横浜市鶴見区にあるマンションの染谷英紀容疑者宅はひっそりと静まり返っていた

「ここ1年ほど、母親の姿を見かけなくなっていたので気になっていたんです。高齢ですから施設に入居したのかなって。息子さんに“お母さんはどうしていますか”と尋ねてみようかと何度か思ったんですが、息子さんは無口で会話したことがなかったのでためらっていたんです」

 と同じマンションに住む70代女性は言う。

「死んだことを認めることに…」

 横浜市鶴見区の自宅マンションに母・千代さん(92)の遺体を放置したとして神奈川県警鶴見署が5月6日、死体遺棄の疑いで逮捕したのは無職・染谷英紀容疑者(60)。

 警察の取り調べに容疑を認め、

「一緒にいたかった。届け出たら死んだことを認めてしまうことになると思った」

 などと供述しているという。

「事件発覚のきっかけは5月5日午後11時20分ごろ、“路上に不審者がいる”と通報があったことです。警察官が駆けつけると路上に染谷容疑者が座り込んでおり、事情を聴く中で“自宅に母親の遺体がある”と話したといいます。

 警察官が自宅を調べると、布団の上に遺体が放置されており、死後約2~3週間経過した状態でした。遺体に目立った外傷はなく、警察は司法解剖して死因を調べるなど捜査を進める方針です」(全国紙社会部記者)

 マンション関係者によると、近くのスーパーマーケット前の路上にしゃがみ込んだり、うろうろするなど、あまりにも不審で通報されたようだという。

「スーパーも近くの飲食店も深夜営業中でしたから、路上にしゃがんだくらいで通報する人などいません。最初は警察官に“母は元気でいます。いまは寝ていますけど”などと説明したみたいです」(マンション関係者)

 英紀容疑者が両親と暮らし始めたのは40数年前のこと。10代のころ父親が他界して千代さんと2人暮らしが始まった。千代さんは女手ひとつで家事などを切り盛りし、50〜70代のころはきれいな長髪をうしろで束ねて頻繁に布団を干す姿が目撃されている。

「犬の散歩中に千代さんに会うと、犬の名前を呼んで“かわいいわね〜”と頭を撫でてくれたり、夏になると“暑いわね〜”と話しかけてくれました。清潔で温和で健康な女性です。ここ10年くらいは布団を干す姿を見かけなくなっていましたので、体調を悪くしていたのかもしれません」(前出の70代女性)

「本当に母親を大事にしていた」近隣住民の証言

 6畳2間の2DKの部屋は家賃約9万円。複数の鉄道駅に囲まれるエリアにあるものの、いずれも歩くには距離があり、地元住民はバスや自家用車を足に使うケースが目立つという。

 千代さんは専業主婦だったようで、夫の遺産を切り崩すなどして家計をまかなっていたとみられる。家賃の支払いが遅れたことはなく、電気・ガス・水道が止められた様子もなかった。

 同じマンションの70代男性はこう話す。

「息子さんは口数が少なく、挨拶もしない感じでしたけど、高身長でガタイがよくて、見ようによっては“いい男”。外出時はジャケットを羽織るなど身なりが清潔できちんとしていましたね。朝出かけるときは穏やかな声で“行ってくるからね〜”と母親に声をかけ、部屋の奥から母親が応じる微笑ましいやり取りを見ました。

 母親のために、デパートで買ってきたようなちょっと上等なお惣菜やお弁当を持って帰宅することも。仕事に出かけていると思っていたんですが、いまは無職だったんですね。死亡届を出すと死を受け入れることになるって……うん、たしかにそういう人でしたね。母親を大事にしている人でした」

 自宅前には母親が使っていたとみられるカートや複数の杖があった。さらにチューハイやハイボール、ワインをスーパーで購入したレシートが落ちていた。今年4月25日夜の印字で、千代さんが死亡したとみられる時期と合致する。

「いくら母親の死を受け入れたくなくても、室内はご遺体の腐敗臭がひどくなっていたみたいですよ。息子さんは年齢よりかなり老けてみえて、千代さんと夫婦だと勘違いしていた人もいるくらいです。

 細面で切れ長の目にメガネをかけ、鼻の高い男性でした。こんなことになって胸が痛いです。見に行ってあげるか、話を聞いてあげればよかったと思います」(前出のマンション関係者)

容疑者宅前に落ちていたレシート。近隣のスーパーでお酒を購入したようだ。母との別れの悲しみを、お酒で紛らわせた夜もあったのだろうか…

 遺体の腐敗臭が室外に漏れることはなかったが、発見当初は玄関ドアの隙間に鼻を近づけると死臭がしたという。

 前出の70代女性は言う。

「親孝行な息子さんです。1年ぐらい前までは母親と散歩する姿を何度も見かけました。手はつなぎませんが、隣に寄り添って。買い物の荷物を持ってあげたりね。60歳の男性が“母親の死を認めたくない”と公言することには違和感があるかもしれません。

 でも、ちょっと気持ちはわかるじゃないですか。ずっと2人で暮らしてきたわけですし、本当に母親を大事にしていましたから。“ああいうやさしい息子さんがいて千代さんも幸せだね”と話していたくらいです。放置したのはよくなかったけど、私はかわいそうに感じてしまいます。寂しかったんだろうと思います」

 動かなくなった母親を前に、容疑者は2〜3週間、何を思ったのだろう。遺体は母の日の直前に見つかった。花を手向ける機会はあっただろうか。