地元の名産であるサバ缶を、宇宙食にしたい─。福井県の若狭水産高校(統合後は若狭小浜高校海洋科学科)の生徒が、そんな大きな夢に挑戦する月9ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』。
手は差し伸べすぎないほうがいい
生徒たちは失敗と成功を繰り返しながら、3年で卒業していく。先輩からのバトンを受け継ぎ、また次の後輩へ。そんな15年にわたる開発により、ついに5期生が味に妥協することなく、JAXAの求める基準をクリアした。
15年間、生徒に手を差し伸べすぎず、温かく見守り続けた教師・朝野峻一を演じているのは、北村匠海。教師役は念願だったという。現場での楽しさや難しさについて聞くと、
「役者として、(生徒役の)彼・彼女たちとどう向き合うか。それをやり続けているだけなんです。普段、どういう会話をするか。どう見守り、どこまで介入するか。毎日すごく考えながらやっていて、その足し引きが本当にすごく楽しいですね」
北村は1期生から5期生に至るまで、ひとり残らず魅力的だったと振り返る。
「でも、その一人ひとりにちゃんと悩みがあって。撮影の裏で流す涙も、たくさん見てきました。僕は今、悩めているのはとてもいいことだと思うので、そんなことを伝えたり。やっぱり、手は差し伸べすぎないほうがいいし」
朝野の教師理念は“生徒のちょっとした気づきや一歩踏み込んだ瞬間を見逃さないこと。それを一緒になって楽しむこと”。北村が本作に挑んでいる姿勢と重なっているように感じる。
「勝手に朝野になっていくというか(笑)。ある意味、裏でもずっと先生でいることで、話しやすかったり、相談しやすかったりすると思うので」
北村は自分の出演シーンがなくても、生徒役の俳優の芝居を現場やモニターで見ていたという。
北村にとっての3人の恩師
「朝野という人物は近すぎず遠すぎず。だからこそ、バックグラウンドでどうするかは、とても大事だと思ったので。気を抜く瞬間がない。なんか、それが楽しいですね」
生徒役の俳優たちに、北村がよく言っていた言葉があるという。
「“今、正解をつかむ必要はない”。『サバ缶、宇宙へ行く』を経て、次の作品につながる気づきを与えてあげたいというか、一緒に作っていきたくて。ある意味、役者としてのきっかけの作品になってくれたらうれしい。
自分の納得いく芝居ができなくて悩んでいる子も、それでよくて。短期間で劇的によくなるとかではなく、やっぱり長期スパンで自分がどういう作品や人と出会っていくのかが大事だから」
“どうやったら芝居がうまくなりますか?”という質問もよくされたという。
「芝居がうまくなるには、絶対に人生経験。人生を感情豊かに生きないと、僕は芝居につながっていかないと思うから“とにかく人生楽しく生きよう、それしかないよ”って答えていましたね。
そういう会話が僕にとってもすごく有意義で。今までこんなふうに自分の芝居について言語化することがなかったから、僕も生徒たちに成長させてもらっているなと感じていました」
子役から演技を続けてきた北村には、3人の恩師がいる。映画『ブタがいた教室』('08年)の妻夫木聡、『鈴木先生』シリーズ(ドラマ'11年、映画'13年)の長谷川博己、ドラマ『仰げば尊し』('16年)の寺尾聰。
当時、受け取ったものを、今作の生徒たちに伝えられているかと尋ねると、
「『ブタがいた教室』のとき、僕は小学生でした。台本がなく、ドキュメンタリーに近かったですね。大人キャストには台本はあったんですが、妻夫木さんもアドリブで僕らと会話する瞬間がたくさんあって。
そういう生徒との距離感は印象的でした。それこそ、朝ドラ『あんぱん』('25年)で再会したとき、妻夫木さんの周りには子どもたちがたくさんいて、接し方が全然変わっていなかった。生徒や後輩との距離感っていうのは、知らず知らずのうちに妻夫木さんのようになっている感じもします。
長谷川さんは当時、会話で関係性を築く方ではなかったけど、芝居において“教師としてかますべきときにはどうするか”ですね。そこは、長谷川さんの影響を受けていると思います。
寺尾さんから直接もらった言葉は、僕は1期生に伝えています。僕がこの役者人生20年の中で大事にしてきたことを、生徒役のみんなには渡したので。そのうえでみんなが何を大事にしていくのか。僕はもう見てるだけですね」
6月22日の放送で最終回。生徒たち&朝野による渾身のサバ缶が、ついに宇宙に飛び立つ……!
生徒たちから夢をもらってもいた
「1期生から何がつながれていったのか。ドラマの内容だけでなく、現場でも、僕たちは何を大事にしてきたのかが最終回では顕著に表れていると思います」
2期生の現場に1期生を呼んだり、4期生の本読みに2期生に来てもらったり……。そんな物理的なつながりをつくり続けてきた。
「すごくいいドラマだなって、シンプルに毎回僕は思っていて。本当に幸せな現場です。何よりも、見てくれるみなさんが『サバ缶、宇宙へ行く』から夢の大切さや筋の通った温かさみたいなものを受け取っていただけたら。
最終回は、その先の未来を感じてもらえたらいいなと思います。モデルとなった小坂(康之)先生は、今も夢を持ち続けていらっしゃるだろうし。大人は夢を与えるだけじゃなく、実は生徒たちから夢をもらってもいたんだと思うし。そして僕自身も、生徒たちの今後がとても楽しみなんです」
神木隆之介とアドリブ4分!
宇宙飛行士志望ながら、宇宙食開発の仕事をしているJAXA職員・木島真を演じているのは、神木隆之介。北村は子役時代、神のような存在として見ていたという神木と、念願の初共演!
「最終回、木島さんとのシーンがあるんですよ。やっと、がっつりふたりで芝居ができると思ったら、ほとんどアドリブになっちゃって、前代未聞(笑)。でも、すごく楽しくて。僕と神木くんにしかできなかったと思うし、僕は神木くんじゃなかったらこれ(アドリブ)は成立していなかったと思う。朝野としての集大成のシーンにもなっていると思います」
取材・文/池谷百合子
