さだまさしさん 撮影/佐藤晴彦

 終活を意識し始める人も多い70代。だが、シンガー・ソングライターのさだまさしさんは「僕は終活はしません」と言い切る。74歳の今も新曲を発表し、全国ツアーを続ける日々。“終わり”より、“今”。走り続ける74歳の現在地とは。

“新しい何か”を見つけないと、やる意味がない

「僕は終活はしません」

 そうきっぱりと言い切るのは、シンガー・ソングライターのさだまさしさん。4月10日に74歳の誕生日を迎えたばかりだが、その言葉に迷いはなさそう。

終活、ねぇ……、あまり僕にはピンとこないんです。現役を降りた人の話のようで。まだまだ僕は引退しませんし、この先、やれなくなるとも思ってません。それに、僕らの仕事というのは、現役である感覚を失ったら光らなくなると思うんです。そして、誰かに照らされるのではなく、自分で光り続けること。その光が、僕にとっては歌作りなんです

 その言葉どおり、精力的な活動を続けており、まだまだ“現役”。この春には映画主題歌となる新曲『神さまの言うとおり』、5月にはニュー・アルバム『神さまの言うとおり』も発表している。

「映画はとても温かくて、胸がいっぱいになるシーンがいくつもあって。われわれが生活してる日常というのは、こんなにも感動に満ちているんだなということを改めて教えていただけるような、そんな映画だったんですね。けれど、苦心しましたね。

 歌作りって、どんな曲でも苦労はするんです。でも、今回は映画がもうできあがっていて。しかもそこには僕の『奇跡~大きな愛のように~』がはめ込んであったんです。それなのに、ここに新しい曲を書けって、こんな過酷な話はないですよ(笑)

 50年以上にわたり第一線を走り続けてきた今も、創作において求められるのは“更新”だ。

作るなら、過去のものにはない“新しい何か”を見つけないと、やる意味がないでしょ。そこが少しつらいところでしたが、今までにないものを作ったとは思います。何か新しい風が吹いてきたぞと思えたし、それがまだ現役でいていいという合図なのだと感じています

 1973年、フォークデュオ・グレープとしてデビュー。'76年にソロ・シンガーとして活動を開始以降、ソロ通算46作のシングル、自身通算51作のオリジナルアルバムを発表してきた。数字だけを見れば偉業だが、本人にとっては通過点に過ぎないようだ。

懐かしがって昔の歌に浸っている姿はあまり見たくない

何十作を作っても発見の連続なんです。もう少しこうしたほうがよかった、という気づきが毎回あったり。けれど、だからこそ次に行ける。もし“いいアルバムができた”と満足してしまったら、僕はそこで終わりなのかもしれません

74歳となった今も、第一線で活動を続けるさだまさしさん 撮影/佐藤晴彦

 数々の名曲を生み出してきたさださんだが、過去の作品を振り返ることはほとんどない。

昔の歌は聴かないんです(笑)。やっぱり、常に新しくいたいから。僕の歌を聴いたり、歌ったりしてくれるのはうれしいなとは思いますよ。けれど、発表した時点で、もう自分のものではなくなる。

 多くの人に育ててもらって、スタンダードになっていく。それでいいと思っています。それに、今の自分が、懐かしがって昔の歌に浸っている姿は、あまり見たくないんですよね

 創作に対する姿勢の原点にあるのが、人生訓としている文芸評論家・山本健吉氏の言葉だ。

若いころに作った自分の歌に心ひかれて、“こんな歌をまた書きたい”と思ったら、その瞬間に引退しなさいと言われたんです。自己模倣は芸術の死だ、と。誰も歩かない道を歩きなさい、と。その言葉は非常に大きいですね

 父親のように慕っていた山本氏には鼓舞されてきたという。一方で、長いキャリアの中ではスランプのようなときもあったそうだ。

歌ができなくて、作る歌が全部つまらない、という時期もありました。“これは最低のアルバムだな”と思ったものも4枚くらいあります(笑)。でも、後で冷静になって聴くと、それなりに小さな扉は開けているんですよね。ここは新しいな、ここは挑戦しているなとわかるので

 毎回、自分なりに石段を一歩一歩上がってきた感覚はあると語る。

終活なんて言ってられない

 新曲の制作だけでなく、5月からはコンサートツアーがスタートし、12月まで全国を巡る予定もあり、意欲的な活動は続く。これまでのソロコンサートは通算4700回以上で、さださんは日本最多記録を更新し続けている。

若いころは日本が知りたくて、ツアーのたびに朝早く起きては街をウロウロ歩いていましたね。面白いんですよ、この国って。そこでいろいろな人に会って、いろいろな言葉をいただいたりする中で、また新しい発見があります

 さださんといえば、作家としても精力的に活動している。

まだ書きたいテーマが嫌になるほどあるんです。全部書こうと思ったら最低5年はかかる。だから終活なんて言ってられないですよね(笑)

 さらに、大学で教壇に立ち、若い音楽家の育成にも力を注ぐ。この春開校した福岡県初の4年制音楽大学・福岡国際大学にも客員教授として迎えられている。

「これから音楽家を目指す若い人たちに伝えたいことは山ほどあって。僕も3歳からバイオリンを始めて、ずっとクラシックで育ってきたけど、練習が退屈でね。バカみたいに同じことを繰り返すんですよ。

 でも、単純な初歩練習をどのくらいやってきたかが、テクニックにつながってくる。それがやがて、血となり、肉となる。テクニックがある人は、その世界で長生きできます。そしてスキルと運のバランスが取れたときに、自分の道が開けていくんです

 これから先の人生で、やっておきたいことは何か。

「やっておきたいことは、いっぱいあります(笑)。ステージに立ち続けられる限り、どんどんコンサートをやっていこうと思います。コンサートは僕ら音楽家にとって血流と一緒なので、やめるわけにいかないんです。

 歌作りで、例えばもういいものが書けなくなりました、新しいアルバムが作れません、コンサートもできなくなりました、となったら、さてどう自分の人生を納めようかと考えるかもしれない。

 ただ、僕は二足どころか何足もワラジを履いているので、することは他にもまだまだあって。そうこうしているうちに、自然とこの世からいなくなるんじゃないですかね(笑)

さだまさしさんの新曲『神さまの言うとおり』が主題歌の映画『お終活3幸春!人生メモリーズ』

公開:5月29日(金)新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国ロードショー 配給:イオンエンターテイメント 出演:高畑淳子、橋爪功、三田佳子(C)2026「お終活 3」製作委員会

取材・文/小野寺悦子