弘兼憲史氏 撮影/廣瀬靖士

 大人気コミック『島耕作』シリーズ作者で、漫画家の弘兼憲史先生。半世紀以上にわたり漫画を描き続け、今年5月にはエッセイ『「まだ働かなきゃダメなんですか?」60歳からでもバリバリできる仕事力』が発売されるなど現在も精力的に活動中だ。若いころと同じように働き、いつまでも変わらない見た目。若々しく元気でいられる秘訣は「睡眠の長さ」ではなかった。

『島耕作』シリーズ作者、体内時計の大切さ

「僕は後期高齢者といわれる年齢ですが、夜中の2時まで仕事をしています。そんな話をすると驚かれますが、休憩をとって身体を休めれば、意外とできてしまうものです」

 と笑顔で話してくれたのは『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など、数々の人気作を生み出している漫画家の弘兼憲史先生だ。仕事の間に休んだとしても、普通の人なら疲労がどんどんたまりそうなスケジュールだが、今年で79歳を迎え、後期高齢者になってもつらいと思ったことはないという。

「僕の睡眠時間はだいたい5時間くらい。1日7時間は睡眠をとったほうがいいとよく聞きますが、漫画家の世界でそんなことを律儀に守っていたら、締め切りなんて到底守れません。僕の場合、睡眠のリズムが一定なので、睡眠時間が短くても問題なく日々を過ごせています」(弘兼先生、以下同)

 それを裏づける非常に興味深いデータがある。オーストラリア・フリンダース大学の研究員、ダニエル・ウィンドレッド氏が発表した最新の研究によれば、十分な睡眠時間よりも、毎日決まった時間に寝て、決まった時間に起きる「睡眠規則性」のほうが、寿命や健康によい影響を与えることがわかったという。

「ウィンドレッド氏の研究によれば、毎日決まった時間に寝起きする人は、そうでない人と比べて、死亡リスクが最大48%、がんで死ぬリスクが最大39%も減るといいます。心血管や代謝の悪化で死ぬリスクになると、なんと最大57%も低下するそうです」

「昨日は3時間しか寝ていないから、今日は10時間寝よう」といった寝だめをする人も多いと思うが、かえって体内時計を狂わせ、翌日のパフォーマンスが落ちてしまうのだ。

 ウィンドレッド氏によると、体内時計が乱れることで代謝や免疫、ホルモン分泌といったあらゆる生理機能に悪影響を及ぼし、死亡リスクが高まるという。

弘兼先生のサイクル

 弘兼先生は深夜2時に仕事を終えたら、歩ける距離にある自宅へ。午前4時ごろまでワインを片手に映画を鑑賞し、朝は9時に起床。このサイクルが固定されているからこそ、脳も身体も「今は活動する時間だ」「今は休む時間だ」と迷わずにすむと話す。

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「『○時になったら寝る』というリズムが定着すれば、遅くまで仕事をしていても翌朝には驚くほどすっきりと目が覚めます。僕はこれを何十年も続けていますが、体調を崩したことはありません」

 心身の若さを保つ近道は、枕を買い替えることではなく、時計の針を意識することから始まるのだ。ただし、睡眠のリズムを正せば大丈夫だと過信して、睡眠時間を急に減らすと体調を崩すこともあるので気をつけよう。

「僕は気にしすぎることが健康の大敵と考えているので、健康や良い睡眠のことばかり気にせず『まあ、いいか』の精神で毎日を過ごすのがおすすめです。そうするとストレスもそんなにたまりません。ストレスがないと熟睡もできますし、若々しくもいられると思います」

「人生楽しんだ者勝ち」がモットーだという弘兼先生。「まあ、いいか」と言いながらパタッと死ぬまで楽しんで仕事をしていたいと笑顔で話してくれた。

弘兼憲史(ひろかね けんし)1947年9月9日、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)勤務を経て、1974年に『風薫る』で漫画家デビュー。以降、「島耕作」シリーズ、『人間交差点』『ハロー張りネズミ』『加治隆介の議』『黄昏流星群』などのヒット作を生み出す。『人間交差点』で小学館漫画賞、『課長 島耕作』で講談社漫画賞、『黄昏流星群』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、日本漫画家協会賞大賞を受賞。2007年に紫綬褒章を受章。現在も『社外取締役 島耕作』『黄昏流星群』を連載中。漫画以外の著書も多く、『弘兼流 60歳から、好きに生きてみないか弘兼流 60歳からの楽々男メシ』『人生は70歳からが一番面白い』『楽しまなきゃ損だよ人生は』などがある。2026年5月、50代〜60代に向けた働き方エッセイ『まだ働かなきゃダメなんですか?」60歳からでもバリバリできる仕事力』が発売。

取材・文/福田恭子