少子化といわれつつも、毎年過熱しているというランドセル商戦。一般社団法人日本鞄協会・ランドセル工業会の2025年度の調査によると、翌年度に入学予定の子どもがランドセルを購入した時期で最も多かったのは「5月まで」。全体の36.2%だった。
同工業会会長の林州代さんによると「今年も例年度と同じく、ゴールデンウイーク前後の時期がピークだった」という。
ランドセルの定番色は減少傾向
「小売店や百貨店で、翌年度のランドセルの販売スケジュールが出るのがだいたい1月ごろ。そして3月下旬ごろに商品のラインアップが出そろいます。そのタイミングで目星をつけて、4〜5月に購入という流れですね」(林さん、以下同)
ただし「ラン活について調べ始める」という点では、さらに前年の11月ごろから動いている人も少なくない。
「30年ほど前は11月15日の七五三商戦を過ぎると、そこがランドセル売り場にかわっていました。入学する1〜2か月前に買うことも普通だったのが、どんどん早まっていき、今は1年以上前に考え始めるのは普通ですね」
その要因となったのが、ランドセルの“多様化”だ。かつて男子は黒、女子は赤と、ほぼ固定化されていたのが、今やカラーもデザインも数え切れないほどの選択肢があり、性別に関係なく好きなものを選べるようになった。
「ランドセルの多くは職人による手作り。工房によっては数人で何種類ものランドセルを作っているところも珍しくありません。ランドセルのカラーバリエーションや機能が豊富になったことで、制作時間も増えました。そのため、早い段階から注文を受け付けないと間に合わないんです」
決して商戦を煽っているわけではない、と林さんは語る。なお、カラーバリエーションが増えるようになったのは、なんと「ユニクロ」がきっかけだとか。2000年にユニクロから発売された全50色のフリースが大ブームを巻き起こした。それを見た、ある大手のバイヤーが、ランドセルでもカラー展開をしたいと企画したのが始まりだといわれている。
ランドセルの人気色はその年によって異なる。
「男子用は黒が定番の人気色でしたが、今年は紺の勢いが旺盛ですね。肩ベルトにゴールドを使ったモデルもよく売れています。女子用はこの5年くらいラベンダーが1位。赤は順位を下げて今、5位くらい。数が出ないとメーカーさんも作る量を減らすので、かつて定番だった赤いランドセルは今後さらに減っていくかもしれません」
カラーバリエーションが増えた分、在庫管理も難しくなった。売れ残りを出さないため、大量生産はできない。そのため人気色はすぐに完売してしまうのだ。
「その年の人気色は販売開始するまでわかりません。再生産しようと思っても、ランドセルは材料をそろえるだけで半年かかるので制作が間に合わないんです。種類が多すぎるため、注文の予測が難しいというのが本当のところです」
日割り計算したら安くてお得、安心
機能面はメーカーごとに異なるものの、反射材や防犯ブザー用のフック、背中へのダメージを軽減する背面クッションなどは、ほとんどのランドセルに採用されているという。
「最近は『立ち上がり背カン』も人気です。ランドセルの背面に対して、肩紐が立ち上がる状態でついているものをいいます。身体への密着度が高まり、肩や腰にかかる負担が分散されるので、うまくフィットすれば本当に軽く感じられます」
現在のランドセルの市場規模は、約550億円前後で推移している。少子化によって販売数量は減っているものの、単価が上がったことで全体の売り上げをキープしている。30年前は平均3万円程度だったのが、今いちばん売れる価格帯は6万円前後だという。
「単純に原材料の価格が上がったこともありますが、お客様が求めるランドセルのクオリティーが、昔とはまったく違います。刺しゅうやロゴなどのデザイン性や、充実した機能など、“ちょっといいもの”をお求めになる方が多いです」
例えば、コードバン(馬の革)のランドセルの場合、相場約16万円の高級ラインだ。また、DIESELやマリークワント、ポール&ジョーなど、人気アパレルブランドから出ているランドセルも、相場より高めの価格設定。鉄道や美術館とコラボしたモデルなど、ランドセルの付加価値も多種多様になっている。
とはいえ、高価格帯のランドセルばかりではない。市場には1万円前後の“激安ランドセル”も並ぶ。実際、価格によってどのくらいの差があるのだろうか。
「私たちが定義するランドセルは、人工皮革、牛革、コードバンのいずれかを使った箱型の背負えるカバンを指しています。一方、安価なモデルはナイロンやポリエステルなど、革以外の素材を使っていることが多い。耐久性が劣るので、まず6年間は持たないと思います」
実際に、ランドセルの代わりにナイロン製のリュックを買った1年生が、2年生に上がるころに改めてランドセルを買いに来るケースは例年あるという。
「軽くて使い勝手がいいということでリュックを買ったものの、やはりランドセルが必要だと買いに来るお客様は、毎年一定数いらっしゃいます。壊れたり、汚れが落ちないといった理由がほとんどですね」
対してランドセル工業会が定めるランドセル規格にのっとって作られたランドセルは、6年間修理保証がつく。万が一、製造元が廃業したとしても、代わりにランドセル工業会員が修理するというW保証もある。
「元気な小学生が6年間毎日使っても壊れないのが、ランドセルの大きな価値です。高価といっても、6年間を日割り計算したら50円程度で、今のペットボトル飲料1本よりも安い金額。値段だけが前に出がちなので、工業会としてはランドセルの価値をもっとアピールしていかなければと思っています」
ランドセル選びのポイント
かつてランドセルは、親や祖父母が選ぶのが当たり前だったが、今は子どもが主体となって選ぶようになった。親と子どもの意見が合わず、店内で親子ゲンカが始まるのも毎年の風物詩だという。
「親はシンプルなものがいいけど、お子さんは派手なものがいいというケースが多いですね。ただ、親が無理やり買うことはなく『出直します』と言って後日改めて来店されます。話し合って意見を合わせて、納得したものを買われていきます」
この30年で大きく変わったランドセル事情。今後も変わっていく可能性はあるのだろうか。
「子どもの持ち物が変わることによって、ランドセルのサイズが変わるということは十分考えられます。例えば、タブレット端末の導入で教科書が減れば、もっと薄いランドセルにニーズが集まるかもしれません。子どもにとって使い勝手がいいものを追求するのがランドセルなので、学校に順応する形で進化し続けるのではないでしょうか」
林さんの考えるランドセル選びのポイントを聞いた。
「いちばんのポイントは、必ず実物を背負ってから選ぶこと。お子さんの体形によって、ランドセルの合う・合わないは確実にあります。ランドセルが合わず、肩に擦り傷ができてしまうお子さんもいるんです。靴を選ぶのと同じように、サイズ感、フィット感を確認してもらえたらと思います」
過熱する令和のラン活。5月がピークではあるが、この時期を過ぎても焦る心配はないと林さん。
「ランドセル自体は絶対に売り切れることはありませんし、必ず3月までにはお届けします。気に入ったものをじっくり探してみてください」
取材・文/中村未来
