ハッピーセットに「ちいかわ」のおもちゃが登場(マクドナルド公式サイトより)

「またか……」。

 SNS上には、そんな落胆と怒りが入り混じった声が溢れかえっている。

 いまや日本中を席巻している人気キャラクター『ちいかわ』。その勢いはとどまるところを知らず、コラボ商品が発売されるたびに各地で争奪戦が繰り広げられている。そんななか、ファンがもっとも警戒し、そして期待を寄せていたのが、日本マクドナルドから5月15日から発売されるハッピーセットの『ちいかわ』だ。

 前回のコラボでは、わずか数日で完売店舗が続出し、早朝から並んだのに手に入れられなかったファンが涙を呑んだのは記憶に新しい。その反省を活かし、今回はフリマアプリ大手の『メルカリ』が、発売前から「出品禁止」という異例の措置を講じることを発表した。

 運営側が事前に「特定商品の出品禁止」を打ち出すのは、極めて異例の対応。これでようやく、子供たちが純粋に楽しめる環境が整うかと思われた。しかし、その“鉄壁”のはずの守りには、すでに巧妙で悪質な穴が空いていたのだ。

SNSで拡散される「ちいかわ」隠語出品

 一連の騒動と特例措置のため、メルカリの運営側はAIによる監視の目を光らせており、「ちいかわ」「ハッピーセット」といったキーワードを組み合わせた出品は、即座に削除対象となるはずだ。

 しかし、検索条件を少し工夫し、特定の「カテゴリー」や「価格帯」で絞り込んでいくと、そこには異様な光景が出てくるかもしれない。

「今回、特例措置が取られることになりましたが、SNSでは“どうせ出品される”と見る人が多くいます。直接的なワードを避け《ちい○わ》《Cカワ》、もしくは、あえて正式名称で《小さくてかわいいやつ》だったり、《白、青、黄色》などと、キャラクターの色並びで表現するなど“隠語”が使われるのではともっぱらの噂です」(40代ちいかわファンの女性)

 なかには、まったく別の安価な商品を300円で出品し、購入後の取引メッセージ内で「実はちいかわの在庫があります。別ページで〇〇円でどうですか?」と直接交渉を持ちかける、極めて悪質な“闇取引”のケースも過去に報告されてる。

 これにはSNS上でも、「そこまでして金稼ぎしたいのか」「子供の楽しみを奪うな」と批判が殺到。本来、親子でワクワクしながらマクドナルドへ向かうはずのイベントが、一部の転売ヤーたちの汚いマネーゲームの道具にされている事実に、多くのファンが憤りを感じている。

 AI検知をすり抜ける転売ヤーの工テクニック

 なぜ、メルカリ側はこれらを見逃してしまうのか。そこには、転売ヤーたちの進化し続ける「画像加工テクニック」がある。

早くもフリマアプリに出品された、マクドナルドハッピーセットの「ちいかわ」

 通常、メルカリのAIは商品タイトルだけでなく、投稿された画像も解析している。公式サイトの画像や、パッケージがはっきりと写った写真を使用すれば、すぐに「禁止出品物」としてフラグが立つ仕組みだ。

 しかし、現在横行している手法はさらに巧妙だ。

「彼らは公式画像を使わず、わざと画質を落とした自作のイラストや、商品のシルエットだけを載せた画像を使用します。中には、背景に全く関係のない生活用品を写り込ませ、AIに『家庭の不用品』だと誤認させるテクニックを使う者もいます」

 そう語るのは、フリマアプリの動向に詳しいITジャーナリストだ。

「今回のメルカリの事前禁止措置は画期的でしたが、結局は“いたちごっこ”なんです。キーワードを制限すれば隠語を使い、画像を制限すればダミー画像を使う。特に今回のような『発売前の予約転売』は、手元に商品がない状態での出品であり、メルカリの利用規約自体にも抵触する重大な違反行為」

 さらに、転売ヤーたちは「専用出品」という独自の文化を悪用する。検索に引っかからないよう、商品名を「あ様 専用」などと個人名だけにし、中身を一切明かさない状態で取引を完結させる。これでは、外部から通報することも難しく、まさに“闇の市場”がアプリ内で形成されてしまっているのだ。

「正直者が馬鹿を見る」ファンと現場の怒り

 こうした状況に、マクドナルドの店舗側も苦慮している。前回の騒動時には、ハッピーセットを大量に購入し、中身のおもちゃだけを抜き取って、食べきれないハンバーガーを放置して帰るというマナー違反も問題視された。

「今回も、明らかに子ども連れではない大人が、ハッピーセットを上限まで買い占める姿が予想されます。店舗としては売れることはありがたい反面、本当に欲しがっているお子様に届かないのは心苦しい。転売対策として『お一人様4セットまで』と制限をかけても、グループで来店したり、店舗をハシゴしたりされたら防ぎようがありません」(マクドナルド店員経験者)

Xで拡散されたマクドナルドのハッピーセットの買い占めの様子

 ちいかわファンの女性(30代・主婦)は、悲痛な思いを語る。

「娘がちいかわが大好きで、毎日カレンダーを見て楽しみにしています。でも、発売日当日に並んでも、転売ヤーに買い占められて買えないかもしれない。メルカリで高額転売されているのを見ると、本当に悲しくなります。禁止措置が出たときは喜んだのに、結局隠語で売られるかもしれないなんて……。正直者が馬鹿を見る世の中であってほしくないです」

 メルカリ側も手をこまねいているわけではない。不適切な出品の削除やアカウント停止など、順次対応は行っているとしているが、ユーザーからは「もっと踏み込んだ対策」を求める声が強い。

 例えば、発売日前後の特定カテゴリーにおける監視強化、本人確認が済んでいないアカウントの出品制限、さらにはAIだけでなく「隠語リスト」をリアルタイムで更新し続ける人力のパトロール体制などだ。プラットフォーム側が「場所を提供しているだけ」というスタンスを捨て、コンテンツの健全な消費を守る防波堤になれるかどうかが問われている。

転売対策の形骸化が招く、コンテンツ消費の不健全な未来

 今回の「ちいかわ」を巡る騒動は、単なるキャラクターグッズの争奪戦に留まらない。プラットフォーム側が講じた「出品禁止」という強力なカードさえも、転売ヤーたちの狡猾な知恵によって無効化されつつあるという、フリマアプリ市場の闇を浮き彫りにしている。

 隠語を使い、画像を偽装し、運営の目を盗んで利益を貪る。その影で、本来のターゲットである子供たちや、純粋なファンが疎外されていく。こうした「不健全な消費」が続けば、コンテンツそのものの寿命を縮めかねない。

「ちいかわ」という作品が持つ、優しくて少し切ない世界観。その世界観を愛する人々が、悲しい思いをせずに済む日は来るのだろうか。メルカリには、さらなる抜本的な対策と、プラットフォームとしての社会的責任を果たすことが強く求められている。

 次にハッピーセットを購入する際、そこにあるのが「大人の欲」ではなく「子供の笑顔」であることを願ってやまない。