閑静な住宅街が警察車両などでごった返したのは、5月29日から同30日にかけてのこと。
「最初はパトカー2台が、あのアパート付近に駆けつけていたんです。やがて道路が規制テープで封鎖され、立ち番の警察官が警戒に当たりました。警察官に質問されている人もいて、これはもう、ただごとではないと思いました」(アパート近くに住む50代男性)
「将来を悲観していた」初老パパの苦悩
千葉県成田市並木町の自宅アパートで小学6年生の息子・大聖さん(11)を殺害したとして、千葉県警成田署は5月30日、無職・吉伊敏彦容疑者(66)を殺人容疑で逮捕した。同署によると、大聖さんが通う小学校の校長から「27日を最後に登校していない。今日、自宅に行ってみたら反応がなかった」と、29日に通報があったのがきっかけ。
「警察官がすぐに現場に駆けつけると部屋のドアや窓は閉まっていてカギがかかっていました。午後4時前に開錠して部屋に入ったところ、室内の1か所に布団が敷かれ、父子が横並びに倒れていたんです」(捜査関係者、以下同)
父子とも衣服を着用しており、パジャマなどのラフな格好ではなかったという。大聖さんはすでに死後数日が経過していた。
「吉伊容疑者は警察官や救急隊員の呼びかけにまったく応答せず、市内の病院に救急搬送されています。犯行後に意識が朦朧としていたのか、ほかの可能性も含めてそこはわかっていません。病院からは重大な病状や外傷、薬物を過剰摂取したというような報告はなく、翌日には退院できたため逮捕しました。
取り調べには素直に応じていますが、あまり多くを語りません。こちらの問いかけに対してだけ答える感じです。6月1日の送検時には自力でしっかり歩いていました」
同署によると、吉伊容疑者は「自宅で子どもの首を手で絞めて殺した」と容疑を認めており、27日の犯行とみられている。一部報道によると、「お金がなく、食べものもなく、将来を悲観していた。息子を1人で残せなかった」とも供述しているという。母親は10年前に亡くなっており、大聖さんが1歳のころから父子の2人暮らしだった。
“親子の姿”を近隣住民が証言
自宅アパートは、最寄りの京成電鉄公津の杜駅から徒歩で25分ほど。住人などによると、2DKで家賃は4万円台と比較的安価な賃貸物件という。父子は1〜2年前に転居してきた。
「父親は年相応の雰囲気で、特に変わった様子のない普通の男性でした。息子さんは“おはよう”“こんにちは”と、会えば挨拶をしてくれる子でしたね」(同じアパートの男性住人)
大聖さんは知的障害があったというが、近隣の証言によると不自然な振る舞いはなく、軽度とみられる。
また、転居当初の容疑者は仕事をしていたという。
「薄いブルーグリーンの作業着の上下で出勤していました。小学生の親としてはご年配ですが、優しそうなパパでしたよ。いつも息子さんのランドセルや荷物を持ってあげていて。息子さんもパパと一緒にうれしそうに歩いていました。
手をつないでいるときもありましたね。パパは息子さんを毎日学校に送り迎えしていたんです。最初は車を使っていたんですが、いつごろからかチャイルドシートつきのママチャリで送迎するようになったんです」(近所の40代女性、以下同)
大聖さんは学区の小学校には通っておらず、転居前から通う小学校まで遠距離通学していたようだ。電動アシスト付き自転車ではないため、成長した大聖さんを後ろに乗せてペダルを漕ぐのはつらかったろう。
「卒業まであと少しだから、お友達と離れたくなかったのでしょうか。息子さんが11歳になるまで、働くシングルパパの子育ては大変だったはずです。手がかかるのは小学校までですが、これから中学・高校と進学するにつれお金がかかるようになります。
ご自分の年齢などを考えて悲観したのでしょうか。生活保護受給や公的機関への相談など、もっと周囲を頼れなかったのかなと悔やまれます」
容疑者宅前には、後部に大型チャイルドシートを設置した自転車があった。頭部をガードする大きなヘッドレストなど、安全性や乗り心地を重視しているように見えた。道路交通法では小学校入学前の幼児しか乗せられない。4月から自転車にも「青切符」制度が導入され、社会の厳しい目も向けられるようになった。
「現時点で遺書とみられるものは見つかっていません。手で首を絞めると数時間は赤く変色するんですが、大聖さんの首に圧痕はありませんでした。時間経過などにより消えることもあるため、司法解剖して死因を調べるなど慎重に捜査します」(前出・捜査関係者)
将来を悲観して無理心中を図ったのであれば、容疑者はどのように命を絶つつもりだったのか。遺体と並んで食べ物を口にしなかったのか、失ったものの大きさに放心してしまったのか。犯行の前に、子育てで噛み締めた幸せな瞬間を思い出すことはできなかったのだろうか……。
