元巨人・長野久義氏

 NPB(日本野球機構)がついに「人的補償」撤廃に動き出した。FA(フリーエージェント)権を行使して他チーム移籍した選手の補償として、「プロテクト」から外された選手を指名できる制度だが、これまで様々な騒動を引き起こすことも多かった。

 報道を受けてネット上では制度撤廃を歓迎する声とともに、《金満球団がますます得するだけ》とする、FA選手を迎え入れる資金が潤沢な球団が有利となる、さらなる戦力の偏りが生じることも懸念されている。

 そんな不公平感を解消すべく、NPBが代替案として検討しているのがドラフト会議における「特別指名権」。FA移籍で選手が抜けた球団に対して、セ・パ12球団の1位指名が終了した後の“13番目”に特別指名権を与えるというものだ。

 将来有望な選手を1人獲得できるのは確かだが、手塩にかけて育てた主力選手いなくなった球団にしてみれば欲しいのは即戦力。それに、これまでの「人的補償」でも、プロテクトリストから漏れていた“宝”を掘り起こすチャンスでもあり、中には思わぬスター選手を獲得することもーー。

巨人が長野・内海を人的補償でW放出

 1993年にスタートしたFA制度に伴って設けられた人的補償。これまで約40人の選手が制度に則って移籍を受け入れてきたが、中でも衝撃的だったのが、2018年オフに起きた読売ジャイアンツ・長野久義氏(41、以下年齢は現在のもの)と内海哲也氏(44)のW放出だった。

 長野は広島東洋カープ・丸佳浩選手(37)、内海は埼玉西武ライオンズ・炭谷銀仁朗選手(38)の人的補償として、それぞれのチームに放出された両名。ともに入団以来、巨人を牽引してきた生え抜きスター選手で、まさかのプロテクト漏れにファンも驚き、批判の声も上がった。

 FA事情に詳しいスポーツライターによると、両ベテランとも即「はい、わかりました」と納得したわけではないという。

2025年7月17日のヤクルト戦で、泉口友汰選手を慰める長野久義選手の様子がXで称賛された

「当時、リーグ3連覇中のカープへの移籍に“選手冥利に尽きます”とコメントをした長野ですが、巨人にこだわり、愛した選手だけに本人のショックも大きかった。それでも“ルールだから”と受け入れ、巨人ナインやファンから涙ながらに送られました。

 同じく内海も、自分が対象とされたことに“頭が真っ白になった”と漏らしています。それでもプロとして切り替えて、若い西武投手陣にも惜しみなくアドバイスをし、コーチとしても経験を伝えることで成績以上に大きく貢献しました」

 FAでの大型補強によって、2019年シーズンを5年ぶりのリーグ優勝で飾った巨人。ベテランの犠牲に反発していたファンを納得させることができたのも、優勝以上に、長野と内海による「プロ」の矜持があってからこそだった。

岩瀬・和田は人的補償ルールを拒否か

 一方で「人的補償」ルールに納得できずに“背いた”とされるのが、元中日ドラゴンズ・岩瀬仁紀氏(51)、そして元福岡ソフトバンクホークス・和田毅氏(45)だ。彼らによる騒動も、人的補償のあり方が議論され、今回の撤廃検討にも影響を与えたと言えよう。

 2017年オフ、北海道日本ハムファイターズから海外FA権を行使して中日に移籍した大野奨太氏(39、現在はコーチ)。翌年1月に日ハムが選択したのは、人的補償を求めずに金銭のみとする補償。ところがーー、

「当時の『東スポ』がすっぱ抜いたのが、リスト漏れしていた兼任コーチの岩瀬を、日ハムフロントが獲得に動いていたというもの。たしかに吉村浩GM(現チーム統轄本部長)も“インパクトある”と期待を持たせつつも、いつまで経っても獲得発表はなく、ついには“複雑な要因が絡んでいる”と何らかの問題が起きていることを示唆。

 何でも岩瀬はこの時、“人的補償なら引退する”と移籍を拒否し、事態を飲み込んだ日ハム側が最終的に受け入れて金銭補償のみ求めたというのです。制度上、選手側が移籍を拒否した場合は資格停止になるのだが、事実ならば岩瀬がゴネてまかり通ったことになる」(前出・ライター、以下同)

和田毅投手の移籍報道に、公式インスタグラムではファンの悲しみの声が寄せられたが

 同様の事態が起きたのが2024年1月、山川穂高選手(34)のFA移籍によってソフトバンク側に人的補償が発生していたのだが、1月11日付けの『日刊スポーツ』が、和田を指名するとの西武方針を報じたのだ。

 しかし同日の夕方に獲得発表されたのは、リスト漏れも予想されていなかった、2023年に46試合を投げたリリーバー・甲斐野央投手(29)だった。

和田は移籍騒動に「触れたくない」

「なぜ、ソフトバンクは人的補償で“主力”を放出することになったのか。どこか後味の悪い移籍劇に、やはり和田をめぐって、両球団によるルール裏での“談合”を勘繰られてしまうことに。

 当時、43歳で2億円の和田を“とるはずがない”とタカを括るも、まさかの西武指名によって和田は“引退”示唆。ソフトバンクが慌てて“変更”を申し出て、西武に甲斐野を差し出した、というのが大方の見方。和田本人も騒動を否定せず、“触れたくない”と言及したことも真実味を持たせました」

 それぞれ入団より生え抜きとしてチームの“顔”であり続けたベテラン選手たち。引退の時まで、と思うのも当然であり、片や全盛期を過ぎた彼らをリストから外さざるを得ないチーム状況も理解できる。

 しかしながら「人的補償」を完全撤廃するのも、やはり《金満球団が得するだけ》になるのも確かだろう。いずれにせよ、ファンあってのプロ野球。NPBにはファンが納得する道筋を示してほしい。