現在放送中のフジテレビ系ドラマ、『銀河の一票』は、政界を追い出された星野茉莉(演:黒木華)が、政治素人の元スナックママ月岡あかり(演:野呂佳代)をスカウトし、都知事選に挑むというストーリーである。
にわかに脚光を浴びた「素人が選挙に立候補」という大胆行動。先日公開の記事ドラマ『銀河の一票』のように「素人が政治家」は全然ありうる! 市議会議員なら当選率80%の現実では、市議会議員や町村議会議員を目標にするなら、それはあながち無理な話ではないことをお伝えした。
立派な経歴より当選に直結するのは「地元歴」
2023年の統一地方選では、(政令市ではない)一般市の市議会議員の当選率(改選数/立候補者数)は80.3%、町村議会議員の当選率は90.4%となっている。また地方議員の選挙では、立派な学歴や職歴よりも地縁や地元歴がものを言う世界なのだ。
では、今回は地方議員、とりわけ市区町村議員とはどんなものか。仕事の実情、やりがい、気になる報酬面について触れていきたい。
100回以上の選挙に携わり、かつて政令市の市議会議員の経験もある選挙プランナー、星陵選挙研究所主宰の大槻研さんはこう話す。
「やりがい、時間、お金すべて揃っていますね。また雰囲気的にはベンチャー企業を立ち上げることに似ています。まずやりがい面ですが、自分が情熱を傾けたい分野や政策の実現に向けて、自由かつ集中的に取り組めます。
例えば学習塾を経営していた方が当選して市議になった場合、現場を知る教育者、そして中小企業の経営者目線で教育と経済政策を提言し、役所の上層部へダイレクトに現場の声を届けることができます。実際、学習塾出身の議員の方がいじめ問題を解決したことがあります。
公教育のしがらみの中で、いじめを担任や校長が見て見ぬふりをし、保護者も泣き寝入りした事案があったのですが、経営する塾のママ友人脈から僅かな情報が入り、議会という公の場で教育長に訴え全校の問題として取り組ませたのです。地方議員としての面目躍如と言えるでしょう」
また、市区町村など自治体の議員は、地元のライフラインとしての役割がある。
「例えば、大風が吹いてバス停の屋根が損傷したり、通学路の交通量が増えて児童の登下校が危険になったとします。そのような場合、役所とパイプのある議員ならすぐに適切な部署に掛け合って手を打てるのです。町内会長、自治会長さんと一緒になって、細かに地元のパトロールをしている、街の味方なのです」(大槻さん)
これはミクロな貢献だが、近年では自治体のマクロな方向性への貢献も活発だという。
「例えば観光で、インバウンドを増やすためにどういった政策を打っていったらいいか。逆にオーバーツーリズムにどう対応するか。また、余剰資金の運用なども含めて、市の財政をどう強くしていくか。これからは、経済、財政政策のように、その街全体に影響を与えるような、骨太の政策を作っていくのも地方議員の非常に重要な動きとなってきています」(大槻さん)
時間的自由度と気になる報酬面は
次に地方議員の時間的な条件について大槻さんはこう解説する。
「時間の使い方の自由度は高いです。地方議会の主な拘束時間は、春夏秋冬のシーズンごとに開かれる“定例会”と“視察”が基軸となっています。年間を通してみれば、およそ3分の1程度の期間は、ご自身の裁量で動ける『自由な活動時間』となります」(大槻さん)
もちろん自由な期間に何もしなければ次の選挙で当選はおぼつかないだろうし、有権者への裏切りとなってしまう。政策課題の調査や地元回りが求められている。大槻さんは時間的な自由を生かし、地方議員の兼業を推奨している。
「兼業はビジネスで得た知見や問題意識を議員活動に還元できるので、私は地方議会における理想の姿だと考えています。そもそも『兼業議員』は多いですし、町村議会議員は最初から兼業を前提とした報酬設計になっています」(大槻さん)
最後に気になるその報酬面である。
「地方議員の報酬は、ボランティアではなく、生活を支え、活動を担保するための職務負担に応じたものとして条例で厳格に定められています。そして、大ざっぱに言えば人口規模の多い自治体ほど多額になり、やはり魅力的な額となっています」(大槻さん)
全国の市議会議員の平均報酬月額は42.6万円。こちらに人口規模別の市議会議員の平均報酬月額(2024年12月31日時点。全国市議会議長会調べ。議長、副議長ではない一般議員)の表を用意した。政令指定都市と東京都特別区は先に一括りで紹介する。
政令指定都市 78.7万円
特別区 61.4万円
人口50万人以上 64.2万円
人口40万〜50万人未満 62.4万円
人口30万〜40万人未満 60.0万円
人口20万〜30万人未満 54.4万円
人口10万〜20万人未満 46.7万円
人口5万〜10万人未満 40.4万円
人口5万人未満 33.9万円
ちなみに、市区町村の報酬月額トップは横浜市議で(議長、副議長でない)一般議員で95.3万円となる。
期末手当と政務活動費も
「上記の報酬は、あくまで月額で、さらに年2回、計4.4〜4.5か月分程度の期末手当(ボーナス)が支給されます。そのため、実際の年収ベースで見ると『月額報酬×16.5か月前後』に近い金額となり、民間の一般的な水準と比較しても決して引けを取らない安定した基盤が用意されています」(大槻さん)
さらにこれに加え、政務活動費というものがある。全国の市議会の約9割、町村議会の約2割が導入しているもので、文字通り議員としての調査研究・政策立案活動に使用できる費用となる。
「こちらも人口が多い市ほど多額になる傾向にあり、例えば人口5〜10万人の市なら議員1人あたりの交付月額のボリュームゾーンは1〜3万円となります。専門書、新聞雑誌の購読費、セミナー参加費、市民への活動報告チラシの発行・郵送代、住民懇談会の会場費などが対象になりますが、個人の選挙活動、後援会活動、私的な飲食などには1円も使えません。先に定額が交付されても、任期末や年度末に1円単位の領収書を添付して収支報告書を提出しなければなりませんし、使い切れなかった分は自治体に返還しなければなりません」(大槻さん)
あくまで使途は政策立案に関わる費用のみだが、逆に言うとそのような費用についても公費のサポートがあるということでもある。
平均の報酬月額の42.6万円に期末手当4.5か月分を加味すると、想定される年収は約700万円となる。これは日本人の給与所得者の平均年収が約480万円であることを考えるとかなり魅力的な額となる。
「高い報酬はあくまで責任と表裏一体といえます。また、4年後の選挙資金も議員報酬から捻出していかなければなりませんし、かつてあった議員年金は維持困難となったため2011年に廃止となっています。現在は国民年金への加入が基本となるため、老後の資金作りも自身にかかっています。とはいえ、地方議員は高いやりがいと報酬、時間的自由が同時に実現する職業であることは確かでしょう」(大槻さん)
「投票したい候補者がいないから選挙に行かない」そんな声も多い昨今。自分が立候補して政治にエネルギーをぶつけてみるのも手だ。YOUTUBEやSNSの影響で政治への関心が高まっている折でもある。また、来年春には、全国で地方議員の選挙が行われる統一地方選が控えているーー。
お話を聞いたのは
大槻研さん
星陵選挙研究所主宰。早稲田大学法学部、同大学院アジア太平洋研究科卒業(国際関係学修士)。国会議員秘書、都議秘書、政令市市議会議員などを経て、100以上の選挙に携わり、勝率は94%以上。5月22日『勝率94%!「当選請負人」が教える 地方議員になって人生を変える本』(主婦と生活社)を出版。
