くろさわかなさん曰く、抗がん剤治療の副作用で記憶力や集中力の低下を実感するとか。下痢や便秘を繰り返すなどの症状も

「がんに打ち勝って復帰するときは、もっと芯の強い人間になって、より深い愛で音楽を届けられるんじゃないかと」

 そう話すのは、シンガー・ソングライターのくろさわかなさん。鳥取を拠点に音楽活動を行う彼女は、昨年、メジャーデビューを果たした。しかし、時を同じくして、ステージ2の乳がんに。現在は治療に励んでいる。

夢のデビューの裏で起こっていた異変

「全国を巡るライブツアーを行う中で、鳥取が大好きになりました。人の温かさや自然の美しさ、食べ物の美味しさも、すべてが心地よかったんです。2か月だけ鳥取に滞在するはずが、気づけばそのまま移住していて(笑)。地元のみなさんとのつながりに日々助けられたことから、恩返しをしたいという思いが強くなり、それが活動の原動力になりました」(くろさわさん、以下同)

 2024年にワンマンライブを行ったことが話題となり、翌年にメジャーデビューを果たした。

「無謀だといわれたホールワンマンですが、スポンサーを募るためにひとりで駆けずり回り、なんとか実現した。これからもっと死ぬ気で頑張ろうと思っていたのに、次第になぜか疲れがとれなかったり、急激に無理が利かなくなったりしました。老化かな?なんて思っていましたし、それが乳がんの前兆かはわかりませんが、何かがおかしいと感じていましたね」

 2025年10月に胸の左右差やしこりに気づき、すぐにクリニックへ駆け込んだ。しこりの組織を採取する精密検査で「トリプルネガティブ乳がん」と診断された。

「精密検査の結果が出るまで2週間ほどかかるので、告知があったのは11月半ば。その間にもしこりは明らかに大きくなり、痛みもありました。調べたところ、乳がんの初期段階では痛みはほとんどないそうで。かなり進行しているか、別の大病なんじゃないかと予想していました。

 告知を受けたときは、総合病院で全身への転移を調べないとステージはわからないと言われ、もう生きた心地がしませんでした。死という言葉が頭をよぎりましたし、歌手活動がどうなるのかも不安で……」

“死”が頭をよぎった日、それでもステージに立った

 トリプルネガティブは進行が早いという特徴がある。

「治療選択が難しいケースがあったり、抗がん剤治療が難航するケースもあると知りました。知識を得るほどに、大変な病だからこそ絶対に治してやる!という熱い思いが湧き上がっていたんです」

 総合病院ではCTやMRI、腫瘍マーカーなど検査を行い、転移がないと確認。ステージ2と診断された。

「そのときには心構えができていたというか。今まで周りから心配されるくらい命を削って頑張ってきたので、もう限界だったのだろうと。乳がんの原因はわかりませんが、この大病を患うのはどこか必然的な気さえして、まさか自分が……とは思いませんでしたね。大きなライブを終えたところでしたし、デビューに向けたミュージックビデオの撮影やテレビ出演も一段落し、タイミングとしては今だったのかもと、受け止めました」

乳がんがわかった直後のワンマンライブ。笑顔を見せつつも、「その場にはいない感覚だった」と語るくろさわかなさん

 葛藤がありながらも、前向きに捉えるくろさわさん。しかし、年末にがんを公表するまでは、苦しみも大きかった。

「ファンのみんなが、デビューおめでとう!と喜んでくれるのに、自分はライブをしていても生きた心地がしない。それでも普段どおり明るく振る舞おうとすると、心にギャップが生まれてしまって。約1年半の休養が決まり、今年1月からのデビューツアーは中止。出演予定だった地元のお祭りなどもキャンセルし、鳥取との約束を果たせないのが悔しいです。でも、がんを公表したことで、ファンの方からは温かな言葉をいただき、その愛が励みになりました。同じ病を抱える女性からもメッセージが届くようになり、ひとりじゃないんだと勇気をもらっています」

 昨年12月から始まった治療は、術前6か月間の抗がん剤治療、手術、そして術後6か月間の抗がん剤治療と予定が組まれた。

命を削る生き方から自分を大切にする生き方へ

 現在は抗がん剤治療中で、記憶力や集中力が低下する症状(ケモブレインと呼ばれる症状)や、血管炎、下痢や便秘を繰り返すなど、さまざまな副作用に悩まされているという。

「ほかにも手足の痺れやかゆみで転げ回るほどのときがあったり、倦怠感もひどいです。身体が鉛のように重く、ベッドに寝転がるのですら、地面に叩きつけられているような感じなんですよ。抗がん剤の副作用といえば吐き気や嘔吐がありますが、最近はそれを軽減する点滴や飲み薬もあります。ですが今度はその薬の副作用で、身体はしんどいのに頭だけが冴えて。数日間全く眠れなかったのはつらかったです」

 抗がん剤の副作用として全身の脱毛もよく知られるが、頭皮冷却という施術が効果を発揮した。この施術は頭皮への血流を抑制することで、抗がん剤が毛根に届くのを防ぐもの。通常は抗がん剤治療開始から2週間ほどで脱毛症状が現れることが多いが、くろさわさんは3か月後も頭髪が残っている。

「自由診療で1回2万円もかかりますし、あまり効果が出ない方も多いそうなので安易にすすめられませんが、私には合っていました。眉毛やまつげなど全身の毛は抜けましたが、頭髪だけは残っていて。死ぬことに比べたら髪の毛なんてどうでもいいと思っていたけれど、いざこうなると、やっぱりなくしたくないものなんだなって思いました」

 病に立ち向かうことで、人生観は大きく変化した。

「今までは、命を削って頑張り続けるのが、本気で生きることだと思ってきました。でも、命は削るものなんかじゃない。自分を大切にすることで、届けられる歌があるのだと、乳がんになってやっとわかったんです。いつかこの経験を楽曲にして、シンガー・ソングライターとして人生を歩み続けたい。そのためにも病気に向き合い、乗り越えることが、今の私の使命です」

 そんな思いは、病に苦しむ人へのエールとなった。

「がんを宣告されると、この世界にひとり取り残されたような孤独感を味わうと思うんです。でも決してひとりじゃないと、がんを公表して気づきました。無理に前向きにならなくてもいい。自分のペースで、自分らしい生き方で、自分を大切にしてほしい。私自身も今まさに、そうやって生き直している途中なんです」

くろさわかなさん 神奈川県横浜市出身。鳥取を拠点に活動するシンガー・ソングライター。2025年11月にオリジナルアルバム『ASingerSongWriter』でメジャーデビュー。
くろさわ かなさん 神奈川県横浜市出身。鳥取を拠点に活動するシンガー・ソングライター。2025年11月にオリジナルアルバム『A Singer Song Writer』でメジャーデビュー。

取材・文/植田沙羅