記録的猛暑や突発的なゲリラ豪雨のリスク、混雑による疲労、そしてチケットや交通費の高騰――。
夏を彩る大型イベントにおいて、現地へ足を運ぶハードルは年々高まっている。その一方、自分のスマホやテレビを使った配信や中継を楽しむスタイルが、新たな“賢い選択”として浮上している。
急激に増える配信派
今年で開催29回目を迎えた「フジロック・フェスティバル'26」は、昨年に続きAmazonを通じて現地・苗場の模様が全世界に向けて無料でライブ配信された。公式Xでは「苗場には来られなかった多くの方にも視聴いただきました」と報告している。
また、日本を代表する「隅田川花火大会」を筆頭に、さまざまな花火大会においても、テレビ中継やYouTubeでも同時配信が行われた。
SNS上では、
《現地でしか味わえない事もあるだろうが、家で涼しい所でみられるなんてとても贅沢》
《涼しい家で画面越しに観る花火で満足できてしまう自分がいる》
《何年か前に現地でみて大変だったから、それ以降は配信で見る派になりました》
といった声があり、配信で落ち着いてエンタメを楽しめる喜びの声が見られた。
なぜ近年、「現地に行かず、配信で楽しむ」スタイルがここまで一般化したのか。芝浦工大デザイン工学部教授の原田曜平さんは、大前提として、スマホ視聴の定着を指摘する。
「過去にはスマホで映像なんて見ないといわれた時代もありましたが、今はNetflixの大作映画もスマホで見ることが当たり前の時代になりました。特に若い層にはこの数年のTikTokの影響が大きかったのではないでしょうか。
YouTubeまではパソコンで見ていた人も多かったと思いますが、TikTokは完全にスマホです。しかもあまり投稿されず見るもので、TikTokがスマホ視聴を完全に定着させた、と言えるのではないでしょうか」
手元のデバイスで高品質な映像コンテンツを日常的に消費するようになったことが、イベントのオンライン参加への心理的ハードルを大きく下げたのだ。
これを前提に、現代のイベントにおける消費には特徴的なトレンドもいくつか見られるという。
「まず、一つ目に『メリハリ消費』の特徴がみられます。普段の生活費は徹底的に節約する一方で、価値を感じる『推し活』やイベントには惜しみなく大金を払うという二極化が顕著です。現地に行かない層は配信(数千円〜無料)でスマートに楽しみ、支出をシビアにコントロールしています」(原田さん、以下同)
時間と快適さが最優先に
SNS上の「涼しい家で見たい」という声にも当てはまる、「タイパ(時間対効果)重視の『快適・安全』投資」も特徴の一つだ。
「かつての『何時間も並んで汗だくになり、混雑に揉まれるのが醍醐味』という価値観は薄れ、『いかにストレスなく快適に楽しむか』が重視されるようになっています。
混雑を避けるための優先入場パスや有料観覧席の確保、あるいは移動疲労や熱中症リスクを回避して自宅で快適に配信を観ることも、すべて『快適さ』という価値に対するタイパ消費の一環といえます」
また、原田氏は「プロセス共有型・タイムライン(TL)消費」にも着目している。前日の準備から、帰宅後の配信見逃し視聴・切り抜き動画の拡散まで、一連のプロセス全体を楽しむ傾向があるという。
「『現地でしか味わえない熱量(非日常感)』をリアルタイムでSNSに投稿して承認欲求を満たす行動(TL映え)と、現地に行けなくても『XやYouTubeコメント欄でみんなと実況しながら観る』というオンライン上の現場感を楽しむ行動が並行して起きています」
このようにリアルとオンラインが共存する今年の夏の風景だが、今後の両者の関係性について、原田さんは次のように予測する。
「僕はオンライン配信に潮目がきてしまうように思います。AIでなんでも好きな画像や動画が作れてしまうので、『行かなきゃ見られなかったものがスマホで見られて便利だ』という価値が減ってしまう時代になったと思います。
一方、リアルな体験はAIでは体現できないので価値が高まるように思います。ただし、AIで相当な刺激を受けられるようになっているので、単に体験させれば良いだけではなく、想像を超える超体験をさせないといけないと思います」
配信でスマートに楽しむ観客が増える一方で、イベント主催者には「AIを超える超体験を届けねばならない」というプレッシャーが新しくのしかかる。来年の夏、一番汗だくになっているのは、現場のプランナーかもしれない。
現地派も配信派も一長一短。それぞれのスタイルで新しい夏の定番を楽しみたい。
