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「『認知症は良くならない』『認知症になったら人生終わり』……。そんな考えは時代遅れです」

 そう語るのは、認知症治療の最前線に立つ鴫原良仁先生。この10年で医学の常識は大きく変わり、「認知症は“けっこう”良くなる」ことが明らかに。

「早起き+朝ごはん」で身体のリズムを整える

「世界的に患者数は増えていますが、それはあくまで高齢者が増えているから。実は、認知症になる人の割合自体は減っているのです」(鴫原先生、以下同)

 そもそも、単なる加齢による物忘れと認知症は別物。認知症と診断されるには、原因となる脳の病気やケガに加え、認知機能が悪化して日常生活に支障が出るという条件が必要だ。

 驚くべきことに、認知症の代名詞ともいえるアルツハイマー病であっても、認知症が発症しなかったり、症状が軽く済んだりするケースもあるのだとか。

「風邪をひいて熱を出す人と、出ない人がいるのと同じ。病気の重さと症状の重さにはズレがあるんです。認知症とは、あくまで脳の病気によって現れる『症状』のこと。ですから、土台となる身体が整っていれば、たとえ脳に原因があっても、認知症の症状が出にくかったり、軽くなったりすることがあるのです」

 その鍵を握るのが、「認知の予備能」と呼ばれる脳の貯金。

「『覚える』『考える』『集中する』といった、人間らしく生きるのに必要な能力を認知機能といいますが、人は今使っている認知機能とは別に、予備の認知機能も蓄えています。この予備が十分にある人は、アルツハイマー病になっても蓄えでカバーできるので、認知症を発症しにくいのです」

認知症・軽度認知障害の患者数 ※厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」調べ

 この貯金は、健康的な生活を送ることで増やすことが可能。

「脳は脳だけで独立しているわけではなく、全身の健康と密接に関わっています。身体が健康になれば、脳細胞の一つひとつが元気になり、脳細胞同士のつながりも良くなって、脳全体の性能も高まります」

 脳のためにまず大切なのは、“身体が傷まないようにする”こと。

基本は、毎朝同じ時間に起きて朝日を浴び、生活リズムを整えることです。人は朝と昼と夜とではホルモンや自律神経の状態が異なります。規則正しく生活することで、それらのバランスが整い、脳や身体が正しく機能します。目が覚めたら布団の中でゴロゴロするのはやめましょう。

 布団から出て立ち上がることで初めて脳も身体も、朝が来たと自覚します。朝食も脳の目覚めに有効です。昼寝は身体が夜が来たと勘違いするので控えて」

 さらに鴫原先生は、生活にメリハリと、ときめきを持つ重要性も説く。

「同じ毎日の繰り返しでは、脳への刺激がなくなるので、私の外来では、日記にその日の楽しかったことを書いてもらっています」

 また、糖尿病や高血圧など生活習慣病の持病があれば、自己判断で服薬をやめず、しっかり治療をすることも欠かせない。

「自覚症状がないからと生活習慣病を放置すると、血管が傷み、将来的に認知症につながってしまいます」

65歳を過ぎたらダイエットは禁物!

「生き物の脳や身体は、使わないと弱り、使えば鍛えられます。積極的に外出したり、人と交流したり、趣味を楽しんだり、定期的な運動を習慣にしましょう」

 鴫原先生が、“高齢者がやってはいけない”と釘を刺すのが「ダイエット」だ。

「65歳を過ぎて体重を落とすと、脂肪ではなく筋肉ばかりが落ちてしまいます。筋肉には脳を活性化させるホルモンを出す働きがあるため、筋肉が減ると脳の働きも鈍くなってしまいます」

