7月24日に公開された『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』。SNS上では《子供を連れて行ったら大ダメージを受けた》《上映後の親御さんはお通夜の表情》という感想が相次ぎ、話題を呼んでいる。
子ども向けだと油断していた大人
本作では、ちいかわたちが討伐合宿の募集を知り、とある島へ向かう。観光を楽しみながら、徐々に「セイレーン」が島民を襲う理由と、一部の島民が隠している秘密がわかってきて……というストーリー。なんともいえないラストに反響が集まっているのだ。
映画ライターのよしひろまさみちさんは、この作品が持つ普遍的なテーマ性をこのように指摘する。
「負の連鎖の原因がわかっても誰も幸せにならず、秘密にすることで悲劇が拡大し、収拾がつかなくなる。諍いを続けるのが正しいのかやめるべきかという構造は、戦争映画にあるテーマ性と酷似しています」
これまでも『クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』(2001年)など、大人が「食らってしまう」子ども向け作品が公開されてきた。いったいなぜ、心を揺さぶられてしまうのだろうか。
「大人になるにつれ、他者への優しさは自分の理性と倫理に基づき、人の争いや社会の不条理を描く映画のベースになっています。でも、絶対善と絶対悪のもとで成長過程にある子ども向け作品にそれを当てはめると、シンプルに気持ちがバグります。
子ども向けだと油断していた大人には『こんな難しいものを見せるつもりじゃなかったのに』という感情とともに、見るのを避けていたものをストレートに食らい、重く突き刺さってしまうのでしょう」(よしひろさん、以下同)
さらに、脚本を原作者のナガノ氏自身が手がけている点についても、明確な戦略があるのではと話す。
「かわいいだけ、ちょっとシニカルなだけではキャラの人気、寿命に限界があります。ちいかわはテレビシリーズで『わかりにくい毒』を仕込んできましたし、それが味にもなった。初長編で『わかりやすい猛毒』を投入することで、別の支持層を取り込み、キャラクターの成長幅を広げようと考えているのではないでしょうか」
来場者特典やコラボ企業のラインナップまでもが話題になるほど圧倒的な「ちいかわ市場」。対象は子どもだけを意識しているわけではないことを、上映時間からも読み解く。
「もちろん映像作品はあくまで子ども目線。これまでは子どもが飽きない短編ですし、少々の皮肉や不条理はあるものの、道徳的なエデュケーショナルタイトルのひとつでもあると思います。
ただ、今回の長編映画は別で、国内の子ども向け長編は80〜100分がセオリーですが、今作の99分は幼児向けには長すぎ、小学生にもギリギリの尺です。短編でできなかったストーリー性の拡大とともに『未見の層』を取り込む狙いを感じます」
「ちいかわ未履修組」の大人をも魅了し、さらに大ヒットを生む“ひみつ”があった。
