こんにちは。浜木綿子でございます。以前この連載で、バスに乗って知らない土地に行ってしまった失敗談をいたしましたね。実はまた、大失敗を経験しました。
母からは「借金だけはしてはいけません」
その日、行きつけの美容院を予約していたのですが時間が早かったので、お気に入りの洋服屋さんに立ち寄ったんです。なんと春の新作品がいっぱいあるじゃないですか。もううれしくてうれしくて、アレもコレも手に取ってレジへ─。
「アラ!! 美容院のお金、足りるかしら……」
この日の目的は美容院だったのに……。そこで考えました。美容院とは数十年のお付き合いで、洋服屋さんよりも交流は長い。なので、まず洋服屋さんで支払いを済ませてしまいました。その後に美容院へ行って開口一番、「先生、今日ね、お金がなくなっちゃったの」。
「ハァ……? 何があったんですかぁ」
「いつもの洋服屋さんで使っちゃったの……」
美容院の先生は笑いながら、こうおっしゃってくださいました。
「ビックリしましたヨ。そんなのいいです。信用していますから、いつでも」
私は生まれて初めての借金をしてしまいました。母からは「借金だけはしてはいけません」と言い聞かされて育ちましたのに。家を建てたときもローンを組まずに父から借りて、それを返していきました。
それなのに恥ずかしい大失敗をしてしまいました、この年で……。猛反省です(すみませんでした)。
話は変わりますが、舞台で実在の人物や、作品のモデルとなった方を演じるときは、その方がご存命か確認して、お亡くなりになっていらしたら、お墓参りをさせていただきます。私が伺えないときは、マネージャーが必ず伺います。
ご健在ならば、できる限り直接お目にかかって、お話を聞かせていただきます。これまで印象深かった方は、作家・井上ひさしさんのお母様、井上マスさん。
その一代記『人生は、ガタゴト列車に乗って……』の舞台で、私は主人公を務めさせていただき、'89年から公演を重ねました。
その人生は本当にガタゴト列車。マスさんは3人の子どもに恵まれますが、若くして夫を亡くします。それからは列車の中で、去る町、来る町を行きつ戻りつ先に待っている運命を描きながら走り続けるのです。
薬局を振り出しに、生理帯の販売、闇米の仲買、美容院、土木建築業の現場、居酒屋の女将と働き続けます。そして最後に、焼き鳥の屋台が繁盛して大当たり!!
施設に預けていた子どもたちをやっと呼び戻すことができるのです。ここで幕が下りました。こんなにひたむきで先々を見越して行動するバイタリティー溢れる立派な女性を私は知りません。そのマスさんに私はお目にかかれました。舞台もご覧くださいまして、
「舞台になると少し違ってしまうのかしらね。でも笑ったり泣いたり、若き日が蘇りましたよ。みなさん、ありがとう。満足です!!」
と、手を振りながら楽屋を後にされました。マスさんの原作には「流れ星が一瞬のうちにすれ違うように、淡い出逢いであったすべての人を残さず書いておきたい」とありました。舞台ではすべてを描ききれずに残念だったのでしょうね。
「泣いてるヒマなし!」と、強く生きていらしたマスさん。忘れられません。私にとって女優の“こだわり”は、まだありますので、そのお話は次回も続きます。ぜひ、お目を通してネ。では、また!
はま・ゆうこ/1935年、東京都生まれ。宝塚音楽学校卒業。'62年に文化庁芸術祭奨励賞、'73年にゴールデン・アロー賞、'89年に菊田一夫演劇大賞、'95年に橋田賞などを受賞。2000年に紫綬褒章、'14年に旭日小綬章を受章
