心筋梗塞は、心臓に血液を送る血管=冠動脈が血栓などによって詰まる病気だ。酸素や栄養素が届かなくなることで心臓の筋肉が壊死してしまう。心筋梗塞などの心疾患は日本人の死因の2位に挙がっているが、ミドル女性にはあまり自分事として感じられない人も多いのでは?
50歳以降は注意血管のダメージ増
「確かに女性の発症率は男性の3分の1程度ですが、それは50歳くらいまで。それ以降はグンと上がり、男女で同程度になります」
と話すのは、東北大学名誉教授の上月正博先生。
その理由はほかでもなく更年期による身体の変化。
女性ホルモンのエストロゲンには血管をやわらかく保ち、血管の壁が狭まるのを防ぐ働きがある。ところが閉経によってエストロゲンの分泌が極端に下がると、この働きも低下。血管がダメージを受けやすくなり、そこから心筋梗塞の発症リスクも上がってしまう。
「さらにリスクを高める要因として飲酒があります。これまで女性は20g/日のアルコールなら問題ないとされていました。これはビールなら500ml、ワインならグラス2杯程度に相当します。ところが、近年の研究では1gでも害があることがわかっており、『酒は百薬の長』という説は否定されています」(上月先生、以下同)
脱水で血液ドロドロ夏場がアブナイ
実際に心筋梗塞の発症が多いのは冬だが、夏もまた油断はできない。
「冬の心筋梗塞の引き金は寒暖差。外気が寒いと身体は熱を逃がさないように血管を収縮させ、そこを血液が通ろうとするため血圧が上がり、血管に大きな負担がかかります。そのため入浴時の発症も多いのです。交通事故での死亡者は年間2千~3千人ですが、入浴中に心筋梗塞で亡くなる方はその倍もいます」
一方、夏場の心筋梗塞の引き金は脱水だ。
「暑さで汗をたくさんかくことで血液中の水分が減って血液濃度が濃くなり、血栓ができやすくなるため、心筋梗塞だけでなく、脳の血管が詰まる『脳梗塞』を発症することも」
近年の気候変動で汗をかく時期が長く、汗の量も増えており、熱中症や脱水の危険性は増している。
「夏に心筋梗塞で亡くなる人は統計的には多くはありませんが、中には亡くなった状態で見つかるケースも。予防のためにも、食事に含まれる水分1Lを含め、1日トータルで約2・5Lは水分をとることを心がけて。30分~1時間に1回程度の小まめな水分補給で、1日1・5L分を摂取しましょう。ただし、スポーツドリンクなどは塩分と糖分が多く腎臓に負担をかけるため、無糖、無塩の飲み物が望ましいです」
心筋梗塞を防ぐ半身浴と運動習慣
心筋梗塞を予防するための具体的な対策を教えてもらった。
「まず入浴ですが、夏場はシャワーで十分。お湯につかりたい場合は腰までの半身浴ならOK。どうしても全身しっかりつかりたい方は、38~40℃のぬるめのお湯に4分以内に。42℃など熱いお湯は血圧を上げてしまうのでNGです。
そして、血圧が下がりやすい食後の入浴もおすすめできません。お風呂で温まるとさらに血圧が下がるため、意識がなくなる可能性もあります。夕飯で晩酌してほろ酔いでお風呂……というのも、一見気持ちよさそうですが身体にとっては最悪のパターンなのです」
運動は心筋梗塞の予防にとても効果的だそう。
「運動不足は寿命を5年縮めるといわれます。コンスタントな運動習慣をぜひ身につけてほしいですが、中でも心臓にいいのはウォーキングなどの有酸素運動。一定のリズムで行う運動は心臓に適度な刺激を与え、血管をしなやかに広げ、血流をスムーズにします。私の夏のおすすめは大型ショッピングモールの中を歩くこと。天気に左右されず階段などもある。家族が買い物をしている間に自分はウォーキングをすればいい」
ただし、血圧の薬を飲んでいる人は運動のタイミングに注意が必要。
「午前中は降圧剤の効き目が切れている時間帯なので、血圧が上がりすぎてしまう可能性が。朝食をしっかり食べ、薬を服用して午後から運動しましょう」
心筋梗塞のサインは胸痛感じたらすぐ病院へ
もし心筋梗塞になった場合、病院へ無事に到着して治療を受けられるかで命が助かる確率が劇的に変わる。心筋梗塞の病院内死亡率は7%。つまり、発症してしまっても受診できれば93%は生きられるのだ。
「心筋梗塞やそれにつながる不整脈、狭心症などの症状として特徴的なのは、胸の痛み。男性は典型的な症状が現れやすいのですが、女性は背中やみぞおちの痛み、吐き気、疲労感として現れることもあり、熱中症や更年期症状と重なる場合もあるので見逃しやすい傾向があります。
動悸や息切れはサインのひとつなので、これらを感じたらなるべく早く循環器科の受診を。動けないなら救急車を呼んでかまいません」
女性は我慢強い人が多く、「ちょっと休んでいれば治る」と様子見をすることで、命に関わるケースもあるという。
「更年期症状で心臓がチクチクするような感覚がある人もいると聞きますが、経験したことのある人によれば、心筋梗塞の場合は『死を覚悟するような痛み』とも言います。もし違っていても、安心を買うつもりで、動悸や息切れ、胸痛があったら、ためらわずに受診してくださいね」
教えてくれたのは上月正博先生
東北大学名誉教授。山形県立保健医療大学理事長・学長。腎臓病、心臓病、心臓リハビリテーションの専門家。著書に『100歳まで元気な心臓の育て方100』(宝島社新書)ほか。
<取材・文/遊佐信子>
