小泉今日子(60)と小林聡美(61)主演のドラマ『団地のふたり』(NHK)が始まった。2024年のBSでの放送が好評を博し、地上波でも放送が決まった形だが、視聴者の支持を集める理由とは何だろう?
小泉今日子&小林聡美が演じる団地暮らしの日常
主人公のノエチ(小泉)となっちゃん(小林)は55歳の幼なじみ。それぞれ生まれ育った団地を一度は出たものの、離婚など色々な経験をして団地に出戻っている。
正直、ふたりの現状はイマイチだ。
ノエチは大学での出世競争に脱落し、現在はしがない非常勤講師。なっちゃんはイラストレーターとしてブイブイ言わせた時期もあったが、現在は仕事はほとんどなく、フリマアプリで自分やご近所の不用品を売ったり、団地のお年寄りの手伝いをしたりして暮らしている。
ただ、彼女たちの生活は地味だけど、幸せそうだ。
ふたりは独身だし、子供もいない。一昔前に流行った言葉で言うなら「負け犬」かもしれない。ぜいたくな買い物や食べ物、レジャーを見せびらかすSNS的な幸せとは対極にいる。
それでもこのドラマに惹かれる人が多いのは、心の奥底では「もう、そんなに頑張りたくない」と思っている人が多いからではないか。
筆者(50代半ば・男性)は先に藤野千夜の原作小説を読んだのだが、特になっちゃんの状況など、思い当たる節がありすぎて、自分事のように読んでしまった(ブイブイ言わせた時期は無かったけど)。若い頃よりヒマになり、空いた時間はフリマアプリに費やしていることまで一緒だ。
劇中でノエチが「よくこんな面倒臭いことやってるよね」と言うように、正直フリマアプリは(何を売るかにもよるけど)、効率は良くない。時給として考えるなら、労働して稼いだ方が、数十倍良いに決まっている。
でもこの歳になると、若い頃には昼も夜もなく働いたし、「もう、そんなに頑張りたくない」という気持ちを、多くの人が抱いているのではないか。
『団地のふたり』が肯定してくれるもの
例えば会社員でも、定年まであと5年として、その間もお金のために勤め続けるのか。その収入は捨てても、自分の充足のために時間を使うのかは、人生の残り時間を考えると非常に切実な問題になってくる。
私がフリマで売るのは、仕事の資料として購入した書籍などが多いのだが、その一つ一つにいくばくかでも値段が付いて送り出すことで、これまでやってきた様々なことに決着を付けたい(成仏させたい?)からなのかもしれない。
正直、「こんな生産性の低いことをやってていいのか」と頭をよぎることもあるが、売れて片付いた時の快感はなかなかだ。そしてこのドラマを見るとホッとする。「もう、そんなに頑張りたくない」という気持ちは、表立って言うのは憚られるし、誰も肯定してくれない。でも『団地のふたり』は、それを肯定してくれるから、支持されるのではないか。
このドラマは大きな事件は起こらないが、原作はもっと事件が起こらない。
個人的にツボなのは、ふたりが観ているBSの番組が、依頼者の家を片付けに行く実在の断捨離番組だったり、年末の買い出しをするスーパーが新宿にある私も日常的に利用している店だったりすることだ。架空でないから身近に感じる。
さらに、なっちゃんが昔の楽譜をフリマアプリで売るくだりでは、一律2999円でオークションにかけるが、思いがけず9000円台まで値上がりするアーチストもいれば、300円まで値下げしても売れない人もいる。それがオフコースやアリス、イルカなど実名で出てくるのだ。この価格は、作者の藤野さんが実際にネットオークションをウォッチして反映させた結果なのか…などと想像して、ついニマニマしてしまう。
頑張って広い世界を求めなくても、身の回りを慈しんで暮らすだけで、生活は十分に楽しい。
本心では「もう、そんなに頑張りたくない」と思っている人は、ぜひ原作も手に取ってみてほしい。
