渥美清

以前、夏休みと正月は、この映画の新作が見られると、楽しみにしていた人も多かった『男はつらいよ』シリーズ。今見ても、昭和の時代感や人情が画面からあふれ出している。そんな全48作の中から、思い出に残る一本をアンケート調査。あなたの心では、どの寅さんが笑っていますか?

唯一無二の名コンビ

 26年間にわたってお盆や正月の風物詩として公開されてきた名優・渥美清さん主演の『男はつらいよ』シリーズ。目を瞑ると、今もあの寅さんの姿が目に浮かぶファンも多い。

 しかも48作もの作品が製作され、「一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズ」としてギネスブックにその名を刻んでいる。 

 今年8月4日は、後に「国民栄誉賞」を受賞した渥美さんの没後30年に当たる命日。そこで全国の40代から70代の男女300人に好きな寅さん映画についてアンケートを行った。はたして48作のうち、ナンバー1に選ばれた作品は?

 13票を集め、4位にランクインしたのは、第25作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』(1980年)。

 浅丘ルリ子演じるクラブ歌手、リリーが5年ぶり3度目の登場となった。物語は、リリーが沖縄で倒れたことを知った寅さんが、飛行機嫌いにもかかわらずすぐに駆けつけて献身的に介抱するところから始まる。

 そのかいあってリリーは元気を取り戻してふたりは部屋を借り、一緒に暮らし始める。リリーに告白されるが、はぐらかす寅さん。まるでトムとジェリーのようなやりとりを繰り返すふたり。

 アンケートでは、「昭和の時代感、寅さんの生き方、そして寅さんとマドンナの掛け合いが素晴らしい」(大阪府・男性・70歳)

 など、ふたりの名コンビぶりに注目が集まった。

寅さんを演じられるのが渥美さん一人なら、リリーを演じられるのも浅丘さんただ一人。ふたりは共に唯一無二の存在でしょう。リリーが登場する4作品は、大ヒットを記録しています。浅丘さんにとっても最大の当たり役ですね」

 と、同人誌『文芸日女道』編集人で『男はつらいよ 映画評論集「それを言っちゃあおしめぇよ」』著者のウチダスエヒロさんは、こう話す。

 同じく13票を集めて4位にランクインしたのは、風吹ジュンがマドンナを務めた第45作『男はつらいよ 寅次郎の青春』('92年)。

 宮崎の理髪店主・蝶子(風吹)と親しくなった寅さんは彼女の家に居候することに。そして、結婚式のために宮崎を訪れた泉(後藤久美子)と偶然、再会する。足をくじいた寅さんを見舞いに来た甥の満男(吉岡秀隆)が、蝶子の弟と泉の仲を誤解する一幕も描かれる。

 やがてケガが治り、柴又へ帰るという寅さんに蝶子は突然激怒。その理由をめぐって喧々囂々する寅さんたち。フランス映画『髪結いの亭主』を下敷きにしたこの作品には、

「お笑い要素の多いドタバタと、勘違いの恋愛描写と安定のお涙頂戴ストーリー」(新潟県・男性・59歳)

 などといった称賛コメントが寄せられている。

「第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』('89年)以来、寅さんの恋のゆくえもさることながら満男と恋人・泉の恋愛を描くWストーリーが定着して観客動員も200万人超えをキープしています。18歳になったゴクミの美しさは目を見張るばかりです」(ウチダさん)

リリーの直訴にも曲げない“美学”

 第3位には19票を獲得した第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』('95年)がランクイン。

「当時渥美さんは、病に侵されていて大変な撮影だったと後から知りました」(東京都・男性・72歳)

 くしくもシリーズ最終作となった本作。式場へ向かう花嫁姿の泉に「結婚をやめろ」と叫んで台無しにしてしまう満男。一方の寅さんは、リリーと奄美地方の加計呂麻島へ帰る。ハッピーエンドかと思いきや、最後に別れも告げず、震災から復興を目指す神戸に姿を現す。

