暑い時季や起床後、入浴後など、実は私たちの身体は気づかないうちに軽い脱水状態に陥っているという。しかも、食事抜きや一気飲みなど何げない習慣が、“かくれ脱水”を慢性化させる原因になることも。そこで済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜先生に、脱水を招くNG習慣と正しい水分補給法を聞いた。
1食抜くだけで脱水のリスクは一気に跳ね上がる
「水をこまめに飲んでいるから脱水の心配はない、と安心している人。実はあるNG習慣によって、知らないうちに“かくれ脱水”に陥っているかもしれません」
と話すのは、済生会横浜市東部病院患者支援センター長で、脱水に詳しい谷口英喜先生。脱水を引き起こすNG習慣、そして“かくれ脱水”とは一体なんなのか?
「身体の50~60%を占める水分は、常に汗や尿などで排出され、失われています。減った分は水分摂取で補っていますが、補給が追いつかず、3%以上の水分が失われると脱水になります。すると喉の渇きや食欲低下、頭痛、吐き気、脱力感などさまざまな症状が現れ、熱中症や、血液の濃縮による脳梗塞、心筋梗塞のリスクが上昇します」(谷口先生、以下同)
ところがそうした症状がないにもかかわらず、多くの人が頻繁に脱水状態になっているという。
「実は汗をたくさんかく暑い時季や起床時、入浴後、二日酔いの日などは、体内の水分の1~2%が失われる軽い脱水になっています。この程度の脱水は症状が出にくく無自覚なため、かくれ脱水と呼びます。基本的にかくれ脱水は水を飲むことですぐに解消されます」
水をきちんと飲んでも脱水が解消されず、慢性的なかくれ脱水に陥っている場合があるという。
「人間は1日約2~3lの水分摂取が必要ですが、すべて飲み水で補っているわけではありません。半分の1~1.5lは飲み水から、残りの半分は3度の食事から摂取しています。
食事をすると、食材に含まれる水分に加え、食材のエネルギーが代謝される際に体内でつくられる代謝水も補われます。体重50kgの人なら1日約250mlの代謝水がつくられています」
食事には体内に水分をためるのに欠かせないナトリウム(塩分)やカリウム、マグネシウムなどの電解質も含まれる。
「夏バテなどで食事を1食でも抜くと、水分だけでなく電解質の摂取も不十分になります。すると身体は塩分濃度を保とうとするため、真水を飲んでも余分な水分として尿で排出されてしまい、水を飲んでいるのに脱水が進むという悪循環に陥ってしまうのです。
特に夏は汗と一緒に塩分が失われるため、1食抜くだけで脱水のリスクは一気に跳ね上がります」
さらに筋肉量の少ない高齢者や女性は、脱水のリスクがより高いと谷口先生。
慢性的なかくれ脱水に陥っている人が一定数いる
「体内の水分はその多くが筋肉にためられています。筋肉量が少ない高齢者や女性は、水分を補給しても量をためられないので尿として排出されやすいんです。だから少しでも水分補給を怠ると軽い脱水になってしまう。水分の一気飲みも要注意です。
しかも高齢者は喉の渇きを感じにくいため、知らないうちに慢性的なかくれ脱水に陥っている人が一定数います」
かくれ脱水の人は、深刻な脱水症になるリスクも高く、注意が必要なのだ。
自覚しにくいかくれ脱水。どうすれば気づけるのか。
「一般成人で敏感な人は、だるさや眠気、集中力やパフォーマンスの低下など違和感を覚えることも。
高齢者はほぼ無自覚ですが、慢性的な疲労感がサインです。なんとなく不調を感じたら1時間ほどかけて500mlを飲み、体調が戻ればかくれ脱水と判断できます」
皮膚をつまんで確認する方法もある。詳しくは次ページの画像を参照してほしい。では、正しい水分補給のコツは?
「1.5lをとにかく細かく分けて飲むこと。一度に300ml以上を飲むと尿として排泄されてしまうので、1回約200mlが目安です。特に高齢者は喉の渇きを感じにくいため、喉が渇く前に飲むことが大切。時間を決めてこまめに飲みましょう。おすすめは、水かお茶。
利尿作用のあるカフェインが入ったものでも普段から飲み慣れていれば水分を保持できるのでOKです。ただし、カフェインのとりすぎは高血圧や頭痛を起こす可能性があるので、適宜調整を」
食欲がないときは、電解質も一緒にとれる経口補水液やスポーツドリンクを積極的にとりたい。
「スポーツドリンクはエネルギーチャージを目的につくられているので、身体への吸収に30分以上かかります。水分の吸収スピードを早めたい場合は経口補水液が最適。10~15分で体内に吸収されます」
脱水予防には、日頃から筋肉を蓄えておくことも大切。タンパク質の摂取とウォーキングなど適度な運動も心がけたい。酷暑が予想される今年の夏。頻回な水分補給と、1日3回の食事摂取を守って厳しい夏を乗り切ろう。
実はやりがち!? NG水分補給
・食事を抜く
3食のうち1食でも抜くと、食材の水分や代謝水、さらに電解質が不足して脱水のリスクを高めてしまう
・一気飲み
300ml以上を一度に飲むと、体内にためることができず尿として排出されてしまう。1回あたりの上限目安はコップ1杯、200ml程度に
・ジュースでの水分補給
糖分の過剰摂取になり、血糖値の乱高下を引き起こすため要注意
・冷たい水分をとり続ける
自分の飲みやすい温度で摂取することが大切だが、冷たい飲み物は胃腸の消化酵素にダメージを与えて吸収を阻害するため飲みすぎはNG。理想は常温で飲むこと
かくれ脱水にならないために水分をとるべきタイミング
【合計約1.5lを目安に飲もう】
水分補給のいちばんの理想は、点滴のように、こまめにとり続けること。
WHO(世界保健機関)では、コップ1杯(約200ml)を1日8回以上飲むことを推奨している。特に意識して飲むべきタイミングは、3食のタイミングに加えて、体内の水分が失われやすい起床時と就寝前、外出や入浴の前後など
かくれ脱水のサイン!
爪を立てずに手の甲の皮膚をつまみ、パッと離す。元の状態に戻るまで3秒以上かかる場合は、かくれ脱水が疑われる。
取材・文/井上真規子
谷口英喜先生 医学博士。済生会横浜市東部病院患者支援センター長。脱水症・熱中症の対策に詳しく、予防法を積極的に発信。著書に『いのちを守る飲水学 からだがよろこぶ水分補給のトリセツ』(評言社)など。
