闘病を振り返りながら前向きに生きる大切さを語るミワユータさん 撮影/山田智絵

乳がんの手術を終えた退院の日。鏡に映る、左胸を失った自分の姿を見て、ミワユータさんの口から自然にこぼれたのは、「気に入った!」というひと言だった。不安にのみ込まれそうになった検査の日々も、仲間に支えられながら前向きに乗り越えた。その闘病の日々をユーモアたっぷりに綴ったブログ「笑える乳がん闘病記」は、多くの読者の共感を呼んでいる。

『検索禁止』は正解だった

「鏡で自分の胸を見た瞬間、“気に入った!”という言葉がするっと出てきました。手術後、退院当日のことです。すごく思い出深いワンシーンでした。新しい人生の始まりでした」

 そう話すのは、ロックバンド「Elizabeth.eight」のボーカル、ミワユータさん。乳がんを患い、2021年に左胸の全摘手術を受けた。

 乳がんの多くは自覚症状がないといわれるが、ミワさんは自身の“直感”が判明につながった。

胸を触ったとき、何かが手に触れた気がして。不思議なんですけど、しこりではなく、違和感があったんです。その瞬間、乳がんになったって思いました。それで周りにも、“私、乳がんになった”と言って」(ミワユータさん、以下同)

 知人の紹介で近所のクリニックを訪れた。マンモグラフィーや触診などの検査を経て、「ほぼ乳がんだろう」と告げられる。正確な診断は大病院に持ち越され、採血、採尿、エックス線、CT、MRI、骨シンチグラフィー、マンモトームなど、次々と検査を受けることになった。

このころが一番しんどかったですね。一つ検査をして、次の検査まで1週間あいて、の繰り返しです。その間がつらかった。敵が何だかわからない状態が一番怖いんです。これからどうなるんだろうと思って、ついネットで“乳がん”を検索したくなりました」

 そんなミワユータさんに、バンドメンバーから「検索禁止」の指令が言い渡された。メンバーの母親も過去に乳がんを患い、その経験を踏まえての助言である。

不安なときほど悪い情報ばかり目に入ってしまう。だから『検索禁止』は正解でした。ネガティブになっていいことはないし、気持ちは本当に大事だと思います

 検査の結果、正式に乳がんと宣告された。乳管から周囲へ浸潤はみられるものの、がん自体はまだ小さい、との診断だった。担当の女医には、乳房を切除したほうがリスクは少ない、ただ残しながら手術をするという方法もある、同じ女性としてはそれも大切だと思う、と言われたが─。

切っちゃいましょう! と、その場で言いました。先生は、持ち帰って考えてと言っていたけれど。敵がわかって、やっつけ方がわかったら、やるしかない。そこからは全然怖くなくなりました。

 今までいろいろな病気をしてきたけれど、それと比べたら乳がんは全然マシでした。だってごはんも美味しく食べられるし、遊びにだって行けるのだから

原因不明の髄膜炎で倒れ救急搬送

 ミワユータさんの半生は病気との闘いだった。10代のころから希死念慮を抱え、双極性障害の薬を常用してきた。2006年にバンドを結成し、年間150ステージをこなすも、2014年に原因不明の髄膜炎で倒れ、救急搬送。

乳がんによる左胸の全摘手術後に撮影。「ありのままの自分」を表現した一枚 写真提供/ミワユータさん

 失音楽症に半身麻痺、幻覚など、ひどい後遺症に悩まされた。自覚のないまま暴れ、拘束されたこともあったという。ステージ復帰まで、入院治療と長いリハビリを行っている。

「ようやく調子が良くなって日常を取り戻したと思ったら、今度は乳がんになって。まったく、慌ただしい人生です(笑)」

 闘病をそばで支えてきたのが、バンドメンバーたちだ。メンバーとは10代のころからの付き合いで、シェアハウスで生活を共にする間柄。ミワユータさんはバンドの紅一点で、検査や入院、手術まで、3人のメンバーが代わるがわる付き添っている。

「3人を“内縁の夫”ということにして。だから私、病院では謎の女だと思われていたはず(笑)。手術後に目が覚めたときも“内縁の夫”の1人がそばにいました(笑)」

 検査に入院、手術、抗がん剤治療と、がんは高額な医療費が必要となる。しかし、脳炎を患った関係で、保険には入れず、費用は心もとない。そこで、メンバーが制作したチャリティーTシャツの売り上げを治療費に充てた。術後の治療方針を決めるときのことだ。

「手術で摘出した検体をアメリカに送り、再発率やどの抗がん剤が合うか調べることができると言われました。ただそれには40万円もかかると。すると付き添いで来ていたメンバーが、“やります!”と言い出して。みんながTシャツを買ってくれたお金がまだある、だから出せると……」

 手術は無事成功。5日間の入院生活を経て、予定より早く退院の日を迎えた。

「早くステージに立ちたい、その一心で、巻きで退院させてもらいました(笑)」

 念願のステージに復帰。通院治療は続くも、「手術前にも増して、めちゃめちゃ音楽活動やってます」とパワフルだ。

絶対に大丈夫! って言っていると、不思議とそうなっていく

「でも、昔はすごくネガティブだったんです。希死念慮もあったし。それでもなんで助かってきたかというと、私にはたぶん役目があるんだろうと考えて。それがブログを始めたきっかけでもありました」

左胸の全摘手術を乗り越え、再びステージへ。現在も精力的に音楽活動を続けている 写真提供/ミワユータさん

 ミワユータさんが入院中から書き続けてきたのが、ブログ「笑える乳がん闘病記」。告知から入院、手術、抗がん剤の副作用による脱毛まで、ユーモアを交え赤裸々に綴っている。

「私と同じように病気になって不安を抱えている女性のために、くすっと笑える瞬間をつくろう、そのために全力を尽くそうと思って」

 ブログは大きな話題を呼び、アメブロランキングJ―POP・ROCK部門で名だたるアーティストを抑え1位を獲得。2022年にAmeba Award優秀賞を受賞。

 ブログで発信するミワユータさんのメッセージは前向きで、読み手の背中を力強く押す。

「私が特別強いんじゃないかと言われるけれど、スイッチ1つだと思う。ネガティブなことを言えば言うほど、落ち込んでいく。逆に、何の根拠もなくても、絶対に大丈夫! って言っていると、不思議とそうなっていくんですよね。私が誰かのスイッチを入れるきっかけになればうれしい

 手術から5年。病気を克服した今、ミワユータさんにはある野望があるという。

「病気というのは、日常生活を貸してあげることだと思うんです。絶対に利子をつけて返してくれる。利子が返ってくるのを楽しみにしながら、前向きに治療をするのがいい。それが病気をした結果、思ったこと。

 私にとっての利子は、『笑える乳がん闘病記』を書籍化すること。そして宮藤官九郎さんにコメディー映画にしてもらい、その主題歌をElizabeth.eightが歌う。きっと叶うと信じています!」

ミワユータ ロックバンド Elizabeth.eight のボーカル兼ソングライター。2014年に脳炎、2021年に乳がんを経験し、闘病を綴ったブログ「笑える乳がん闘病記」が話題に。2022年、Ameba Award優秀賞を受賞。


取材・文/小野寺悦子