浅丘ルリ子

 永遠の旅人・寅さんの面目躍如たるラストシーンは見ごたえ十分である。

「リリーを演じる浅丘さんが、渥美さんの体調を気にして“ふたりを結婚させて”と山田洋次監督に直訴したのは有名な話です。それでも結婚させなかった。そこが『男はつらいよ』の美学ではないでしょうか」(ウチダさん)

 22票を獲得して、第2位にランクインしたのは国民的女優・吉永小百合をマドンナに迎えた第9作『男はつらいよ 柴又慕情』('72年)である。これには、

「寅さんが織りなす人情味あふれる笑いと、マドンナ役の女優の魅力」(東京都・女性・75歳)

 などといった声が。

 金沢で出会った歌子(吉永)に寅さんはまたもや一目惚れ。温かい団らんに心惹かれた歌子も、「とらや」をしばしば訪れる。しかし歌子には陶芸家の恋人がいるが、父の反対にあい結婚に踏み切れないでいた。さくら(倍賞千恵子)夫婦に相談して、結婚を決意する歌子。心の内を隠して寅さんも祝福する。

「第1作から第6作までは、寅さんが一方的に惚れてフラれるドタバタ喜劇でした。しかし今作は、歌子が寅さんと知り合うことで、幸せになる新しいスタイルが生まれました」(ウチダさん)

 自ら身を引くことでマドンナを幸せにする。そんな寅さんの“究極の恋愛哲学”が生まれるきっかけとなる作品となった。

「ふさわしい」栄えある1位に輝いたのは

 いよいよ第1位。28票を獲得して見事トップに輝いたのはシーズン第1作の『男はつらいよ』('69年)だ。

「何といっても、舞台でも活躍していた光本幸子さんの愛嬌ある淑やかな演技と、寅さんの掛け合いです」(京都府・男性・74歳)

50周年寅さんファン感謝祭 撮影/高梨俊浩

 記念すべき第1作は、寅さんが20年ぶりに柴又に帰ってくる。歓迎ムードもつかの間、さくらの縁談をぶち壊してまたもや旅に出る。

 奈良で御前様(笠智衆さん)とその娘・冬子(光本さん)と再会。幼なじみで気さくな冬子に恋した寅さんは帰京して冬子のもとへ日参する。冬子を演じる光本さんは、新派出身で初代水谷八重子さんの弟子。山田洋次監督は彼女について、

「劇団新派で鍛えられた演技の確かさと背筋の通った凛とした美しさは、48作続くことになったシリーズの初代マドンナにふさわしいものでした」

 '68~'69年にテレビドラマとして放送された『男はつらいよ』。ヒットしたが、当時ドラマは「電気紙芝居」と揶揄される時代だった。

「映画化には松竹社内でも反対の声が強かったようです。そこで山田監督が当時の城戸四郎社長に直訴して、映画化にこぎつけました。寅さんと冬子。さくらと博(前田吟)。ふたつのラブストーリーを見事に描いた。シリーズ第1作にふさわしい、よくできた作品ではないでしょうか」(ウチダさん)

 今回のアンケートでは惜しくもランキング入りを逃したが、ウチダさんが選ぶナンバー1。それは第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』('75年)である。

 結婚に失敗したリリーは、再び歌手として旅暮らし。函館の屋台で寅さんと偶然再会して、さえない中年男性・兵藤(船越英二さん)と共に3人そろって旅に出る。

「パパさんこと兵藤が持ってきたメロンをめぐって起きる“メロン事件”。寅さんが雨の降る柴又駅にリリーを迎えに行く相合い傘シーンなど、シリーズ屈指の名場面ぞろいで見どころ満載。ぜひ見てもらいたい作品です」(ウチダさん)

 渥美清さんの没後30年をきっかけに、寅さんシリーズを見直してみてはいかが。


取材・文/島 右近