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 肉体的にも精神的にもきつく、重い負担を伴う、親の介護。そのときはある日突然やってくる。すでに、その渦中という人もいるだろう。

「親の介護負担が原因で、うつ病を患うケースは少なくありません」

 こう語るのは、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん。太田さんは老親介護の現場を数多く取材し、そこで得た情報を多方面で発信している。なぜ、親の介護で心に不調を来してしまうのか。そこには必然的な理由が潜む。

頑張りへの成果が見られず心を病んでいく

「介護って先が見えないんです。平均寿命が延び、介護期間は長く続きます。また介護の場合、仕事と違って頑張りに対する成果が望めません。むしろ親の身体は年齢とともに弱まっていくので、介護をしても状態が好転しないことに悩み、気持ちも落ち込んでいきます。さらに介護者の多くは孤独に陥りがち。これらの要因によって心が痛んでいきます」(太田さん、以下同)

 そんななかで追い打ちをかけるのが、親の介護に関する固定観念だ。

『育ててもらった恩返し』という言葉に縛られてしまう人が多くいます。親への恩返しのために介護するのが子の努めであると。『孝行のしたい時分に親はなし』という言葉も同様。子本人が思っているだけでなく、親戚などが口にするケースもあります。どちらにせよ、精神的に追い詰められて逃げ場がなくなるわけです」

 太田さんは、父親を介護する50代後半女性Mさんの例を挙げる。Mさんは社会保険労務士の資格を持ち、2人の子どもの子育てを終えてから都市部で開業。仕事に追われつつも、充実した毎日を送っていた。その矢先に地方に住む両親のうち母親が他界。父親は一人暮らしとなり、いつしか認知症を発症した。

「Mさんは都市部の事務所を閉め、地方の実家で父親を介護していました。会ってお話ししたときは、『(父親に対し)恩があるから……』と口にされ、涙をぼろぼろこぼし、気持ちの強い落ち込みが見られました。実際、心療内科に通院し、薬を服用しながらの介護生活でした」

 出口の見えない親の介護で身体も疲弊。そこに襲いかかる「恩返し」という思考が重責となり、メンタルが崩壊してしまう。回避するにはどうすればいいのか。

「子育てに置き換えてみてください。私自身も子育てを終えていますが、子どもに対して『恩を返せ』なんて発想は一切なく、むしろ『大きく育ってくれてありがとう』くらいの気持ちです。このように立場を入れ替えたら、親が“恩返しをしろ”と言っているわけではなく、自分の勝手な思い込みだと気づくのではないでしょうか

親ではなく、仕事の「マネジメント」と考える

 親の介護に直面した際、「同居こそ親孝行」と考える人も少なくないそうだ。親と子は別々に暮らしているケースが多く、同居したら親が安心すると考え、今暮らしている家に呼び寄せる。だがこれは、介護の負担だけでなく、生活の変化によるストレスを背負うハメになる。そして、自分の家族との関係も変えることにつながりかねないという。

「親の介護のために、自身の生活を大きく変えるのは、おすすめできません。介護に専念したくて、固い意志で親との同居や仕事を辞めるなどするなら別ですが、そのときその場の気持ちで決めないほうがいい。自分の家族の賛同が100%得られないなら、なおさらです」

 ポイントは、「介護はマネジメントと考えること」と太田さん。

親が今、『できること、できないこと』を客観的に見極めます。そのうえで、できないことをサポートするのが介護の理想形です。親ができることは自分でやってもらいます。“親”であることを切り離し、仕事としてマネジメントできれば、介護の肉体的かつ精神的な負担を減らせるんです」

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 親ができないことは、家族でサポートするか、介護サービスを利用するかを選択。決して自分一人では抱え込まないこと。

「兄弟姉妹がいれば、協力し合って親の介護を行います。もちろん、介護サービスも併用するべき」

 また、女性は要注意な点があるという。

「『介護は女性の役割』として、男兄弟に押しつけられるケースが多いのです。そこで腹を立てケンカをしても、問題は解決しない。代わりに、金銭面を多く負担してもらったり、介護施設をすすめる役目は任せるなど、役割分担をしましょう」

 一方、遠距離介護の場合は頻繁に通えないため、どうしても介護サービスを利用する割合が多くなる。

「各自治体の地域包括支援センターに相談し、必要な介護サービスを選びます。親が少しでも自立して暮らせるような体制を築きます」

 親ができることまでフォローするのは、逆効果にもなるという。

「何でもやってあげることが正解とは限りません。むしろ、料理や掃除など親のできる力を奪うことにもなりかねない。大事な親だから、できる限りのことをしてあげたい気持ちはわかります。でも、自分が笑顔でなければ、親を笑顔にすることはできない。だから自分を最優先にして、親の介護と向き合うことが大切だと思います

先が見えない不安に襲われる、介護うつに陥った実例!!

 2つの実例を紹介。

実例1 母親が他界して、父親も認知症に

 子育てを終えてから社会保険労務士として起業したMさん。都市部で多忙な日々を送る中、地方で暮らす両親のうち母親が他界。一人暮らしとなった父親が認知症を発症し、地方の実家に戻っての介護を余儀なくされた。「Mさんは父親の介護を『育ててもらった恩返し』と捉えていました。加えて、仕事が忙しく母親の介護、看取りを父親任せだったため、そのことに負い目も感じていました。二重のプレッシャーを胸に介護に専念するも、心身の疲弊は明らか。診療内科の薬を手放せない状態でした」(太田さん、以下同)

実例2 介護中の義母と同居で、肩身が狭く

 要介護の義母と同居して、在宅介護中のSさん。嫁という立場で肩身は狭く、義母との関係も良好とはいえない。そんな中での介護の日々は気が重くなるばかり。「気分転換に買い物に行きたくても、義母が家にいて出かけられない。義母がデイサービスの間に行こうと思っても、近所の目が気になって出かけられない。『あそこの嫁は遊びほうけている』。そう言われているとSさんは思い込んでいるんです。うつ症状を改善するために、精神安定剤を服用されていました」

兄弟姉妹の仲違いが勃発するケースも!

 兄弟姉妹の場合、親の介護でもめやすい。よくあるのが、「親の介護は女の仕事」と考える男性兄弟に対し、押しつけられる側の女性姉妹のほうは納得できず、ケンカになるというケース。「親の介護は兄弟姉妹で協力し合うのが理想。母親は息子、父親は娘のほうが聞く耳を持ちやすいため、それぞれの立場を生かして親に介護施設やサービスの話をするなど、連携して協力するようにしましょう」

太田差惠子さん 介護・暮らしジャーナリスト。京都市生まれ。老親介護の現場を取材し、役立つ介護情報をさまざまなメディアを通して発信。ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、「お金と介護」についても詳しい。企業、組合、行政で講演を行うなど幅広く活躍。著書も多数。
教えてくれたのは…太田差惠子さん 介護・暮らしジャーナリスト。京都市生まれ。老親介護の現場を取材し、役立つ介護情報をさまざまなメディアを通して発信。ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、「お金と介護」についても詳しい。企業、組合、行政で講演を行うなど幅広く活躍。著書も多数。

取材・文/百瀬康司