迫力あるミナミゾウアザラシやホッキョクグマなどの貴重な剥製が約800点並ぶ、岡山県津山市にある国内屈指の私設自然史博物館「つやま自然のふしぎ館」のある試みが、話題になっている。
同館ファンのカメラマンがクラファンを提案
1963年に開館。私設の博物館であることから入館料収入が頼りのため、展示する剝製の傷みが進んでいたものの修復費用の工面がなかなかできずにいたという同館。
そんな時「貴重な剥製を守りたい」と、同館のファンである神奈川県在住の写真家・村松桂氏がクラウドファンディングを提案し、集まったお金でこのたび写真集を発刊。このことが『朝日新聞』で報じられたことで、興味を持つ人が増えている。
そこで写真集の反響などを同館の運営元「公益財団法人津山社会教育文化財団」の代表理事・森本信一さんに話を聞いた。
「“この博物館は素晴らしい”“津山市の宝だ”“存続して欲しい”ということはみなさん仰ってくださいますが、博物館を存続させるために現実的にご協力くださる方は、どうしても少ないのが実際です。これまでにも“博物館の知名度をあげるためにイベントをしたい”という話は多くいただきましたが、当館との十分な協議もなく、“こんなことがしたいから場所や資料を貸して欲しい”といった一方的なもので、とても“協力”とは言えないようなものばかりでした。入館者数への影響もまったくといって良いほどありません」
多くの人が足を運ぶ時期もあったというが、近年は来館者の減少で厳しい状況だったという。
「博物館はレジャー施設ではありません。利用者の数ではなく、内容が充実し、人々の教育に役立つかどうかで価値が計られるものです。しかしながら、運営費のほとんどを入館料で賄う非公立の博物館では、来館者の数は死活問題です。収入がなければ、資料の保存管理や施設設備の改修ができません。
実は、当館は開館当時から“こんな田舎に博物館をつくっても誰も来ない”と言われていたようです。それでも以前は多くの方々が来館し、時には1日に1000人を大きく超えることもありました。世界中から新着の資料が次々届き、多くの人々が興味を持って訪れていました。ところが、近年では新しい資料の収集もなくなり、資料や施設も古くなり、規模は縮小する一方でした」
7年ほど前から博物館再生のために少しずつ企画展示室をつくったり、常設展示から外された資料のリバイバル展示を行ったりと動き始めていたという森本さん。そんな矢先、村松氏から写真集発刊の提案があったと語る。
予想以上の支援が
「村松氏とは2019年にも一度、申し入れを頂いて当館で個展を開催したことがありました。以前から当館のファンであったという村松氏は、当館の存続を真剣に考え、そのために“即時的に剥製を修復する費用を得る”“博物館の知名度を全国的に上げ、長期的に来館者を増やす”という明確な目標を掲げて、写真集の出版とそのためのクラウドファンディングという具体的な提案をしてくださいました。
それは村松氏の中に、“この博物館をこうしたい”という明確なビジョンがあったことと、本当に当館を心から愛してくださっているからこそできることであり、非常にありがたいことだと思いました」
村松氏とは随時連絡を取り合い、チラシの制作や広報など何度も協議を重ねて、「お互いに同じところを目指して頑張った」と振り返る。
「とても当館らしさと村松氏らしさの“濃さ”のある写真集になっていると思います。また、始める前には本当に集まるのだろうかという不安もありましたが、予想以上に多くの方々からご支援をいただくことができ、諦めていた大型の剥製の修復を行うことができました。感謝の言葉もございません」
現段階では入館者数に大きな変化はないというが、写真集の売れ行きは好調だという。
「写真集全体の売れ行きは私どもにはわかりませんが、当館でも写真集は販売しており、1冊8800円と決して安くはないにも関わらず、多くの方が買いに来られます。中には何冊も購入してくださる方もあり、周囲の方々に当館の魅力を伝えてくださっています。
入館者数の大きな変動はありませんが、それでも、確実にクラウドファンディングをきっかけに来館された方はいらっしゃって、“写真集を見ました”“ずっと来たいと思っていました”と言われることがあり、嬉しく思います。当館を知って頂く機会を設けていただけたことに心より感謝しております」
昨年の入館者数は2万2424人。連休明けの現在は狙い目だとか。
「特に多いのは4月のさくらまつりやゴールデンウィーク、お盆などの連休です。多いときでは1日に約300人の方が来館します。逆に、連休が終わると人が少なくなるので、特に平日はだいたい独り占めできます」
戦後の日本の自治体が社会教育に力を注げる余裕がまだ少ない1963年、創設者・森本慶三と息子の謙三が、津山の人々の教育のためにと私財を投じて作った同館。
私設博物館だからこそ生まれた価値
「今回写真集に収められている動物の剥製だけではなく、化石や鉱石、昆虫、貝類など、展示資料は多岐に渡ります。資料の多くはワシントン条約の締結や国内の鉱山閉山前に収集されたため、今では収集困難な資料も多く、これだけ多くの自然史資料を一度に見られる場所はそうないでしょう。
公立ではないゆえに運営費の確保が難しく、設備や展示方法は今風ではありませんが、それがかえって懐かしさと新しさを呼び、来館者の皆様には“刺さる”ようで、帰り際、“どうかこのままで未来に残して欲しい”とお願いされることもしばしばです。公立の施設はどうしても時代の流れに逆らえず変わっていってしまいますが、変えられなかったからこそ、この昭和をそのまま閉じ込めたような博物館が残り、何物にも代えがたい価値が生まれました」
最後に記事や写真集で同館を知った人にこうアピールした。
「珍しくて貴重な資料はたくさんありますが、この博物館の最大の魅力は個々の資料ではなく、それら全てが絡み合って出来上がる“時間(歴史)と空間”にあります。クラウドファンディングで村松桂氏も仰っている“唯一無二の博物館”を体感しに、ぜひいらしてください」
日本を代表するアーティスト・B’zや『M-1グランプリ』王者にも輝いたお笑いコンビ・ウエストランドの出身地でも知られる津山市だけに、聖地巡礼などで訪れた際はぜひ「つやま自然のふしぎ館」にも足を運んでみてはいかがだろうか?

