親の介護(写真はイメージです)

「まだ大丈夫」と思っていた親に、じわじわ現れる小さな異変。見逃せば、ある日突然“介護“が始まることもある。一方で、いざ向き合ったときの“頑張りすぎ“が、親子関係をこじらせてしまう。

3つ以上チェックが入った場合は相談を検討

『うちの親はまだ心配ない』と思っても、介護の専門家から見れば介入を必要とする場合もあります。介護未満だけれども、親の健康状態が何となく不安だったり、気になったりする段階で専門機関に相談しておくことをオススメします

 こう語るのは、NPО法人「となりのかいご」代表理事の川内潤さん。その判断が難しいが、指標として役立つのが下に掲げたチェックシート。厚生労働省の基本チェックリストを参考に、「となりのかいご」で作成したもの。

「親の異変」チェックリスト

親の近況を踏まえてチェックしてみてください。濃い枠に3つ以上チェックが入った場合は、地域包括支援センターに相談してみるといいでしょう」(川内さん、以下同)

 地域包括支援センター(以下、包括)とは、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、介護・医療・福祉・保健に関する支援を担う公的な総合相談窓口。全国の市区町村に設置され、主に65歳以上の高齢者やその家族を対象として無料で利用できる。

「親の居住地域の包括にアクセスします。遠方に住んでいると足を運ぶのは難しいですが、電話での相談も可能です。親の介護が必要になったとき、その地域ではどのような介護サービスが受けられるのかを聞いておきましょう。事前にわかっていれば安心できますし、専門家とつながることでいざ介護に直面したときに相談しやすくなります

 親の介護には自身でも備えておきたいところ。その際、頭に入れておかなければならないのが、「いい介護」とは何かということだ。これまで3000件以上の介護の悩みに寄り添い、現在も年間約700件の介護相談を受けている川内さんは、その基準を明言する。

いい介護の条件とは

親子関係が良好であり続けることが『いい介護』の絶対条件です。介護のために無理や我慢を重ねると、関係性が崩れ、不幸な介護に転じかねません。ですから、まずは自分の生活を棚卸しし、仕事や趣味、友達付き合いなどを除いた時間がどれくらいあるかを検討。その余裕の範囲内でできる介護は何かを考えることが重要になります

「NPO法人となりのかいご」代表理事・川内潤さん

 もともと親と仲が悪く関係が良好でなかった場合はどうすればいいのか。

答えははっきりしています。“自分だけでやらない“という考えが大切です。なぜか。例えば親に虐待を受けて育った子がいたとします。その子が親を介護したらどうなると思いますか。老いて文句ばかり口にする親だったら、今度は自分が手を上げてしまいかねない。虐待の連鎖が生まれやすいんです

 では、仲良し親子であれば、介護になってもトラブルは少ないということ?

いいえ、一見うまくいきそうに見える関係でも注意が必要です。例えばシングルマザーの母親に女手ひとつで育てられた子がいたとします。

 母親に対する気持ちは人一倍強くなる場合も。要介護の親に対し、自分が全部やってあげなきゃと思うわけです。結果、自身の生活を犠牲にするほどの献身的な介護に明け暮れ、身体を壊すなどの可能性が出てきます

 目指すは良好な親子関係を維持できる「いい介護」。そのために「避けたい行動」があるという。第一は、介護を目的にした親との同居、転居。

「これまで別々に住んでいた親子が、介護をきっかけにひとつ屋根の下で暮らせば、親からあれこれ頼まれるなど生活の変化は避けられなくなります。そうしたことがストレスになり、感情的な衝突を招くのは時間の問題でしょう。

 介護のための転居も同様です。親の近くに移り住めば、事あるごとに呼びつけられたりして、結局は落ち着かない。ちなみに何でもかんでもやってあげるのは親の自力を失わせるため、逆に身体をどんどん弱らせるリスクがあることも知っておかなければなりません

 第二は、介護休業・休暇を使って親の介護に専念すること。

家族による介護虐待につながる

『介護休業・休暇=子どもが仕事を休んで親の面倒を直接見ること』と勘違いしている人は多いと思います。介護休業・休暇はあくまでも家族が介護の態勢をつくるためのものであって、直接介護に使うものではありません。

 介護の平均期間が4年7か月なのに対し、介護休業・休暇の法定期間は93日間と、明らかに合わない。親の介護に専念して倒れてしまうケースは少なくないです。そうした状況を未然に防ぐため、介護休業・休暇をとって専門家と相談するなど有効に使いましょう

外出は生活動作の低下を見極めるポイントに。日用品の買い物に行けているかも確認を(写真はイメージです)

 第三は、介護を理由とした転職、離職。

親を介護するために、転職する、正社員からパートになる、果ては会社を辞めてしまう人もいます。これらはすべて注意したい選択です。自分のキャリアを親の介護のために調整すると、その禍根が親に向かいます。介護の悩みを数多く聞いてきた経験上、そうなるのはほぼ間違いない。家族による介護虐待につながってしまうわけです

 川内さんは介護の望ましいあり方として、「家族だからこそ距離をとるべき」とアドバイスする。

「親のそばにいることが、必ずしも『いい介護』にならないことはもうおわかりだと思います。距離をとれば親子の衝突は避けられ、不安や心配を感じなくてすむ。自分の気持ちに余裕が生まれ、親にも優しくできる。お互いにとってプラスとなるのです。

 介護サービスなどのサポートをうまく使えば、同居しなくても、遠距離であっても、介護は十分可能です。また仕事とも両立できますし、プライベートな時間も確保できます。親の人生と子の人生は別物。親の介護を優先するのではなく、自分の生き方、人生を大事にしてほしいですね

やりがちだけど避けたい行動

1 介護のために親と同居や転居
2 介護休業・休暇を使って介護
3 介護転職や離職

取材・文/百瀬康司

川内潤さん NPO法人「となりのかいご」代表理事。社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年にNPO法人化し、代表理事に就任。