「皇室のあり方や活動の基本は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考えており、こうした皇族数の確保のあり方についての議論においても、国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」
陛下がお気持ちを表明されたことは過去にも
天皇陛下がこう述べられたのは6月11日。皇居の「石橋の間」で行われた、海外訪問に向けての記者会見でのことだ。
「両陛下は13日からオランダとベルギーを訪問されています。それに際して開かれた記者会見では、両国と日本とのつながりに関する質問のほかに、現在協議が行われている『皇族数確保の問題』についての質問も出ました」(皇室担当記者、以下同)
皇族数確保のための皇室典範改正を巡っては、衆参両院が10日、皇族数確保に関する全体会議で「立法府の総意」として、とりまとめを行ったばかりだ。
「(1)女性皇族が結婚後も皇室に残る案、(2)旧宮家の男系男子を養子として迎える案、という2案を“了とし、法制化することを求める”としました。陛下の会見が開かれ、この問題について“異例の言及”をされたのはその翌日のことです」
こうした海外訪問前の記者会見で、皇室の重要な局面においてのお気持ちを、陛下が表明されるのは、今回に限った話ではない。
「有名な“人格否定発言”が行われたのも'04年に陛下が欧州訪問前の記者会見に臨まれた際のことでした。当時、皇太子だった陛下が『それまでの雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です』と発言され、日本中に大きな衝撃を与えました」
“旧宮家の男系男子の養子案”への抵抗と批判の声は大きい
近現代の皇室制度に詳しい、静岡福祉大学の小田部雄次名誉教授は今回の会見について、こう解説する。
「口には出せないが多くの懸念があるという表れでしょう。『立法府の総意』と言いつつ、世論調査では、『愛子天皇』を待望する割合も高いのが現状です。こうした国民の声を、今の政府や国会は無視し、強硬な姿勢で皇室典範改正へと突き進んでいます。加えて、皇室と姻戚関係にある麻生太郎氏を中心とした自民党の派閥勢力の声を重視している動きが強いことも、多くの国民は懸念しています。こういった事態を陛下も聞き及んでいるのでしょう」
今回の皇室典範改正案において、特に多くの国民が不安を抱いているのは(2)案だ。この不安は森英介衆議院議長の“とある発言”によって加速した。
「8日、森氏は(2)案で養子となった男系男子に男の子が生まれた場合、“皇位継承権を持つ”と発言しました。翌日には“皇室典範の解釈に触れたにすぎない”と自身の発言を釈明しましたが、現行の皇室典範では養子自体認められていません」(前出・皇室担当記者)
もともと旧宮家とはいえ“一般人”を皇室に迎えるという案には懸念も多かった。
「今でも『長子相続』『女性天皇』『女系天皇』を支持している国民は多く、そうした国民世論をないがしろにすることへの説明が不十分なまま、“旧宮家の男系男子の養子案”を早急に決めることへの抵抗と批判の声は大きいです。将来の議会政治の運営にも禍根を残すでしょう」(小田部名誉教授)
しかし、自民党と日本維新の会は、養子案を「最優先」と位置づけている。
「また、8日に“養子案は 20、30年後の見直しを想定している”とも明かされ、(2)案は、より議論が進んでいるようにも捉えられます」(前出・皇室担当記者)
“男系男子”への強いこだわりは皇室の本質を毀損する
養子案の“実現性”に疑問を抱くのは、近代皇室の社会史に詳しい成城大学の森暢平教授だ。
「(2)案は、それを推進する側にも本当に実現できるのか疑っている人もいるのではないでしょうか。自民党の支持基盤である宗教保守の活動が過熱しているため、ある意味“お付き合い”で案を作成したという側面もあります」
新聞記者時代には宮内庁も担当した森教授が、養子案の実現を難しいと考える理由は宮家側にもある。
「陛下自身が『国民の皆さんの理解が得られるもの』と発言するなか、宮家の養子は、本家である天皇家を差し置いて天皇に即位する可能性があります。そうした状況で、三笠宮家や高円宮家にある皇族が“養子を受け入れます”と手を挙げられるとは思えません」
一方で、(1)案について、女性天皇や女系天皇の実現への一里塚とも捉えることができると話す森教授。“男系男子”にこだわる政府には、警鐘を鳴らす。
「これまで、皇室は時代や社会の形を反映してきました。大正期以降、側室制度を廃止し、上皇ご夫妻の結婚は『恋愛』性が強調されるなど、国民に近い家族のあり方を実現することで、『国民と共に』という姿勢を意識されてきたのです。21世紀の社会がこれまで以上に変化する中で、頑なに“男系男子”への強いこだわりを持ち続けることは、国民と共にあるという皇室の本質を毀損する可能性があります」
前出の小田部名誉教授も今後の皇室典範改正について、こう助言する。
「皇室典範は、象徴である天皇や皇室のあり方を定める重要な法律です。一部の政府関係者や有識者だけでなく、国民投票などで広く民意を反映させるべきです。当面は(1)案のみを決定し、ほかは急がず丁寧に議論を重ねるべきでしょう。これによって、単なる『皇族数の確保』ではなく、本来の『長子・女性・女系』という皇位継承の根本的な議論に立ち返ることができます。それこそが、安定した皇室の未来を築く正しい選択ではないでしょうか」
重大な岐路に、今まさに立っているーー。