病院に相談することで現在の自分の状態がわかり、状況が改善することも ※写真はイメージです

 筋肉には血液をためる働きがあるため、筋肉が減ると血液も減って脳に十分な血液が運べなくなり、脳の機能を落とすことに。

 そこで、脳への血流量を増やすために意識したいのが「水分補給」だ。

「1日に1・5リットル程度の水を飲むことをおすすめしています。血流が良くなると脳に酸素や栄養がたくさん運ばれ、脳が元気になって認知機能が上がることがわかっています」

 逆に、身体にとってよくないことは脳にとってもよくない習慣。

「タバコは脳に酸素が行かなくなるので厳禁。飲みすぎもよくありません。最近は『酒に安全な量はない』と言われています。飲まないのが一番ですが、人生がつまらなくなっては本末転倒。楽しみの範囲でたしなむ程度なら良いのではないでしょうか」

 大切なのは、今の楽しい生活をこれからも続けたいと思える毎日を過ごすこと。

「目的もなく、『英語を覚えたい』『ダイエットしたい』と思っても長続きしないように、認知症予防を目的にしても続きません。でも、『最期の日まで楽しく生きたい』と考えたら、続けられるのではないでしょうか」

 さらにもう一つ重要なポイントがある。

「実は、脳トレなどは一人でやるよりも、集団で行うほうが高い効果が得られるというデータがあります。指導者や仲間と交流しながら取り組むことが、脳にとっていい刺激になるのです」

認知症の改善に手遅れはない

 鴫原先生は、「認知症の改善に基本的に手遅れはない」と断言。ただし、大切なのはゴールの設定を間違えないこと。

「認知機能を二十歳のころに戻そうとする必要はありません。今の生活で困っていることが、少しでも改善して楽しく暮らせる力が取り戻せればいいんです。あるいは、進行のスピードを緩やかにする。そうした現実的なゴールであれば十分に達成可能です」

 もし「最近、物忘れがひどくなったかも?」と不安を感じたら、まずは受診することが重要。

「病院へ行くのは怖いかもしれませんが、他の病気ではないことを確認しに行くだけでいいんです。認知症だと思い込んで受診したら、脳腫瘍やてんかん、甲状腺の病気など、別の原因が見つかり、治療で改善するケースも。健常であっても自分の生活を見直すきっかけになります」

 鴫原先生が最も危惧するのは、誤解によっていらない苦しみを抱えること。

「認知症と絶望する必要はありません。日々の習慣を変えれば、今からでもけっこう良い状態にすることは可能。その事実を知ることが、明日を明るくする第一歩です」

今日から始める、認知症を遅らせるメソッド

□朝日を浴びる

 毎日同じ時間に起き、目覚めたらすぐ朝日を浴びると体内時計がリセットされ、脳と身体が正しく働く

□定期的な運動をする

 身体が健康だと脳の健康も維持しやすい。1日の運動量は少なくても運動を習慣にすることが大切

□人と交流する

 人との交流がないと認知機能が下がるという研究結果が。SNS利用でも効果があるので積極的に取り入れて

□趣味を楽しむ

 頭と身体を使わないのは認知症の2大原因。ワクワクする趣味を見つけると脳が活性化するのでおすすめ

□外出する

 家にこもってテレビや新聞ばかり見ていると、生活リズムが崩れがち。外出時には身だしなみにも気を使うので脳への刺激になる

□持病を治療する

 特に高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を放置していると認知機能の低下につながる。まずは病院で治療方法の相談を

鴫原良仁先生 認知症サポート医、脳科学者。北斗病院精密医療センターセンター長、十勝リハビリテーションセンター「もの忘れ外来」医師。『脳科学者でもの忘れ外来医師が教える認知症はけっこう良くなる』(河出書房新社)が発売中。
教えてくれたのは…鴫原良仁先生 認知症サポート医、脳科学者。北斗病院精密医療センターセンター長、十勝リハビリテーションセンター「もの忘れ外来」医師。『脳科学者でもの忘れ外来医師が教える 認知症はけっこう良くなる』(河出書房新社)が発売中。

取材・文/荒木睦美