサインをさせられました。後からわかったのですが、それが銀行の連帯保証人のサインだったんです

 事業で資金が必要だったようです。今であれば、ステップを踏んだ上でサインするのだと思いますが、当時は言われるがまま、簡単にサインしてしまったんです。最終的におよそ3億4000万円の負債を背負うことになってしまいました……

木村郁美。およそ3億円の負債は弁護士を交えて金融機関と交渉し、大幅に削減することができた

 さらに、投資の名目で自身の貯金をすべて現金で渡してしまったという。銀行との手続きも軽い雰囲気の中で行われ、重大な契約であるという認識が薄かったようだ。

「“僕の預けている海外口座は金利が高い”など甘い言葉に乗せられてしまいました。しかも“送金だと手数料が高いから”と言われ、各銀行を巡ってすべてのお金を引き出してしまったんです」

 結婚後、Aさんは自宅にもほとんど帰ってこなかったため、2人で話し合う機会もほぼなかった。常に第三者が同席し、金銭問題を直接ぶつけることができないようにされていたのだ。

違和感を抱えながらも誰にも相談できず、精神的に追い詰められていきました。離婚できたとしても、連帯保証人が外れるわけではない。でもこの状況を脱するためには離れることがいちばんだと考えました。思い切って父親に打ち明け、弁護士を立てて別居に踏み切ることになりました

 極限状態の中で死を考えたこともあったというが、

「弁護士が“死んでしまったら家族に負担が及ぶ”と私のために嘘をついてくれたことで、踏みとどまることができました」

冷蔵庫を部屋に置かない生活へ

 それでも、新居には冷蔵庫を含め、家具がない状態が続いた。

「仕事が忙しいことで、部屋を整えることができませんでした。何より、3億円の負債があるので、何かを買うこともなくなり節約に徹することにしたんです。会社に出社すれば、冷たいお水を飲むことができるので、冷蔵庫もしばらくは必要なかったですね」

 日々の生放送をこなす中、だんだんカメラに映ることがつらくなってきたという。

「カメラの前では意識をして、口角を上げるように頑張っていましたが、常に顔が暗い表情になってしまうんです。マツコ・デラックスさんが私を心配して、声をかけてくれたこともありました」

 別居から離婚へと決意を固め、意を決してAさんと話し合いをすることに。

「2人で会うのにTBSの近くのカラオケボックスを選びました。中には監視カメラもついていますし、何かあったときのために、父にもスタンバイしてもらっていたんです。絶対離婚しないと言われると思ったんですが、意外にすんなり、離婚届に判を押してもらうことができました」

 離婚は成立したものの、彼は自己破産していたため、木村に返済の責任は残った。その後は、弁護士を交え返済交渉の日々が続いた。そして、Aさんが逮捕されたことを、自社のニュースで知ることに。

自分が読むはずだった原稿が差し替えとなり、別の方が読むことになったんです。ブースの中からそのニュースを見ていると、突然、Aさんの名前が出てきたんです。私以外にも、複数の被害者がいて、逮捕時点で負債は2億円超え。最終的に20億円以上の負債を抱えていたことが明らかになりました。彼が本物の詐欺師だったと認識できたことで、自分を責める気持ちがわずかですが軽くなりました

 現在の夫とは、すべてを打ち明けた上で関係が始まった。

「食事会で今の夫に出会いました。すぐに恋愛へ進んだわけではなく、負債問題の相談に乗ってもらっていたんです。弁護士などを交え金融機関とも交渉し、債務を大幅に削減してもらったことで、ようやく自力で完済できました。ATMで最後の振り込みをした直後は、感情が爆発して号泣してしまいましたね

再婚夫が心臓発作で心肺停止状態に

現在は食のキュレーターとして活動中の木村郁美。サルサを楽しむことも(インスタグラムより)

 再び人生を取り戻したと感じたのは、「笑い声が戻った」と言われたときや、無意識に鼻歌を歌っていた瞬間だったという。現在の夫と交際することになったものの、さらなる試練が木村を襲う。

「彼が心臓発作を起こし、心肺停止状態になったんです。一命は取り留めましたが、重度の障害が残るか、意識が戻らない可能性も覚悟してほしいと告げられました」

 夫は奇跡的に回復し、後遺症もないという。“悪魔のような経験”から、2度目の結婚願望はなかったというが、ふたりは結婚することに。

「雪が解けていくみたいに気持ちが軽くなって、ずっと一緒にいたいなと思えたんです。現在は経営者の夫を支えながら、生産者とシェフや消費者をつなぎ、食の体験を豊かにする編集者のような役割を果たす、食のキュレーターとして活動しています。

 みなさんに伝えたいのは、“安易に捺印しないこと”“貯金額を明かさないこと”そして“必ず周囲に相手を会わせること”。なによりいちばん大事なことは、悩んでいるときは1人で抱え込まずに友人に頼ってもいいということです

 3億円を超える負債に押しつぶされかけながらも、彼女は人生を立て直した。