2026年大相撲パリ公演(相撲協会公式HPより)

 2026年6月13日・14日にフランス・パリのアコー・アリーナで開催された大相撲パリ公演。31年ぶりとなるパリでの公演に向け、横綱・大の里、豊昇龍をはじめとする力士や日本相撲協会関係者、行司、床山ら約130人が羽田空港から出発。一行は2班に分かれて現地入りしたが、その背景には「移動の都合」だけでなく、航空会社による緻密な安全管理があった。

力士のパリ移動を支える航空会社の「安全調整」

パリでお目当てのパンをGETしてご満悦の隆の勝(公式Xより)

 6月9日、横綱・豊昇龍や霧島、高安らが第1陣としてパリへ出発。翌10日には横綱・大の里、大関・安青錦、夏場所優勝の小結・若隆景ら約65人が第2陣として羽田を発った。

 力士団体が2班に分かれて移動する光景は、近年の海外巡業でも見られる。だが、単に人数が多いからという理由だけではない。

理由は2つあります。ひとつはリスクの分散ですね。万が一、事故に遭ってしまった場合、横綱や大関、三役などの看板力士が同じ便に乗っていたら、大相撲の歴史や伝統を途絶えてしまう危機に瀕します。これは相撲界だけではなく。企業の経営陣が同じ飛行機に乗らないのと同じですね。ですから。横綱や大関が同じ便に偏らないよう均等に分けているはずです」(相撲ライター)

 そしてもう1つは航空機の安全運航に欠かせない「重量・重心管理」という観点が、その背景にある。

 航空会社は通常、乗客1人あたりの体重を「標準旅客重量」として計算する。国土交通省航空局の基準によると、国内線では大人1人あたり夏季68kg(男女混合)、冬季69kg(男女混合)。国際欧米線では夏季70kg、冬季73kgとされているが力士の平均体重は約120kg。幕内力士ともなれば150kgを超えることも珍しくない。「標準旅客重量」との乖離は明らかで、通常の計算では機体の重量・重心位置を正確に把握できないだろう。

 今回の移動に関しては幕下以下と付け人はエコノミー席、関取は番付に応じてビジネスクラス席、ファーストクラスが割り当てられた。そんな中、どのような安全調整が行われたのかJAL(日本航空)の広報に話を聞いてみた。

「事前に営業担当者より団体でご搭乗されるお客さまの詳細情報が共有され、事前調整を行いました。標準的なお客さまの重量(標準旅客重量、およそ70kg)が適用できるか否か、対象便における重量・重心位置に制限が発生するか否かの確認、調整を実施しました」(JAL広報)

 つまり、力士のように標準値から大きく外れる乗客については、個別に重量を確認し、運航計画に反映させる必要がある。

大型力士はエコノミー2席分

 体格の大きい乗客が搭乗する場合、座席の問題も生じる。JAL広報によると、「一部エコノミークラスに着席されるお客さまについては、2席分の座席を確保いただく必要があり、このような調整については別途営業担当が行いました」という。

 続けて「今回のケースでは、着席位置の調整は⾏っておらず、標準的なお客さまの重量(標準旅客重量)を適⽤できないお客さまに対しては重量補正を⾏い、運航に必要なウエイト&バランス情報を作成しました」とのこと。 

「力士と航空機の重量問題といえば、2023年10月の『かごしま国体』での一件が記憶に新しいですね。奄美大島で開催される相撲競技に向かう選手らが羽田・大阪発の便に集中した結果、重量オーバーの恐れが生じ、JALが急きょ臨時便を出す事態となりました。当時は異例の対応と報道されましたが、機体の重量把握にいかに気を遣っているかがわかる事案でした」(スポーツ誌記者)

 JALはこういった過去事例をしっかり反映させ、今回の団体輸送や運⽤上の改善を行ったという。

「2023年の⼒⼠の皆さまの搭乗による臨時便対応を社内にて振り返りを実施し、標準的なお客さまの重量(標準旅客重量)を適⽤できないと想定される団体予約を受け付けた時点で、事前に⾶⾏機の重量や重⼼位置に制限が発⽣しないか、また機材や路線特性上制限が発⽣しやすい路線については、厳しい基準で事前に確認ができるフローを確⽴しました」(JAL広報)

 31年ぶりのパリ公演を前に、力士たちは約14時間のフライトを終えて無事に現地入りし《エコノミーの幕下力士、大丈夫だった?》《無事の到着……安心しました》《長旅疲れたかな?パリ楽しんで!》など、ファンからねぎらいの声が寄せられた。

 移動の裏側では、航空会社による緻密な重量・重心管理が行われていた。私たちが当たり前のように乗る飛行機の安全は、こうした地道な調整によって支えられている─。