阪神タイガース・森下翔太選手(25)が、6月6日の試合で受けた退場処分の余波が続いている。東北楽天ゴールデンイーグルスを甲子園に迎えた一戦で、真鍋勝己球審(57)のストライク判定を不服とする森下が“暴言”を吐き捨てた騒動だ。
翌7日、NPB(日本プロ野球機構)から厳重注意と制裁金10万円を科された森下は、「チームに迷惑をかけてしまったので、今日から頑張るというだけ」とチームへの“謝罪”を述べるも、今も真鍋球審の判定には納得いっていない様子。
同日の『サンデーモーニング』(TBS系)に出演した落合博満氏(72)は、「ジャッジするのは審判。選手は不服を言ってはいけない」と森下の言動を咎め、続けて「(審判と)向き合うことの大事さを忘れている」と、現役選手たちに苦言を呈した。
2018年からクロスプレーなど、審判が下したアウト、セーフをめぐる際どい判定に対して、「リクエスト」制度による「ビデオ判定」を導入したNPB。また今季より「リプレーセンター」を設置したことで、より精度の高いリプレー検証を可能とした。
一方で、球審による「ストライク判定」は今なお“アンタッチャブル”だ。4月20日のNPBとの事務折衝で、プロ野球選手会からメジャーリーグに習った「ピッチコム」と、ストライク・ボール判定システム「ABS」、いわゆる“ロボット審判”の導入が求められながらも、これを本格議論していないのが現状だ。
1試合で6度もストライク判定が覆った
マイナーリーグで試験的に導入されていたABSを、今季より本格稼働しているメジャーリーグ。6月8日(現地時間7日)に行われたドジャース対エンゼルス戦では、1試合で6度も判定が覆ったことで、「NHK BS」の中継で解説を務めた伊藤勤氏(63)も思わず「これはひどい」と苦笑いするなど、球審ジャッジがひっくり返されるケースが相次いでいる。
もちろん人間だけに間違えることも致し方なく、まして150キロ、160キロで向かってくるボールを瞬時に見分けるのは至難の業だ。自身のジャッジが公然と覆されるだけに、審判員の“威厳”が損なわれかねないシステムではあるが、それでも試合時間短縮に積極的に動くMLBでは合理的とされるのだろう。
片やNPBではーー、
「俺がルールブックだ」
かつて「東京巨人軍」の初代背番号1を背負い、1937年から審判員に転身して以後、パ・リーグ審判部長などを務めて実働26年、1963年に引退した“名審判”二出川延明さん(享年88)の言葉だ。
1959年7月の毎日大映オリオンズー西鉄ライオンズの試合で、二塁クロスプレーでのセーフ判定に猛抗議した、当時の西鉄・三原脩監督(享年72)から「ルールブックを見せてくれ」と詰め寄られた際に、二出川さんが「その必要はない。俺がルールブックだ」と、三原さんの抗議を一蹴してみせたセリフとされている。
いかにも“昭和”的発言に思えるが、近年のプロ野球の試合を任される審判員には「俺がルールブック」と言えるだけの経験と技術が備えられているという。長年、プロアマを含めた野球の現場を取材してきたベテランライターの話。
アマ野球で「抗議」はほとんどない
「たとえば学童野球から高校野球といったアマチュア試合で見かける審判ですが、各都道府県や市町村の各野球連盟で登録された審判員が務めています。そのほとんどが各チチームに所属していたコーチ、はたまた“お父さん審判”をきっかけに本格的に審判を目指した人たちが派遣されています。
そして各連盟、支部会によって定期的に開催される審判講習会や研修会に参加して、基本的なコールやジェスチャーのやり方から、実践的なプレーにおけるジャッジなど、オジサンたちが一所懸命にグラウンドを走り回って声を張り上げて、審判の練習をしているのです」
「公認審判員」ライセンスを要する高校野球では交通費ほどの“手当て”が支給されるものの、審判員は基本的にボランティアであって無給。それは甲子園大会といった全国大会でも同様で、球児たちのため、試合のために各々が休日返上して日々努めているようだ。
「その背景を知っているからこそ、たとえ明らかなミスジャッジが起きたとしても、自軍選手が不服そうな態度をとっても、アマチュア現場で審判員に抗議する監督やコーチはほとんど見かけません。彼らに感謝とリスペクトを持ち、審判である前に人間として向き合う姿勢があるからです」(前出・ライター、以下同)
そんな全国にごまんといるアマチュア審判員たちの最高峰にいるのが、NPBに所属しているプロの審判員。今季は58人(育成10人)の現役審判員が在籍しており、各リーグの試合にあたっている。
森下が「退場処分」になった真相
「1軍の試合で場数を踏んだ審判員であれば、年収1000万円以上ともされるプロの世界。彼らはボランティアではなく、プロの技術と判断力を持っている職業審判であって、これまで鍛錬を積み重ねてきた自信が“威信”や“威厳”として映るのです。
実のところ、MLB審判員はそれぞれゾーンが偏りがちなことから、ストライク判定の誤審が多いとされていました。先のWBCでも“ん?”と思わせる外国人審判もいたように、MLBと比較するとNPB審判員はレベルが高いと思いますよ。それでも時に今回のような騒動も起きるわけで、その際にはプロとして抗議を受けることも審判の務めということです」
そもそも森下の退場処分についても、真鍋球審は暴言を受けてから即座に通告したわけではない。試合後、取材に応じると、
「(森下に)警告はしました。一度ね。“もうそれ以上言うな”と。それでもまだ(暴言を)続けたので退場ということです」
三振後にベンチに引き下がるまでの間、森下は注意されてもなお暴言を続けたことで退場処分になったのが真相のようだ。
令和時代の選手には“昭和”は通じないのだろう。やはり「ルールブック」をロボットに委ねる時が来ているのだろうか。
