昨年、連続ドラマで多くの反響を集めた『しあわせは食べて寝て待て』の後日談『早春の養生編』が、8月18日に放送された。現在、NHKでは『団地のふたり』も好評放送中で、なぜこんなにも“団地ドラマ”が支持されるのだろうか?
『しあわせは食べて寝て待て』『団地のふたり』など“団地ドラマ”に集まる支持
このふたつの作品には共通点が多い。
一つ目は外部で傷ついた主人公たちが、団地暮らしで癒されるという構図。桜井ユキが演じる『しあわせは』の主人公は、膠原病を患った上に、同僚から嫌がらせを受けて勤め先を退職。家賃11万円のマンションに住めなくなり、5万円台の団地に引っ越す。
『団地のふたり』は子供時代に住んでいた団地への出戻り組で、小泉今日子はバツイチで、大学での出世争いにも敗れて非常勤講師に甘んじている。小林聡美は売れっ子イラストレーターだったが、最近は仕事が減り、ふたりとも実家の団地なので生活が成り立っている状態だ。
二つ目は高齢者との触れ合い。桜井は大家で隣人の加賀まりこにお節介を焼かれているうちに心身の元気を取り戻してゆき、小泉と小林は由紀さおりら団地のお年寄りたちの網戸を直してあげたり、不用品をフリマアプリで売ってあげたりしている。
三つ目は食事を中心とした質素な生活。『しあわせは』は、加賀やその同居人・宮沢氷魚が教えてくれる、季節の野菜を取り入れた薬膳が桜井の健康を安定させていき、『団地のふたり』の小林の食事も、おにぎりや焼いた野菜が中心で、ご褒美は行きつけの喫茶店のホットケーキという堅実ぶりだ。
こうした要素はきっと、頑張り過ぎで疲れている現代人には刺さるのだろう。
団地には昭和の昔と変わらぬ空気が流れていて、のんびりしたお年寄りたちとのやり取りにもホッとさせられる。筆者が想像したのは、同じ団地の住人なら、生活レベルも似たり寄ったりなはずで、誰かと競争する必要も、見栄を張る必要もないのがいいだろうなということだ。
体力仕事やパソコン操作など、高齢者には難しいことを若い世代がやってあげて喜ばれるというのも、実際にある話だろう。高齢者はお礼に手作りの総菜などをわけてあげて、Win-Winの関係というのは理想的だ。
人の役に立って感謝されることは承認欲求も満たしてくれ、職場でイマイチな人でも、団地なら人の役に立てると実感が持てることもあるだろう。そんなやりがいを求めてか、近年は自ら好んでレトロな団地に入居する若者も増えているという。
不健康な食事で胃もたれしている人たちに、シンプルな食事が沁みるように美味しいのも理解できる。
団地の堅固な建物は、刺激の強い外界から謝絶し、守ってくれる象徴でもあるのだろう。このエリアの中にいれば安心なのだと。かつては「揺りかごから墓場まで」といって、大型団地の中に保育園や小学校から、商店や金融機関、年を取って世話になる病院まであって、文字通り一生暮らせる安心な住処だったのだ。
実際の団地はユートピア?
でも、本当に団地はユートピアなのだろうか?
現実の多くの団地では、住民の高齢化が進み、団地内の商店はどんどん閉店し、暮らしにくくなっている。
そして出ていった子供たちとは疎遠になり、独居老人が増加した末の孤独死。団地で取りざたされるニュースは決して明るくない。
我が家の近所にも、昭和40年代に建造した、都内でも有数の巨大団地がある。端から端まで700mほどあり、両端の棟の1階に商店街があって、かつては繁盛していたようだ。だが現在は、西端は団地の外にもスーパーマーケットなどがあって恵まれているが、東端はほぼシャッターが閉まっている。土地に高低差があることもあり、東端の高齢者は同じ団地内で日々の買い物をするのにさえ、バスに乗らねばならないだろう。
それと、スーパー前の広場にいつも団地の高齢者たちが男女混じってたむろしているのだが、恥も外聞もなくなってしまったのか、お世辞にもきれいとは言えない言葉で、下品なジョークを大声で言い合ったりしている。その姿は加賀まりこや由紀さおりとは大違いなのだ。すすけた団地と一緒に心もすさんでいるようで、ああはなりたくないなという…、もちろんこれは人間性や地域性の問題なのだけど、悪い見本を知っているだけに、手放しで幻想は抱けないのだ。
そして何より最大の問題は、取り壊しの可能性も視野に入っていること。多くの団地が築50年を数え、耐震性を考えても建て替えは避けて通れない問題だ。住民は無条件で新たな建物に入れると思いがちだが、『しあわせは』でも、建て替え後に入居するとしたら住人は新たに2千万円ほどが必要だと話していた。
そうなると、桜井や小泉&小林もきっと、今の団地を出て、どこか別の住居を探さなければならなくなるだろう。今だけかもしれないという刹那性は物語としては魅力の一つではあるのだが、住民にとってはドラマチックなどとはいっていられない大問題だろう。
団地に幻想を抱きすぎるのは禁物だ。
でももちろん、そんなことは制作サイドも多くの視聴者もわかっているだろう。
人間関係が希薄な現代社会では、隣近所の付き合いが見直されてきている。だけど現代では、昔のように立ち入り過ぎた関係は求められていない。ポイントはそれぞれが自立していることで、付かず離れず、困った時には力を貸し合えるような、ほど良い距離感。それを体現しているのが登場人物たちだ。
そんな人間関係が築けるような気がするから、団地を舞台にしたドラマが作られ、視聴者は引き付けられるのだろう。
『しあわせは』のさらなる続編も期待してしまうが、その時は建て替え問題を乗り越える主人公たちの姿も見てみたい。
