デビュー曲『夢見る少女じゃいられない』から30周年を迎えた歌手の相川七瀬。現在、コンサートツアーの真っ最中で、11月のツアーファイナルは武道館での公演だ。相川は「今の自分が一番楽しいです」と語る。
ヒット曲を歌う苦悩を抱えたことも
「デビュー当時は無我夢中で、目の前のことをこなすのに必死。プロデューサーの織田哲郎さんや周りの大人たちに引っ張ってもらっていました。でも30代からは自分で道を切り開かなければいけなくなって。自由だけど苦労しました。今は、その責任にも慣れ、ここ数年がミュージシャンとして一番充実しています」(相川、以下同)
結婚・出産を経験し、織田のもとを離れ、子育てをしながら音楽活動を続けてきた。'90年代のヒット曲は時に重荷でもあったという。
「ヒット曲を歌うことで『昔の曲しかない人』と思われるのではないかという苦悩がありました。時流に乗ったあのころのようにもう一度できるのかと悩みました。でも、織田さんが作ってくれたあの曲たちを超えることは、そもそもできない。そうじゃないところで自分を探すべきだと35歳くらいから納得して、過去の曲も新しく作る曲も、同等に大切なものとして動き始めました」
音楽活動の傍ら、人生の大きな軸となっていたのが子育てだ。
「30代は、自分の一番の仕事は子育てだと思っていました。3人の子どもたちのことを考える生活が充実していました。でも彼らが成長していく中で、『私はこの先どうするんだろう?』『アーティストとしてどう表現していけばいいんだろう?』と考えるようになって。そんなとき、バンドメンバーから『30周年は武道館でやろう』と言われました。当時は『武道館なんて無理だ』と思っていましたが、もう一度夢を見る力を与えてもらう中、今年その夢が実現することになりました」
大学院で学生として「祭り」を研究中
一方、音楽活動とはまったく別枠で、45歳のときには國學院大學に入学し、神道や民俗学を学び始めた。
「私は高校を中退して上京したので、『いつかは高校を卒業した証しが欲しい』とずっと思っていました。子どもたちが受験勉強を始めたときに、このタイミングで自分も一緒に勉強しようと思いつき、高卒認定試験のための勉強を開始したんです。ちょうどそのころ、國學院大學の社会人向け講座に通っていて、神道の話がすごく面白かったので、大学入学も目指すようになりました」
祖父が地元の神社の氏子で、小さいころから民俗学に興味があったという相川。今は大学院に進み、「祭りの組織の継承」を研究している。
「人口減少が進む中で、伝統的な祭りをどう守り、ピンチを切り抜けるか。その解決策を模索しています。祭りという言葉には、神事から市民祭り、盆踊りまで多様な意味がありますが、人が集まるという意味では、私たちがやっているコンサートやフェスも祭りの一つ。なぜ人は集まるのか、日本人はなぜ祭りが好きなのか。その根底を探っていくと、音楽と非常に近い構造が見えてきたんです」
祭りもコンサートも「求心力」が鍵となる。
「昔の村では、1年の労働のつらさを忘れるために『ハレの日』をつくり、神社などのシンボリックな場所を拠点に、神様を求心力にして人々が集まりました。年齢を横断し、その日ばかりは無礼講。神社はいわば人の集まる場所として機能していました。対して現代のライブも、演者が求心力となって遠くから人を集める。持ち上げている対象が違うだけで、集団のモチベーションのあり方や構造は同じなのではないかと」
音楽と学業、子育てを同時に進める日々は決して楽ではないが、今が踏ん張りどきだ。
「今は修士論文で燃え尽きて、やる気が起きなかったり、苦しいと思うこともあります。でも、今のうちに頑張っておけば、60代、70代になったときにとても楽しくなるはず。体力が衰えてライブができなくなっても、論文は書けますから(笑)。今は未来への投資だと思ってマイペースに頑張っています」
以前は大学の課題のために睡眠を削ることもあったが、現在はルーティンを徹底し、健康管理をしている。
「50歳を過ぎて体力の衰えを感じ、睡眠も『仕事』のうちと思うようになりました。12時までには布団に入り、携帯は持ち込まない。食事や運動もメニュー化して、自分の年齢と仲良くすることを心がけています。年齢的にもしんどいなと思うこともありますが、運動で解消したり、前向きに捉えています」
織田哲郎は人生のフィクサー
そんな相川の最大の理解者であり、批評家でもあるのが3人の子どもたちだ。
「新曲はデモの段階で子どもたちに聴かせます。彼らは一番シビアな目を持っていて、『覚えにくい』とか『何かの曲に似てる』とか率直に言ってくれます。若い人のフィルターが頼りになるんです。3人がいいと言った曲は、やはり覚えやすくて可能性があると感じます。先日はback numberのライブにみんなで行って、感動しました。自分一人では出会えなかった今の音楽も一緒に楽しみ、それも刺激になっています」
長男は就職し、次男RIOはプロドラマーとして活動、長女は中学生。努力をし続ける母を支えつつ、それぞれの道を歩んでいる。
「音楽業界や芸能界の厳しさはわかっていますが、反対はしません。私自身、とにかく『デビューしたい』というエネルギーの強さでオーディションを受け、織田さんという運命の出会いを手繰り寄せました。最後は本人の運と縁。どれだけ強く願い、向かっていくか。18歳を過ぎたら、あとは自分で頑張ってほしいと見守っています」
30周年のハイライトとなる武道館公演は、「運命の人」である織田哲郎と共演する。
「織田さんは、最初は父親や兄のような存在で、師匠でありプロデューサーでした。でも今は、それを超えて私の人生の『フィクサー』的な存在です。まさに人生のキーマンですね。私たちは人としての相性がすごくいいと思うので、30年以上も一緒にいられるのだと思います」
今回の武道館公演には特別な思いが込められている。
「28年前、初めて武道館に立ったとき、織田さんは舞台裏で泣いて喜んでくれました。ご自身がソロとして武道館に立ったことがなく、プロデュースした私が立てたことが自分のことのようにうれしかったそうです。今回はその織田さんと一緒にツアーを回り、武道館に挑みます。往年の名曲はもちろん、アップデートされた現在の相川七瀬をお見せしたいです」
30周年の次の10年に向けての展望もすでにある。
「海外展開を積極的に考えていきたいです。ブラジルや台湾での公演では、昔のアルバムを大切に持っていてくれるファンが世界中にいることに驚きました。また、単に歌いに行くだけでなく、研究者としての知見も生かしたいです。昨年、ブラジルのジャパン・ハウスで基調講演を行いましたが、音楽と学問を結びつけた文化交流に自分を投入することが、次の10年のビジョンでもあります」
最後に、相川らしい力強い言葉でインタビューを締めくくってくれた。
「私はいつも無知で、バーンと飛び込んでから『どうしよう!』と埋めていく人生です。賢くなりすぎると、考えすぎて大胆さを失ってしまう。無知だったからこそ、切り開けた道があります。これからも、大胆さを失わない程度の賢さを持ちながら、自分らしく進んでいきたいですね」
『Rock'N' Roll Journey -30th Anniversary Best-』 (アルバム3枚組+Blu-ray Disc 税込み9900円)
『夢見る少女じゃいられない』をはじめとする一連のヒットナンバーから、収録希望が多かった仮面ライダー主題歌『Round ZERO〜BRADE BRABE〜』『Circle of Life』も収録。Blu-ray盤には、デビュー30周年記念日(2025.11.8)に開催されたライブの模様を収録。
取材・文/紀和 静
